「キカイダー01」感想メモ ~進化したヒーロー活劇、深化した「心」のドラマ~

2023年7月15日土曜日

キカイダー01 感想

t f B! P L

 「聞こえてくる正義の叫び」

空前の「変身ブーム」を背景に企画され、「ロボットロマン」を志向し、「心」を持った機械が織りなすドラマを重厚に描いた「人造人間キカイダー」。
それは、子供たちから圧倒的な支持を受けていたお化け番組「8時だョ!全員集合」の裏番組でありながら予想以上の人気作品となり、当初ターゲットとして意図されていた低学年児童はもとより、高学年~中学生をもターゲットに出来るほどの人気の高まりを見せていた。
東映とNET(日本教育テレビ、現テレビ朝日)はこの人気を踏まえ、第4クールを迎えようとしていた「人造人間キカイダー」人気を不動のものとするべく、その続編として新たな主人公キャラクターを登場させた新番組の制作を決定する。それが「キカイダー01」だ。

「人造人間キカイダー」の強化策として企画された「 キカイダー01」は、「人造人間キカイダー」の放送延長枠として企画された作品という側面を持っている。
そのため、「キカイダー01」には、「人造人間キカイダー」の主人公であるジロー=キカイダーのレギュラーとしての登場が前提となっており、新たな主人公キャラクター、キカイダーゼロワンとの「キカイダー兄弟」が織りなす活躍が番組の見せ場として企画されている。

新たな主人公、キカイダーゼロワンは、ジロー=キカイダーの「兄」として設定され、光明寺博士によって仁王像の中に封印されていたが、日本の悪の高まりに呼応して蘇った正義の使者だ。
普段はイチローと呼ばれる青年の姿でさすらいの旅を続けるゼロワンは、悪の現れるところにトランペットの音色とともに現れ、決して怯まない強い意志で悪と戦う。
イチロー=ゼロワンは、不完全な良心回路のために苦しんできたジロー=キカイダーと異なり、完全な良心回路を持つことが企画書で言及されており、苦悩することが多かったジローと比べ、従来のヒーロー像に近い頼れる兄貴分としての性格が強調された。
また、ジローの持つ不完全な良心回路にあたる、ドラマを盛り上げるための弱点としては、エネルギー源である太陽電池が働かない夜間や暗闇に支配された洞窟などではゼロワンにチェンジすることが出来ないという設定がされており、そうした状況ではジロー=キカイダーが駆けつけ兄であるイチローを助ける、という見せ場が企画段階から設定されている。
一方で、完全な良心回路を持つゼロワンは、不完全な良心回路を苦しめるギルの笛によって苦しむことはなく、ギルの笛によって悪への誘惑に苦しむジローを救うことが出来る。いわばキカイダー兄弟は、お互いの弱点をお互いの長所によって補い合う事ができる、持ちつ持たれつの関係性として描かれていた。新ヒーローであるゼロワンが全てにおいて優れている、という単純な構図ではない設定によって、キカイダー兄弟は対等の関係として描かれたのだ。

こうして完全な良心回路を持つ頼れる正義の戦士、キカイダーゼロワンを主人公にした「キカイダー01」は1973年初頭には早々に制作が決定する。しかしここで制作上の問題が発生した。
「人造人間キカイダー」はもともと制作スケジュールが遅れ気味であると同時に、夜8時台という放送時間帯のスポンサー料の高騰やマーチャンダイジングの不振などの影響もあり、制作に必要な準備期間と予算の両面において余裕がない状況へと陥ったのである。
この危機に対し、制作陣は「人造人間キカイダー」において入念な戦略とともにデビューさせ、視聴者からの人気を獲得した宿敵、ハカイダーの再登場を決定。
それにより、敵ロボットのスーツの製作にかかる準備期間と予算の解決を図ろうとした。
さらに制作陣は、ハカイダーのマスクやスーツが複数あったことに目をつけ、スーツをリペイント、色違いのハカイダーが4人並んだ「ハカイダー部隊」を結成させ、ハカイダー4人衆とゼロワンとの死闘という構図を展開することで、準備期間と予算の問題の解決を図りつつ、人気キャラであるハカイダーが多数登場するという視聴者へのファンサービスにも対応した。

ドラマ面においては、「人造人間キカイダー」終盤の連続ドラマ性の高い作風が好評を博したことから、シリーズを通した縦軸を展開して視聴者の興味を惹きつける作劇が行われている。
そうしてシリーズ序盤の縦軸の中心となったのが、「人造人間キカイダー」で壊滅したダークの首領、プロフェッサー・ギルの遺児である少年、アキラだ。
記憶を失って彷徨い、ハカイダー4人衆によって執拗に狙われる彼の背中には、プロフェッサー・ギルが遺した最終兵器、ジャイアントデビルの設計図が刻まれていた。
悪の高まりに呼応し蘇ったイチローはハカイダー部隊からアキラを助け、なぜ自分が狙われているのかもわからないアキラをハカイダー部隊の魔手から守るために戦いを繰り広げるのである。
アキラがなぜ狙われているのか、そしてハカイダー部隊の目的はなにか。謎が謎を呼ぶ構図で視聴者の興味を引き、やがてハカイダー部隊をも超える大犯罪組織シャドウの登場に繋ぐ。
ハカイダー部隊の早期の壊滅と大犯罪組織シャドウの登場というシリーズ構成は企画書の段階ですでに盛り込まれており、激動の展開でシリーズを盛り上げる構想がなされている。
こうして「キカイダー01」の企画の骨子は完成した。
今、天が遣わした無敵の人造人間ゼロワンの正義の旅路が幕を開けようとしていた。

「この世に悪のある限り」

第1話「無敵!!人造人間ゼロワン誕生」は、キカイダーがダークを壊滅させてから3年の歳月が経過し、平和が訪れていた地球に、新たなる悪の組織が胎動するところから始まる。
それは、頭部にプロフェッサー・ギルの脳を移植することで蘇ったハカイダーが、自らと同型の人造人間にダークの科学者の脳を移植することで生み出した、レッドハカイダー、ブルーハカイダー、シルバーハカイダーの三人の「兄弟」と結成したハカイダー部隊だ。

かつて孤高のダーク・ヒーローとして、決して群れず、己の美学と信念だけを頼りにキカイダーに挑んだ三郎ハカイダーの面影はそこにはなく、前述したプロフェッサー・ギルの遺した最終兵器、ジャイアントデビルを完成させ世界を支配するという野望のために徒党を組み、よってたかって非力な子供の身柄の確保を狙うその姿は、見た目はほぼ同じハカイダーでありながら、その実全く異なる人格を持った外道へと堕ちたことをひしひしと感じさせる。
このギルの脳を搭載し蘇ったハカイダーは、ファンの間ではギルハカイダーと呼ばれ、前作に登場した三郎ハカイダーとは別のパーソナリティを持つ存在であると認知されている。

かくして世界征服を目論むハカイダー部隊の攻撃が日本を襲う中、その悪のエネルギーの高まりを感知して、とある寺の仁王像の中から1人の人造人間が蘇った。
それが光明寺博士がキカイダーより先に完成させていた、キカイダーゼロワンである。
ゼロワンが、天が遣わした正義の使者であることを強調する仁王像からの復活シーンは、オープニング映像の中に毎回挿入され強い印象を残している。

ハカイダー部隊に狙われるアキラと、彼を影から守る謎の女性、リエコを巡る謎が謎を呼ぶストーリーが展開される中、ハカイダー部隊の強力なハカイダー四段攻撃によって窮地に陥るゼロワン。彼を救うべく、前作のラストで精神を鍛える旅に出ていたジロー=キカイダーが帰還した。
ダブルキカイダーは番組的には初対面でありながら、既に兄弟の絆を備えており、そのコンビネーションで戦うダブルキカイダーの活躍が存分に描かれることになる。
先行して制作されていた「仮面ライダー」において、ダブルライダーというイベントとして既に描かれていたヒーロー同士の共演。そんな大イベントを、「キカイダー01」においてはキカイダーもレギュラーキャラクターの1人であるという強みを活かし、毎回のようにヒーローの共演シーンが実現するという豪華な展開を見せ、視聴者を魅了した。

初期数話こそ、制作スケジュールの都合から準備が容易だったハカイダー部隊やその手下となる戦闘員のアンドロボットのみが登場していた「キカイダー01」だが、第4話からは固有の怪物ロボットが出現してゼロワンに挑戦することになる。
ここでの特色は、その怪物ロボットはハカイダー部隊のハカイダー一人ひとりが固有の怪物ロボット形態に変身した姿だったことだ。「仮面ライダー」において、ショッカーの大幹部がその正体である怪人の姿を現す回はビッグイベントとして演出され、シリーズを盛り上げていた。
「キカイダー01」はその構図を取り入れ、ハカイダー部隊の幹部(と言っても、配下に怪人は存在していないが)であるハカイダーたちが怪物ロボットの姿を表してゼロワンとキカイダーに挑戦するという構図を早々に導入した。
毎回が大幹部との決戦というイベント編の連続という豪華なシリーズ展開を見せたのである。
それは先行する「仮面ライダー」を、そして裏番組の「8時だョ!全員集合」をも超える話題を子供たちに提供し、作品人気を高めようとした制作陣の努力の表れとも言える。

ハカイダー部隊は次々に怪物ロボットに変身していきゼロワンに挑戦したが尽く敗北。
最終的にハカイダー部隊は4体合体し、異形の怪物ロボット・ガッタイダーへと姿を変えるが、ダブルキカイダーの活躍によって粉砕、合体回路を破壊される。
しかしそれと同じくしてゼロワンの前に姿を現したのが、大犯罪組織シャドウの幹部、シャドウナイトである。やはりジャイアントデビルの完成を目論むシャドウの命を受け現れたこの強敵の登場を期に、「キカイダー01」はダブルキカイダーとハカイダー部隊の戦いから、大犯罪組織シャドウの陰謀を阻止すべく戦うゼロワンの戦いへと移行していく。
ハカイダー部隊はその後、ダブルキカイダーによって全滅。
唯一生き残ったギルハカイダーはシャドウの首領、ビッグシャドウによってシャドウに迎え入れられ、破壊された三人のハカイダーの復讐のためゼロワンを狙うのであった。

「恐怖の巨人デビル始動」

こうして企画段階から想定されていた、ハカイダー部隊の壊滅と世界大犯罪組織シャドウの登場により「キカイダー01」の物語のボルテージは更に高まり、アキラに秘められた最終兵器ジャイアントデビルの心臓部の秘密を巡る正義と悪の戦いがさらに激化することになった。
世界大犯罪組織シャドウの送り出す怪物ロボットは、より怪奇性を高めた妖怪をモチーフにしたロボットが続出。怪談シリーズとでも言うべき連作において、幽霊女や化猫ロボット、シャドウロクロやお岩フクロウといった、もはやロボットというより妖怪そのものロボットが出現。
ダークの怪物ロボットやハカイダー部隊のロボットとも異なる、シャドウロボット独自の怪奇性が追求され、1973年頃のオカルトブームに湧く子供たちの興味をさらった。

一方でシャドウの客分となったハカイダーの心理描写が追求されたのも、この時期のエピソードの特徴である。世界大犯罪組織シャドウの首領であるビッグシャドウに迎え入れられたとはいえ、所詮は敗軍の将にすぎないハカイダーの立場は弱く、シャドウナイトに軽んじられる日々。
ゼロワンへの敗北感と、ダブルキカイダーによって全滅したハカイダー部隊の復讐の念にかられて独断専行し、何度もゼロワンへ挑戦するが勝利を掴むことは出来ない。
ハカイダーの心理的葛藤の描写は、悪への戦いへの葛藤が存在しないゼロワンとの対比として描かれ、シリーズ後半に描かれる「心」を持った人造人間たちの愛憎のドラマの萌芽を見せる。

並行して放送されていた「仮面ライダーV3」が、前作「仮面ライダー」の大幹部の復活というイベント編を展開し番組を盛り上げたように、「キカイダー01」も「人造人間キカイダー」で強い印象を残したダークの首領、プロフェッサー・ギルの再登場というイベント編を展開した。
シャドウナイトがハカイダーの頭部に収められたギルの脳に照射した死霊呼び戻しビームによって呼び出されたギルの霊は、最終兵器ジャイアントデビルの設計図が、ギルの遺児であるアキラともう一人の子供の背中にあるという情報を世界大犯罪組織シャドウにもたらす。

かくしてギルのもう一人の子供、ヒロシとその世話をしている男勝りの女性ミサオがレギュラーに加わり、彼らを捕らえてジャイアントデビルの完成を目指すシャドウの暗躍が始まった。
そしてゼロワンとシャドウの激戦の果て、ヒロシの持つ設計図はシャドウの手中のものとなり、ジャイアントデビルの頭部が完成。さらに心臓部の設計図を持つアキラも捕まってしまう。

このジャイアントデビルの脅威は第18話「史上空前絶後!!人造人間大爆発」冒頭において、大々的な特撮を用いた都市破壊シーンで存分に描かれており、未完成の状態でありながら絶大な破壊力を持つ最終兵器にふさわしい演出が行われ、もし心臓部を加え完成してしまえばダブルキカイダーも危うい…という実感を持って視聴者を戦慄させた。
ジャイアントデビルはその圧倒的な火力で、アキラを救出したダブルキカイダーを追い詰めるが、キカイダー兄弟のエネルギーを合わせたダブルブラザーパワーによって破壊される。
こうして「キカイダー01」は、企画当初に縦軸として設定されていた、最終兵器の設計図争奪戦という構図を過不足なく消化し、新たな独自の路線を歩み始めることになる。

「悪魔?天使?ビジンダー出現!!」

再びギルの霊を呼び出し自らを強化させ、エネルギー電池の力で3倍にパワーアップを果たしたハカイダーは、それでもなお力及ばずにゼロワンの前に敗れ破壊されるが、ビッグシャドウはハカイダーを再生させ、洗脳されたハカイダーはシャドウに忠誠を誓うことになる。
そしてアキラの乳母であったリエコの非業の死、ビッグシャドウによって月世界から呼び寄せられた謎の大幹部ザダムの登場と、それに伴うシャドウナイトの退場をもって、「キカイダー01」は、レギュラーキャラクターの多さから複雑化していた話の構造を整理した。

ハカイダーをビッグシャドウに忠誠を誓うシャドウ最高幹部に据えることで、人気キャラクターであるハカイダーをより前面に打ち出し、念力を操るザダムとのタッグでゼロワンを追い詰める、シャドウ側の描写の強化。そしてリエコとアキラ、ミサオとヒロシというように二分化していたレギュラーキャラクターを、リエコの非業の死に伴いミサオがアキラとヒロシの二人の面倒を見るというように一本化することで、よりシンプルな構図へと設定を整理したのである。
それはシリーズ後半の強化策として登場することになる、「心」を持った人造人間たちをドラマに迎え入れるための既存の設定の整理であった。

「キカイダー01」は第2クールを迎えると、それまで第二の主役ヒーローとしてレギュラー出演していたジロー=キカイダーの出番が減少していった。これはジローを演じた伴大介氏が「イナズマン」の主人公、渡五郎役に決定したための、やむを得ないスケジュールの都合である。
こうしてダブルキカイダーという強力な要素を失うことになり、独自の路線を歩む必要に迫られた「キカイダー01」のさらなる飛躍のために、制作陣はキカイダー、ハカイダーに次ぐ、絶大なインパクトを持ってドラマを牽引する新たなるキャラクターの創造を余儀なくされる。
そして生み出されたキャラクターが女性型人造人間、「ビジンダー」だ。

ビジンダーはシャドウがゼロワンを打倒するために生み出した女性型アンドロイドである。
ハープの音色とともに姿を現す可憐な佇まいに、ゼロワンにも匹敵するほどの脅威的な戦闘能力を秘めたこの人造人間は、マリと呼ばれる人間体に姿を変え、1人さすらう。
ビジンダーは女子供に対してどこまでも優しい、完全な良心回路を持つゼロワンの弱点を突くため、マリの姿では慈愛の心を持つパーソナリティを与えられた人造人間だった。
その体内には小型水爆が内蔵されており、マリの姿で着用しているブラウスの第3ボタンを外すと、水爆の起爆装置が起動する仕掛けが施されていた。
シャドウはさらにマリの体内に激痛回路を組み込んでおり、シャドウ基地のザダムの脳波で激痛回路を起動させることで、激痛に苦しむマリに周囲の人間に胸を緩めるように懇願させ、彼女を助けようとする人間に、起爆装置の第3ボタンを外させようとする。
それは、苦しむ彼女を介抱しようとするイチローの優しさを利用し、水爆を起爆させてイチローを始末しようとするシャドウの卑劣なる戦略だった。

夜8時台という放送時間帯を意識したお色気要素と、自爆を目的として作られた悲哀あるドラマ性をもって、ビジンダーは第30話「悪魔?天使?ビジンダー出現」にてその姿を現す。
マリがビジンダーにチェンジする時、それに合わせてオーロラが輝き、一面に花が咲く。
そんな可憐な登場シーンからは想像もできない鋭いアクション。
マリを演じた志穂美悦子氏は当時高校生でありながら、千葉真一氏の推薦でこの可憐な容姿と機敏な動きを兼ね備えた人造人間のキャストに配役され、憂いを帯びた佇まいと、そこから想像もできない激しいアクションでファンを魅了した。
ビジンダーという可憐さと儚さ、そして優れた戦闘能力を持つキャラクターにふさわしい志穂美悦子氏の好演で、悲劇の人造人間ビジンダー=マリというキャラクターはキカイダー兄弟やハカイダーに勝るとも劣らないインパクトをもって、番組にデビューしたのである。

イチローとマリは心の交流を見せる。
孤独にさすらう人造人間という同じ境遇を持つ彼らの交流は、彼らが人間ではなくロボットであることもあり、単なる恋愛感情というよりは純粋な同族意識の思いやりに満ちたものだった。
しかし世界大犯罪組織シャドウに生まれたモノの宿命として、マリは自らの宿命を呪いながらビジンダーに変身、心惹かれたゼロワンと戦うことになる。
死闘の果て、ビジンダーは敗れたが、ゼロワンは彼女を倒すことを惜しみ、せめてジローと同じ正義の心を持って欲しいとの願いから、自らの知識にある設計図を元に、ジローに内蔵されているものと同等の不完全な良心回路を作り出すとビジンダーに取り付け、正義を諭すのであった。
こうしてビジンダーが不完全な良心回路を手に入れてしまったことで、「キカイダー01」は「人造人間キカイダー」にて好評を博した、不完全な良心を持って生きることで苦しむ人造人間の苦悩という、「心」のドラマを再び展開することになる。
しかしそれは、ビジンダーにとっては嘗てのジローが歩んだ道よりも遥かに険しい、悪に生まれた自らの宿命と良心との間で苦しむ過酷な旅の始まりでもあった。

「人造人間の目に光る涙」

不完全ながら良心回路を得たビジンダーは、悪によって生み出された自らの宿命に負い目を感じながら、その良心に従う道を選び、ゼロワンとともにシャドウと戦う正義の人造人間となった。
しかし狡猾なシャドウは、ビジンダーの良心回路を狂わせて悪の道に引き戻すのではなく、その良心を踏み躙ることで裏切り者である彼女を苦しめる策略を巡らせる。

第33話「非情 子連れゴリラの涙・涙」では、母子ロボのビッグゴリラとミニゴリラがゼロワンを襲う。ゼロワンはビッグゴリラを倒すが、これはゼロワンのパワーを分析するためにシャドウが仕組んだ戦いだった。母を亡くしたミニゴリラと知り合ったビジンダーは、その良心に従い、母親代わりとしてミニゴリラを鍛えていき、ビッグゴリラ二世へと改造する。
それはビジンダーの「良心」が親を亡くしたロボットに対して見せた、優しさの表れであった。
しかしこの時、ミニゴリラの改造に母親のビッグゴリラの電子頭脳が使用されたことで、ビッグゴリラ二世はゼロワンへの復讐心に取り憑かれる。そしてシャドウから転送されたゼロワンの戦闘データを得たビッグゴリラ二世は、ビジンダーの静止を振り切りゼロワンに挑戦、戦闘データを丸裸にされたゼロワンが窮地に陥る中、ビジンダーは母親代わりとして育てたビッグゴリラ二世を、ゼロワンを助け世界を守るために自らの手で破壊する決断を強いられるのであった。

このエピソードで描かれたシャドウの作戦は、ゼロワンの戦闘データを分析するため「だけ」のロボットを捨て駒として送り込み、ミニゴリラの母親への情と、そんなミニゴリラを思いやったビジンダーの良心を踏み躙る、人造人間たちの「心」を傷つけた卑劣なものだった。
捨て駒となるため「だけ」に作られたビッグゴリラの悲哀は、「人造人間キカイダー」においてキカイダー抹殺のため「だけ」に作られたハカイダーの悲劇を想起させずにいられない。
そして良心回路を組み込まれたがために、シャドウによってその良心を踏み躙られる苦しみを味わうビジンダーの姿には、不完全な良心に苦しみ続けたジローの姿も連想されるだろう。
こうして、世界大犯罪組織シャドウが引き起こす様々な事件に直面し、その度に不完全な良心を得たがゆえの苦しみと哀しみを心に刻みながら、ビジンダー=マリはさすらい続けるのだった。

ビジンダーはその登場以後、サブタイトルにその名を刻んだエピソードが続出し、彼女を主人公とした名作エピソードが次々に作られた。それは制作陣がゼロワン=イチローという完全な良心回路を持つ完全無欠のヒーローというキャラクター像に疑問を抱き、悩み、苦しむ人間的な厚みをもつビジンダーを描くことにフォーカスしたためとも言われている。
そしてビジンダーの苦悩の旅路は、さらなる人造人間の登場とともにより険しくなっていく。

「剣豪ワルダーの生涯」

第37話「剣豪 霧の中から来たワルダー」から登場した剣豪ロボット、それが「ワルダー」だ。
横笛の音色とともに現れた、何処から現れたのか、誰が作ったのかも判然としないこのロボットは、ゼロワンの抹殺のためにシャドウが雇い入れた殺し屋ロボットである。
いかなる武器も通用しない卓越した剣術と、卑怯な手を使うことを嫌う武人としての誇り。
侍としてのパーソナリティを持つ彼は、同時に自らをただ作られた機械に過ぎず、心を持たない、あるいは持たないものと思い込んでいる、自らの境遇に諦観を持つロボットだった。
自分で考える心を持たないがゆえに、他人の依頼で動く殺し屋稼業で生きていくことしか出来ないと自分を卑下しながら、一方で無益な殺生を好まず、命を奪い合う勝負の果てには虚しさしか残らないという無常観の中に生きている。

そんなワルダーは、犬が苦手だ。何者をも恐れぬ非情の殺し屋ロボットが犬を苦手としている。
一見コミカルな要素だと思わせてしまう設定ではあるが、この設定はワルダーというキャラクターの性格設定の深みをより一層引き立たせる効果を上げている。
ワルダーは心を持たない。いや、自分は心を持たないと思い込んでいる。
心を持たないということは、善悪の判別がつかないということ。そして、善悪の判断がつかないということは自分で自分の在り方を決めることも出来ないということだ。
ワルダーはそんな自らの境遇を悲しみ、殺し屋としてしか生きられない自分を嫌悪した。
一方で、犬は飼い主を愛し、悪い奴には吠えて泥棒には噛みつく、善悪の判別がつく動物だ。
そんな犬という動物を、ワルダーは本能的に、自分より優れた心を持つ存在と理解し恐れた。
自分は犬ほどの心も持たないと哀しみ、「心」が欠落した自らを呪う彼は、殺しの依頼という行動の指針を他者から与えられる、殺し屋家業を生業として生きるしかなかったのだ。

ビジンダーはそんなワルダーが抱えた哀しみを目の当たりにしたことで、ゼロワンの抹殺を狙うワルダーに憐憫の情とシンパシーを抱き、ゼロワンに倒されようとしていたワルダーを助ける。
こうしてゼロワンを倒すために現れた最強の敵が、「心」を持たない自らに苦しむ悲劇の人造人間であるという構図をもって、「キカイダー01」は最終クールに突入する。
ビジンダーとワルダーという、「心」の有り様に悩む人造人間たちの姿を通して、良く生きようと願う「良心」に従って生きる道の険しさと苦しさが描かれようとしていた。

ビジンダーとワルダーは、まるで交換日記のような文通をした。
ビジンダーはあまりにも自分自身を惨めに感じているワルダーの身を案じて手紙を送り、ワルダーはビジンダーの手紙を通して、ビジンダーが持つ「心」を理解しようと文通を続けた。
この孤独な人造人間同士の心の触れ合いは、ハカイダーによる偽手紙作戦で終わりを告げ、ワルダーは「心」を理解しようとした自分の行いが無駄と終わり、自分が作られた機械の中でも最低の殺し屋ロボットであることに自嘲の笑いを浮かべる悲劇として幕を下ろす。
しかしビジンダーは、ワルダーの偽手紙を即座に偽物と見破っていた。
それはワルダーからの手紙にこもっていた「心」を感じ取っていたがゆえに、その温かい心を持たない偽手紙が、何者かの偽物にすぎないことを理解していた現れだろう。
そう、ワルダーは確かに心を持たない。
しかしそれは、自分が持つ心が良心なのだと判断出来る心を持たないという意味だ。
善悪の判別をつける心を持たないことで自らの中に確かに在る良心に気づけず、良心を持たない自分のことを最低のロボットだと卑下するその姿は、あまりにも哀しい。
ゼロワン抹殺のためシャドウに迎え入れられた最強の敵であるワルダーが、ビジンダーの恋慕の情と、「良心」、「正義」への憧れに悩み、「善悪の区別」を判断する「心」を持たないことを悲しみ苦悩する存在であるという、「心」を持つロボットの悲劇をテーマにした物語の集大成として登場したキャラクターであるという圧巻の展開だ。

そんなワルダーの最期を描いたのが、第45話「サムライワルダー暁に死す」だ。
ワルダーは、愛するビジンダーの体内に水爆が埋め込まれていることを知る。
水爆を下手に外せばビジンダーの命に関わることを看破した彼は、水爆を取り外し、ビジンダーをシャドウの呪縛から開放するために、自らのエネルギー回路をビジンダーに移植する。
しかしそれは、エネルギー回路を取り外したワルダーの命が一週間ともたなくなるという、あまりにも哀しい決断だった。孤独な殺し屋稼業に生きてきたサムライロボットは、最期に自らが生きてきた証を残すために、愛するビジンダーのために自らの命を捨てることを決めたのである。
移植作業が完了し目覚めたビジンダーはワルダーに感謝し、その身を慮る。
ワルダーは、愛したビジンダーに感謝される安らぎを得て、その安らぎを生涯最大の幸せであると呼んだ。善悪を見分ける心を持たず苦しみ続けた生涯の最後に、彼は他者を思いやり自らを犠牲にして、自分ではその存在を自覚できなかった「良心」を発揮することが出来たのである。

だが、ビジンダーの心にはいつもゼロワンがいるという事実に、ワルダーは苦しむ。
善悪の判別がつかない彼には、自分が感じているこの苦しみと、ゼロワンへの憎しみが嫉妬心という感情であることすら理解できない。彼は自分のことを心を持たない中途半端なロボットであると蔑んだが、その実、その「心」の存在を自覚していないだけで、本当は、愛する人を想うがゆえの良心と嫉妬心という、最も人間らしい心を備えたロボットだった。
「心」を自覚できなかったと言うだけで苦しみ続けた彼の生涯は、ゼロワンとの決斗でその幕を下ろす。同じ殺されるのならば、ゼロワンよりも他に殺されたい相手がいたことを呟きながら。

「人造人間キカイダー」で描かれたハカイダーの末路は、心を持ちながら自らの存在意義を他者に依存したがために、存在意義であった他者を失った時、自分の存在意義を見失い狂乱するという、アイデンティティ・クライシスを描いたものだった。
「キカイダー01」が描いたワルダーの最期は、「心」を持ちながら、それを自覚できないあまりに生きる意味を見いだせず、最期まで自分が心を持った存在であるということを認識できぬまま、自らの良心に従って生きる道を選べなかった悲劇を描いた。
葛藤と苦しみの中に生き、望んだ死を迎えられなかった二人の人造人間の姿は、自分が本当に抱いている「心」に従って生きることが出来なかった存在の悲劇を描き、「心」のままに生きることの素晴らしさを逆説的に説いている。

「正義の旋律よ、永遠に」

こうして過酷な激闘の果てに迎えた最終回「よい子の友達 人造人間万才!」では、光明寺博士、そしてジローの再登場と、光明寺博士の新発明であるロボット再生装置をめぐるシャドウとの最終決戦が描かれ、ロボット再生装置で幾度も再生するハカイダーやザダムらシャドウの大軍団と、キカイダー兄弟とビジンダーたち正義の人造人間たちの明日なき総力戦が展開。
死力を尽くした死闘の果てに、ついに大犯罪組織シャドウは滅び、世界に平和が訪れる。
光明寺博士たちはアキラとヒロシたちに、彼ら人造人間は完全な機械になることを望んでおらず、不完全でも人間に近い存在でいたいんだ、と説き、正義の人造人間三人は新たな旅へと出て「キカイダー01」は完結するのであった。

この最終回で光明寺博士が説いた、彼らは完全な機械になることを望んでいないという、人造人間たちがさすらいの旅路の果てにたどり着いた結論は、使命を果たすだけの完全な機械として生まれながら自身の存在意義を見失い苦しんだ三郎ハカイダーの末路を思っての結論に思える。
そしてまた、自分の良心を自覚できない不完全な「心」を持っていたがために苦しみ続けたワルダーの姿を見てもなお不完全な心を肯定し、人間に近い存在でいたいと願うジロー、イチロー、マリの姿を通して、不完全な、しかし、だからこそ愛すべき「心」を持つ人間という存在を肯定して、「キカイダー01」、ひいてはキカイダーシリーズは幕を閉じた。
「心」を持ったがゆえに苦しみ、悩み、しかしその苦しみに負けずに強く生きようとした彼ら三人の人造人間を通して、「心」を持って生きることの哀しみと、その哀しみを克服しようと強く生きることの尊さが描かれたのである。

人間は「心」を持つがゆえに、人生で直面する苦しみや哀しみに心惑い、涙する。
しかし同時に、人間にはその苦しみや哀しみを乗り越えようとする強い心も備わっている。
「人造人間キカイダー」「キカイダー01」は、不完全な心を持った人造人間たちが、宿命の中で直面した苦しみや哀しみを乗り越えた姿を通して、不完全なゆえに直面する苦難を克服せんとする強い心こそが人造人間が憧れた人間らしさであるとし、その素晴らしさを描いたのである。

テレビ放映と同時に、石ノ森章太郎によって描かれていた萬画版「人造人間キカイダー」は、その終局において善の心だけでなく、悪の心をも備えてこそ人間らしい心であるという結論を出し、悪の心を手に入れてしまったジロー=キカイダーが憧れていた人間に近づくことは出来たが、それが本当に幸せなことだったのか、という問いかけをして終わる。
そこで描かれた、人の「心」へのペシミズムあふれる結末は今なお圧巻である。
一方で特撮版「人造人間キカイダー」「キカイダー01」は、人の心は確かに不完全で弱いものだが、同時に困難を克服せんと前に進む強い心も備わっているという人間讃歌で幕を閉じた。
この2つの結末はどちらかだけが正しいものではない。どちらも人の「心」の真実を、不完全な心を持った人造人間の旅路を通して描ききっている、表裏一体の結末だ。

「キカイダー01」という作品の旅路は、決して順風満帆なものではなかった。
パワフルな作風を志向し頼れるヒーローとして創造されたゼロワンの、制作陣自らによる「完全な正義」というキャラクター像への疑問からの出番の減少。ダブルキカイダーの活躍シーンの他作品との兼ね合いによる消滅。慢性的な予算不足による新規造形物の少なさ。紆余曲折は数えきれない。しかしその中でも制作陣は、キカイダーシリーズの勘所である「心を持った機械」のドラマを深化させていき、そのドラマ重視の作風は幅広い層の人気を獲得した。
一話完結、勧善懲悪の明瞭な作風の中に、原作者、石ノ森章太郎氏が描く世界観の特色を的確に掴んで描かれた重厚なドラマを展開するという、前作「人造人間キカイダー」が好評を博した作風を見事に発展させた「キカイダー01」。
原作者の石ノ森章太郎氏をして「仮面ライダー」シリーズよりも愛着がある作品だと言わしめ、原作者も納得する形で「心を持った機械」というヒーローを通し「心」の有り様を真摯に描ききったキカイダーシリーズは、今なお東映特撮ヒーロー史にその名を燦然と輝かせている。

キカイダーシリーズはその高い人気を受け、当然次回作も考えられていたが、夜8時台のスポンサー料の高騰にともないスポンサーがつかず、番組枠自体の消滅をもって幕を閉じる。
もし次回作が実現していれば、萬画版「人造人間キカイダー」に登場した「キカイダーOO(ダブルオー)」の活躍が描かれていたのかもしれない。

「キカイダー01」は、2023年7月現在、東映特撮ファンクラブU-NEXTにて有料見放題配信中だ。さすらいの人造人間たちが見せる「心」の有り様は、初回放送から50年を経た現在でも色褪せることがない。アクションのみならず、人間の「心」を人造人間の姿を通して描ききったその戦いのドラマを、ぜひもう一度御覧いただきたい。トランペットの風切るメロディーに載せて、「心」の素晴らしさを体現して生きる、正義の人造人間たちが織りなすレッド・アンド・ブルーの機械の響きが、あなたの耳にも聞こえてくるはずだ。

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