「仮面ライダーBLACK RX」感想メモ ~行き過ぎた「強さ」の果てに、「輝ける明日」は見えたか?~

2023年7月7日金曜日

仮面ライダーBLACK RX 感想

t f B! P L

「風よ そこ退け 岩よ砕けよ」

「仮面ライダーBLACK RX」というヒーローの名前を聞いた時、あなたはどのような印象を思い浮かべるだろうか。「その時不思議なことが起こった」で何でも解決する万能のヒーロー、毎週出てくる「最強の戦士」をちょちょいのちょいと一蹴する無敵の戦士。インターネットでネットミームとして冗談交じりに語られるこれらの印象ももちろん正しいものだ。
変身機能を破壊され宇宙に放逐されるという等身大ヒーローでは抗いようのない方法で敗れた仮面ライダーBLACKが、母なる太陽の持つ太陽エネルギーを得たことで再生進化し、更に強くなったヒーロー、それが仮面ライダーBLACK RXだ。
仮面ライダーBLACK RXは太陽が授けた超パワー、そしてピンチに陥った時に起こる奇跡を武器に、歴代ライダーが戦った悪の組織の中でもトップクラスの軍事力を誇るクライシス帝国を相手に一歩も引かないどころか、正面から戦えば勝ち目がないと戦慄させるほどの強さを発揮した。
その強さは戦いの中でさらに加速し、激しい悲しみに呼応して覚醒した「悲しみの王子」ロボライダーや激しい怒りが覚醒させた「怒りの王子」バイオライダーへの二段変身能力を獲得。
特にバイオライダーは自らの身体を液状化するという掟破りの能力を持ち、歴代の11人の仮面ライダーが結集しても手も足も出ない強敵・グランザイラスをも液状化して体内に侵入、そのまま体内を攻撃するという荒業で撃破してみせた。
そう、「仮面ライダーBLACK RX」は最強無敵のヒーロー。その印象はとても正しい。
では、彼はその最強の強さで何を守れたのだろう?

異世界・怪魔界から次元を超え地球に現れた侵略者・クライシス帝国。
彼らの住む怪魔界はかつては花の咲き乱れる美しい世界だったが、度重なる環境汚染によって今や滅亡寸前であり、そこで美しい環境の残る地球への移住・侵略を目論んで異次元より地球に現れた悪の軍団である。彼らが異世界に侵略をせざるを得なくなった要因である、環境汚染の原因とされていたのがクライシス帝国の支配者、クライシス皇帝だ。
皇帝による逆らったものを奴隷として過酷な生活を強いる横暴な政治、そして怪魔界汚染から怪魔界を救うため、心あるものたちはレジスタンスを結成し皇帝への反乱を起こしていた。RXの相棒である霞のジョーの婚約者もまたゲリラとして戦っており、皇帝の打倒を誓い合っている。
しかし、このクライシス人のレジスタンスの存在は中盤に触れられた後、後半、そして怪魔界が重大な局面を迎える終盤ではまるでなかったものであるかのように触れられずに終わる。
これはわたしの想像ではあるが、10人ライダーの登場というスポンサーサイドからの要望が多分に含まれていた展開を実現するにあたり、10人ライダーに番組の尺を割く必要性が発生し、彼らクライシス人のドラマは削減されたのではないだろうか…と感じられる。
ともかく、怪魔界で自由のために戦っていたレジスタンスたちはRXの助けを得られぬままフェードアウトする。そして最終回「輝ける明日!」において、最大級の破局が怪魔界に訪れる。

「敵よ逃げるか 悪よ恐れよ」

クライシス帝国と戦うため日本に帰国した10人ライダーという心強い味方の助力を得て、ついにクライシス帝国の戦前基地であるクライス要塞に乗り込んだ、我らが仮面ライダーBLACK RX。そこで、クライシス皇帝直属の監察官であり、これまで何度も戦ってきたダスマダー大佐と対面したRXは、彼の口から衝撃の事実を聞かされる。
それは「怪魔界は地球の影である双子のような星であり、怪魔界の大気汚染は地球人の地球の大気汚染が怪魔界に影響を及ぼしたもの」という、これまで語られてきた皇帝の横暴による衰退とは全く異なる真実であった。RXは衝撃の事実に動揺しながらも、ダスマダーを倒し、そして彼の正体であったクライシス皇帝をも直接対決で撃破する。
ここで流れる挿入歌「運命の戦士」も相まって、見ている側のテンションは最高潮。
ついに悪を滅ぼして地球と怪魔界に「輝ける明日」が来るはずだった。
しかし「仮面ライダーBLACK RX」の制作陣は、爆発して滅ぶクライシス皇帝のシーンにある映像を挟んだ。それは青い星が爆発する映像。そう、クライシス皇帝を滅ぼしたことで、怪魔界もまた運命をともにして50億の民とともに宇宙の藻屑となった、と解釈できる映像である。

この映像については明確な意図が説明されたことはなく、本当に怪魔界が爆発し消滅したのか、生き残った住民がいるのか、全てが謎に包まれている。
しかし映像を素直に解釈するなら、RXがクライシス皇帝を倒したことに連動し、怪魔界と50億の民が滅んだ、という破局的結末が展開されているのだ。
そして仮面ライダー公式サイトの仮面ライダー図鑑においても、クライシス皇帝の項目でクライシス皇帝が怪魔界を巻き込む爆発を起こしたと記載されている。
戦いが終わった後、RX=南光太郎は、自分を鍛える旅にたった1人で旅立ち、人間社会から姿を消して「仮面ライダーBLACK RX」というシリーズは幕を閉じる。
それまでの陽性な雰囲気の物語からは想像もできない程、あまりにも悲劇的なこの結末にはどういう意図があったのだろうか。ここからはわたしの個人的な解釈となるのをお許し願いたい。

「汝ら覚悟せよ もう終わりだ」

そもそも「仮面ライダーBLACK RX」というシリーズは前年の「仮面ライダーBLACK」の成功を受けて、親友を抹殺しなくてはならない宿命に打ちひしがれ、全てを失ったまま度に出た悲劇的結末を迎えた南光太郎=仮面ライダーBLACKの救済を行い、そしてBLACKが更に強くなった最強無敵のヒーロー、仮面ライダーBLACK RXが異世界からの侵略者に立ち向かい地球を救う、痛快なアクションドラマへの転換を志向していた。
しかしシリーズ序盤において、BLACK、そしてRXのエネルギーの源であり、太陽エネルギーの奇跡で意志を得た神秘の石、「キングストーン」から南光太郎が神託を受けるシーンが存在しており、最終回でRXが迎えることになる悲劇的な結末が既に予言されている。
それは、もし仮面ライダーBLACK RXであるということが周囲に知れれば、南光太郎という人間は人間社会にいられなくなり、孤独の闇に落ちるというものだった。
結果的にこの神託は予言となり、クライシス帝国との戦いが激化する中で南光太郎の周りにはRXの正体を知った仲間たちが次々に集まり、光と闇の果てしないバトルは続いていった。
そうして激化していった戦いの中で、南光太郎は、つてゴルゴムとの戦いで全てを失い彷徨っていたところに居場所を与えてくれた、佐原夫妻という恩人であり、帰る場所を失うことになる。それはRX1人がいかに強くても手の届かない場所で起きた悲劇だった。
そう、RXはどんなに強くなっても愛する人、帰るべき場所すら守れなかったのだ。
そして最終回では何度も助けてもらい、救うべきはずだった怪魔界の住人もろとも、クライシス皇帝を倒すと同時に怪魔界を吹き飛ばし、宇宙の塵と変えてしまった。
RXは強くなった。倒れる度に、傷つく度に、どこまでも強くなり、地球の平和を守るため、クライシス帝国を全滅させた。守るべき、怪魔界の無辜の住人もろとも。
そしてそのままRX=南光太郎は、自分を鍛えるために仲間たちの前から姿を消す。
自らが救えなかったばかりに両親を失った佐原家の茂とひとみを、仲間たちに託して。
彼は地球こそ守り抜くことは出来たが、本当に人間社会にいられなくなってしまったのだ。
彼は確かに最強無敵のヒーローだった。
しかし一人がいかに強くなっても、手の届く範囲しか守れない。
ここに制作陣が感じていたであろう「強さ」という概念へのペシミズムを感じる。

「仮面ライダーBLACK RX」というヒーローの特徴は、「仮面ライダーBLACK」が太陽エネルギーを得て再生進化し、BLACKよりも「さらに強くなった」こと。
つまり「これまでよりも強い」ことだけが特徴であるヒーロー。
そんな「強さ」だけが行き過ぎたヒーローを主人公としたシリーズを展開するにあたり、ヒーローの持つ「強さ」に対する疑念が送り手側にもあったのかな、とは感じる。
だから、RXはどこまでも強いが、手の届かない場所に避難していた大事な人は守れないし、その強さに任せてクライシス皇帝を倒せば怪魔界をも滅ぼしてしまった。
強すぎるほど強くなったが、いくら一人だけが強くても世界どころか身近な大切な人も守りきれずに失ってしまい、仲間とともに過ごせる未来も失って一人どこかに旅立つしかなかったという結末は、「強さ」というものへの疑念や、強さだけが進んでいくことへの諦観すらも感じさせ、「仮面ライダーBLACK RX」というシリーズを引き締めている。

「Did you see the sunrise?」

南光太郎は強くなった。2年間の戦いで得た不屈の精神、太陽がくれた超パワー。
クライシス帝国から地球を守り抜いたその勇姿は、英雄と讃えられるに相応しい。
しかし「強さ」だけが進んだ結果、彼はダスマダーに怪魔界の真実を告げられ、地球への移住を反対できるのか、と問われた時に言い返せず、ただ地球を狙う邪悪の塊としてダスマダーを、クライシス皇帝をその「強さ」で打ち倒し怪魔界を崩壊させることしか出来なかった。
制作陣が「更に強くなった」ヒーローの物語の結末としてこの結末を選んだことに、制作陣が抱いていた「強さ」だけが進んでいくことへの懸念、そして「強さ」の限界が証明されている。
確かにRXは強い、ダスマダーもクライシス皇帝も相手にならない。しかし崩壊する怪魔界で苦しむ50億の民にとってその「強さ」は何も救ってくれないどころか彼らをも滅ぼした。
「強い」だけでは何も救えず、ただ敵対者を何もかも滅ぼして何処かに去ることしか出来ない。
それはもはや天災と何が違うのだろう?
「あの仮面ライダーBLACKがさらに強くなった」ヒーローの物語の終わりで描かれたのが、「その強さでは救うべき者たちを救えなかった」という「強さ」へのペシミズムという事実。
怪魔界の真実こそ、最終回で突然明かされたことを思うと、いささか急な展開ではあることは確かだが、「強さ」が特長であるヒーローが主人公だからこそ、最後に描かれた「強さ」への悲観こそが、「仮面ライダーBLACK RX」というシリーズが描きたかった要素だったのではないか、と感じずにはいられない。

ヒーローの持つ「強さ」を、結果的に正の面でも負の面でも強調した「仮面ライダーBLACK RX」終了の翌年に、ヒーローの持つ「強さ」を敵対者を滅ぼすのではなく救いを求める者を命がけで救うために使う「特警ウインスペクター」、レスキューポリスシリーズが始まったのは、偶然とは思えない。
「強さ」だけを追い求め、その「強さ」で敵対者を完膚なきまでに打ちのめすだけではRXは何も救えなかった、だからこそ、これからの時代はその「強さ」を救いを求める者を救うために使わなくてはならない、としたレスキューポリスの誕生は時代の必然でもある。
もちろんその「救う」という行為も幾多の課題がある茨の道ではあり、「強さ」を救うために使う、ことは後に「敵対者の心も救わなくては真の救いではない」という重い命題の袋小路に迷い込んでしまいはしたが、それでもヒーローが持つ「強さ」は誰かを救うためにも使われるべき、という回答が出たことで、「仮面ライダーBLACK RX」という強さだけでは何も救えなかったヒーローの心もまた、救われたと思う。

「仮面ライダーBLACK RX」は2023年7月現在、東映特撮ファンクラブU-NEXTHuluといったサービスで有料見放題配信中だ。最強無敵のヒーロー、によって描かれる痛快なアクションドラマ、そして「強さ」をテーマに真摯に取り組んだがゆえの結末を、ぜひもう一度見て欲しい。太陽の輝きのように明るく強いRXの勇姿と、その影にある強さだけが行き過ぎて発展していくことへの悲観に満ちた結末が、きっとあなたを魅了するだろう。

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