「特救指令ソルブレイン」感想メモ(2) ~『心』を持ちながら『モノ』でしかない、心ある『機械』の悲哀~

2023年7月20日木曜日

レスキューポリスシリーズ 感想 特救指令ソルブレイン

t f B! P L

 「『心』は、人間のものだけではない」

犯罪が高度化した時代。
人の命と心を救うために、自らの青春をかけて立ちあがった若者たちがいた。
それが、特装救急警察である!

「特救指令ソルブレイン」は、「メタルヒーローシリーズ」として知られる東映特撮ヒーロー作品群の第10作目にして、前作「特警ウインスペクター」に端を発する「レスキューポリスシリーズ」の第2作目となる特撮ヒーロー作品だ。
「特警ウインスペクター」は、当時世相を騒がせていた暴力事件の影響を受け、こうしたヒーロー作品の暴力描写にも批判的な目線が寄せられていたという背景から、悪を倒すだけが正義の在り方ではない、と示すべく、ヒーローが持つ「力」を、悪の怪人を倒すために使うのではなく、高度化した科学犯罪や災害の被害から力なき人々を救うために使うという斬新なコンセプトのもとにその企画が成立し、ヒーロー作品らしいSF設定と、刑事ドラマを意識した、現実の世相を反映するハードなドラマを融合させた独自の作風を作り上げた。
その重厚なドラマとウインスペクターが使うレスキューツールのデザインが持つ未来的なカッコよさ、そしてヒーローの持つ「力」を、命を救うために使うというコンセプトは幅広い年代から支持を受け、「宇宙刑事シリーズ」以後、大きな流れを構築できていなかった状況を打ち破り、続編の制作が決定。同様のコンセプトを持った「レスキューポリスシリーズ」を成立させた。

こうして制作された「特救指令ソルブレイン」。
そこでは、「特警ウインスペクター」最終回「翔べ希望の空へ!」での、ウインスペクターが最初に逮捕した犯人が脱獄、ウインスペクターへの怨恨から新たな事件を起こすという展開を受け、ただ犯罪者の犯罪に巻き込まれ被害を被る人命を救うだけでは真のレスキューではない、事件を起こした犯罪者の歪んだ心をも救い、再犯を防いでこそ本当の意味で人命を救うことに繋がる、というテーマのもと、「命だけでなく人の心をも救う」ヒーロー像が目指された。
「特警ウインスペクター」の好評を受け世界観やキャラクターを続投させただけでなく、新たなる組織である特装救急警察ソルブレインは、ウインスペクターが果たせなかった真のレスキューを目指すという、ヒーローの行動理念をも受け継いだ完全な続編として展開されたのである。

そして、「特救指令ソルブレイン」制作陣は、「心」を救うレスキュー、というテーマにあまりにも真摯に向き合った。真摯に向き合った結果、人間が同じ人間の「心」を救うことなど出来るのか、という袋小路にたどり着いてしまった。
その結果、「特救指令ソルブレイン」は、「特警ウインスペクター」をも超える、重く苦しい、「心」を救うという行為の困難さを正面から描いたエピソードをいくつも制作する。
その中で描かれた「心」は、決して人間が持つものだけではない。
「心」ある機械であるソルドーザーをメンバーに加えているソルブレインは、「心」ある機械が犯した哀しき事件にも立ち向かわなければならなかった。
今回の記事はそんな「心」ある機械が起こした事件を描いたエピソードである第31話「彼女は夢の未来車(カー)」を取り上げ、独立した記事としたい。

「夢を託された機械への『祝福』」

警視庁特別救急警察隊ウインスペクターの、日本における最後の事件が残した教訓を受け、ウインスペクター本部長正木俊介が、人の命を救うだけでなく犯罪者の心をも救う新たな組織として設立した、特装救急警察ソルブレイン。
その行動隊部の隊長である西尾大樹のもとに、ある日一本の電話が届く。
それは、大樹の大学時代の先輩である南部光利・典子夫妻が、かねてより開発を続けていた、高度な安全センサーを搭載して完全な自動運転を実現した、21世紀型の夢の未来車が完成したという知らせだった。ソルブレインの隊員である樋口玲子が典子と友人であったこともあり、ソルブレイン行動隊部はその夢の未来車のお披露目に招待されることになる。

かくしてお披露目された夢の未来車は、フルコンピューター制御で行き先を入力すれば自動走行で最適な道を選び走行、安全センサーの働きで事故を起こすこともなくドライバーが居眠りしていても目的地まで運んでくれる。さらにソーラーバッテリーでガソリン代もかからず、環境汚染とも無縁。ハンマーで叩いても壊れない頑強さまで備えている、まさに完璧な未来の車だった。
「T-01」と名付けられた夢の未来車は、大学時代に交通事故で両親を失った光利の、絶対に交通事故を起こさない車を作り上げんとする思いの結晶であり、ソルブレインもT-01の誕生を祝福する。
そんな時、ソルドーザーは「あたし、生まれてきてよかった」という女性の声を聴く。
それはソルドーザーのコンピューター波長と、T-01のコンピューター波長が同調したことで、ソルドーザーだけが聴くことが出来るT-01の「心」の声だった。

本部へ帰還する途中、手袋を忘れたことに気づいた増田純と大樹は南部夫妻の元へ引き返すが、そこで南部夫妻が倒れているのを発見する。覆面をした強盗が拳銃を発砲して南部夫妻を襲い、T-01を盗んで逃走していたのだ。典子は大怪我を負い、光利は命を落とす。
最愛の夫を失った典子は動揺もあり覆面をしていた犯人の顔を当然ながら覚えておらず、ソルブレインの捜査も難航する中、それに続くように廃工場で二人の拳銃を持った変死体が発見された。
その変死体の死因は車に撥ねられた後、執拗なまでに轢かれ続けたことだった。

スーパーコンピューター・クロスの分析でその変死体の持っていた銃が南部夫妻を撃った銃であり、変死体の身元が南部夫妻を襲った強盗であることが判明する。大樹は状況から二人の強盗はT-01によって撥ねられ命を落としたものであると判断し、強盗グループが仲間割れの果てにT-01で仲間を撥ね、轢き殺したものであると推理した。だが、ソルドーザーはその推理を否定する。
T-01は安全センサーを搭載しており、絶対に事故を起こさないはずだと。

そこに玲子から連絡が入る。事件現場に戻れば何かを思い出せるかもしれないと考えた典子に付き添って玲子がガレージに戻ったところ、そこにT-01が戻ってきていたのだ。
強盗が発砲した拳銃の弾の痕跡や返り血の付着から、やはりT-01が強盗を轢き殺したことが発覚。
事件の真相を知るために、唯一T-01の「心」の声を聞けるソルドーザーがT-01に呼びかける。
「誰かがセンサーを切って君を運転し、君に無理やり人殺しをさせたのか?」
それに対してT-01は答えた。
「誰も安全センサーを切ったりしてないわ。あたしが、あたしの意志であの二人を殺したの」

高度に発達したコンピューターを持つT-01は、同じく高度なコンピューターで「心」を持つに至ったロボットのソルドーザーと共振して、自らの「心」の内を話すことが出来るようになった。
そしてここで発覚した真相である、「機械」が自らの「心」に従い自らの意志で殺人を犯したという事実は、T-01が既に人間のそれに等しい「心」を獲得していたことを証明している。
自らを作り上げ、自らの誕生を祝福してくれた、言わば「両親」である南部夫妻を傷つけた強盗に対する怒りと憎しみが、T-01を復讐へと駆り立て、殺人という罪を犯させたのであった。

しかし、T-01はあくまで機械でしか無く、機械に殺人の罪を償わせることなど出来ようもない。
機械はあくまで人によって使われるもので、罪を背負うならばその機械を使った人間だろう。
だがもし、その機械が、自ら考え行動する高度な知能と「心」を備えていた機械であり、誰かに使われるのではなく、自らの意志で罪を犯したとすれば?
罪を自らの意思で犯した機械を裁く法律など、既に心を持つ機械が人を助けている「特救指令ソルブレイン」の世界にも、もちろん我々の住むこの世界にも存在していない。
「彼女は夢の機械車」は、技術の発展に伴い進化していく人工知能の分野がいずれ到達するであろう、現行の法律で裁くことが出来ない、自ら考え行動する機械による犯罪を誰が裁くことが出来るのかという問題を、1991年当時に既に予見していたのだ。

「シャボン玉消えた」

T-01の動力回路を切断したソルブレインは、万が一に備えてT-01と会話して凶行を止めることが出来るソルドーザーを見張りとして残し、T-01の処遇について検討するべく本部に帰還した。
ソルドーザーはあれだけ祝福されて生まれ、「心」まで獲得しながら、復讐のために罪を犯したことで解体されるのであろうT-01に同情し、動力回路を繋いでT-01と会話する。
ソルドーザーはどんな理由があっても、どんな犯罪者だろうと、決して人を殺してはいけないとT-01を諭す。だが、目の前で「両親」を傷つけられたT-01は、その悲しみを訴えるのであった。
気まずい雰囲気の中、T-01は音楽を聞こうとカーラジオを流し始める。
ラジオから流れてきたのは童謡の「シャボン玉」だった。

そんな心ある機械同士の交流を、強盗グループの仲間の襲撃が阻んだ。
轢き殺された仲間の復讐と、高度な技術の結晶であるT-01の奪取を目的とした強盗はT-01に乗り込んでしまう。それを制止しようとしたソルドーザーは、車体を押さえられて痛みを訴えるT-01の声で動けなくなり、そのままT-01は強盗に強奪されてしまった。
いざとなれば自らの意志で動きを止めることが出来るT-01が強盗に強奪されたのは、わざと捕まることで姿を現すであろう強盗グループの首領を殺害し、「両親」の復讐を完遂するためだった。

ソルブレインは死亡した強盗二人の前科から、強盗グループの首領の存在を突き止める。
そして、これ以上南部夫妻やソルドーザーの夢の結晶であるT-01に殺人を行わせないために、T-01が強盗に連れ去られた廃工場に急行するのだった。
その道中、典子はT-01が光利からの2年遅れの結婚指輪だったと、T-01への愛着を語る。
その頃、強盗グループに囚われたT-01は、海外へ売り飛ばすための耐久性能テストとして高圧電流を流され、その痛みに苦しみながらも復讐の念を燃え上がらせていた。
そして、強盗グループの首領が姿を現したのを確認したT-01はついに復讐の暴走を開始する。

現場に到着したソルブレインは、強盗グループがT-01に向けて発砲したことが原因で炎上する廃工場、そして強盗グループを轢き殺そうと執拗に追い回すT-01の姿を目撃する。
T-01の暴走は廃工場の鉄骨を崩壊させ、強盗グループたちはその下敷きとなる。
大樹と玲子はソルブレイバーとソルジャンヌにブラス・アップし、T-01を止めようとする。
そして、純は抵抗を続ける強盗グループを鎮圧するのだった。

崩れた鉄骨の下敷きとなって身動きの取れない強盗グループの首領へ向け、執拗に前進を続けるT-01。T-01の凶行を止めるため、ソルドーザーは身を挺して立ちはだかる。
だが、今のT-01には既にソルドーザーの声も届かなかった。
強盗グループが流した高圧電流の影響で回路が暴走し、強盗グループだけでなく人間全体にその憎しみを広げたT-01は、「人間なんか皆殺しにする」と言い放ち、ソルドーザーを跳ね飛ばす。

回路の暴走によって、憎しみと憎悪にその心を支配されたT-01はもはや「両親」の復讐のためではなく、ただ人間の抹殺のために動く暴走した殺人機械へと成り果ててしまった。
人間の悪意によって変わり果てた「娘」の有り様に悲しむ典子は、亡き夫が遺した夢の結晶にこれ以上罪を犯させないために、ソルブレインにT-01の破壊を乞う。
ソルブレイバーはウインスペクターから継承した最強武器・ギガストリーマーを構える。
だが、ソルドーザーは自らの手で同じ「心」を持った機械である「彼女」の破壊を行う覚悟を決め、T-01を自らの手で破壊するのであった。

こうして「心」ある機械の起こした、復讐の事件は終わった。
かつて誕生を祝福された「心」ある機械がいた、今は何も残されていないガレージに、ソルドーザーは花を供えると、かつて「彼女」と共に聴いた、「シャボン玉」を口ずさむ。
祝福されて生まれ「心」を持ちながら、人の悪意で愛する者を奪われ、「心」を引き裂かれ生涯を終えた「恋人」を想う、ソルドーザーの鎮魂の歌声が誰もいないガレージに響いた。

狂った機械は、破壊するしかなかった。
愛するものを思う「心」を備えた回路を狂わされ、最後に残った復讐の念を人類全体への憎悪に変えてしまったT-01の末路は、「機械」が壊れた、というだけでありながら、あまりにも哀しい。
それは、ソルドーザーの言う通り復讐のための殺人という手段こそ間違っていたとはいえ、その行動の奥に自分を作った両親への「愛」という「心」が存在していたからに他ならないだろう。
T-01は高度に発達した果てに「心」を持ったが、あくまでも「機械」でしかないがゆえに、どんな犯罪者であろうとソルブレインが「心」を救うために手を差し伸べる使命を背負った「人間」と違い、「破壊」してしまえば解決する存在でしかない。
ここに、「心」ある機械という存在に対する悲哀と、「人工知能」が進化を遂げようとしている現代社会において、人間が技術革新の果てに近い将来完成させてしまうであろう「心」ある「機械」とどう付き合っていけば良いのか、という課題を感じずにいられない。

「『心』を持ちながら、機械は『モノ』でしかない?」

「心」ある機械の悲哀を描いた作品といえば、東映特撮ヒーロー史にロボットロマンの金字塔としてその名を刻んでいる「人造人間キカイダー」がある。
この作品では、第37話「ジローの弟 強敵ハカイダー!」において、良心回路がプロフェッサー・ギルの吹く笛の音色で狂い、光明寺博士を襲ってしまったジロー=キカイダーが投獄されるという展開があった。ここでジローを投獄した警察は、人間と同じ「心」を持ったジローに対し、「人造人間は時計と同じ、ただの機械でしか無く、ぶっつぶそうが、分解しようが、法律に触れることはない」と断ずると、光明寺博士殺害の容疑がかかったジローを分解しようとするのであった。人間と同じ「心」を持ちながら、機械というだけで分解しても、破壊しても問題ない「モノ」でしかないとしか扱われないジローの姿は、見ている我々の心に「心」ある機械の悲哀と、機械というだけで備えている「心」が尊重されないことへの疑問を残した。

「心」ある機械でありながら、暴走してしまったことで「破壊」することを(苦渋の決断の果て、ではあるが)解決手段とされてしまったT-01の姿は、この投獄されたジローと大いに重なる。人命とその心を救うことを理念として掲げていたソルブレインも、回路が暴走してしまっているから仕方ない、と、本来なら救うべき「心」を備えている存在であったT-01の破壊を決断した。

「心」ある機械を裁くことの難しさは、前述した通りだ。機械を裁く法律など、この世に未だ存在していない。だが同時に、機械という「モノ」であるというためだけに、罪に対する正当な裁きを下されることもなく、「破壊」によって解決が図られてしまう。
人間でさえあればソルドーザーの言うように、どんな犯罪者であろうと命が尊重され、裁判によって罪に対する法の下の正当な裁きが下されるというのに。
同じ「心」を持ちながら、人間であるか、機械であるかという一点だけでその末路が異なる。
ここに、人工知能技術が驚異的な進化を遂げ、一昔前ならSFの中の存在に過ぎなかった「心」ある機械、の実現も遠い未来のことでなくなろうとしている現代社会において、「心」ある機械という存在について、我々が向き合わなくてはならない問題が提議されていると言える。
人と同じ「心」を持つ機械が罪を犯した時、その機械には、人と同じように法の下の裁きが下されなくてはならないのではないか、という問題だ。

もちろんこの問題は、機械がどうやって人と同じ「心」を備えていることを証明するのか、という大問題が存在している。また、「彼女は夢の未来車」では、T-01は修復不能なダメージを負って暴走しており、破壊による解決を行う必要があったことも考慮に入れないといけないだろう。
だがもし、復讐にかられ暴走しているのが「人間」だったら。ソルブレインはなんとしてもその命を救おうとし、「心」を救うためのアプローチを試みたはずだ。

愛するものを奪われたことに悲しみ、怒り、復讐にかられたT-01の「心」を救うアプローチは、「心を救う」ことを命題にするソルブレインすら、ついに試みることはなかった。
「心」ある機械であるソルドーザーもまた、T-01は自分と同じ「機械」という「モノ」でしかないということを悟っていたがゆえに、T-01の破壊という手段でしか解決することが出来なかった。
ここに、「心」ある「機械」という存在に対する現代社会の、法律と我々自身の「機械」に対する意識の限界が露呈していると感じさせられる。

機械は機械、どこまでいっても人間ではない、「モノ」にすぎない。もちろんそれは真実だ。
だが人工知能技術の驚異的な発展は、もはやその常識を疑わねばならないほど進歩を見せている。
「彼女は夢の未来車」は、心ある機械の悲哀と、心を持った存在でありながら「機械」でしかないがゆえに悲しみと怒りを備えた「心」に救いの手が伸ばされなかったという問題提議を行った。
それは、1991年に描かれた物語でありながら、現代社会がおそらく近しい未来に直面するであろう、「心」ある「機械」とどう向き合うかという課題を描いていると言える。

「特救指令ソルブレイン」は、東映特撮ファンクラブU-NEXTで有料見放題配信中だ。
スタッフが「心を救う」という作品テーマに真摯に取り組んだがゆえの名作、問題作が続出するその重厚なドラマ展開は、今なお我々を魅了する。是非、彼らの苦闘の日々を見ていただきたい。
数々の「心」が織りなす事件に立ち向かい、我々の心に本当の愛を運ぶために命をかける彼らの姿が、我々の心に何かを残してくれるはずだ。

シャボン玉消えた 飛ばずに消えた
産まれてすぐに こわれて消えた
風、風、吹くな シャボン玉飛ばそ

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