「宇宙刑事ギャバン」感想メモ ~銀色の輝きが切り開いた、ヒーロー作品のニュー・スタンダード~

2023年7月25日火曜日

宇宙刑事ギャバン 宇宙刑事シリーズ 感想

t f B! P L

 「苦境を打破した革新のデザイン」

1981年、東映のキャラクター作品の制作状況は危機的状況にあった。
特撮ヒーロー作品の金字塔、「仮面ライダー」シリーズが、放送局側の番組改変の都合で放送枠のローカル枠への変更というトラブルに見舞われた「仮面ライダースーパー1」で終了を迎えたことや、第二次ロボットアニメブームによる視聴者のアニメーションへの流入という事態を受け、平均して年に5~6本、多い時では8本もの作品が同時に制作されていた東映特撮ドラマは、現在でも続く「スーパー戦隊シリーズ」の「太陽戦隊サンバルカン」を残すのみになる。
もちろん、子供たちの心からヒーロー作品への興味は去ったわけでなく、当時頻繁に行われていた多くの作品の再放送が、ヒーロー作品の命脈を繋いでいたことは確かだ。しかし映像制作プロダクションとして、新しい映像を生み出すための放送枠が減少したことは紛れもない危機であり、そんな苦境を覆すための、「仮面ライダー」、「スーパー戦隊シリーズ」をも超える絶大なインパクトを持つ新たなキャラクターの創造が急務になっていた。

そんな折、東映の制作部に、1枚のイメージボードが持ち込まれる。
それは「人造人間キカイダー」シリーズや、スーパー戦隊シリーズの源流となった「秘密戦隊ゴレンジャー」を手掛け大ヒットに導いた東映の名プロデューサー、吉川進氏の依頼を受け、ポピーのプロダクト・デザイナーとして「超合金」を生み出し、数々のアニメロボットデザインを創出、東映ヒーロー作品では「イナズマン」のライジンゴーのデザインのリライトや、「バトルフィーバーJ」でのバトルフィーバーロボのデザイン、「電子戦隊デンジマン」以後の「スーパー戦隊シリーズ」でヒーローデザインを手掛けていた村上克司氏が描いた、新たなるヒーローの世界観を提示したものだった。

暗闇に支配された異星に立つそのヒーローは、メタリックなボディスーツを身に纏い、青白く光る長剣を持ち、周囲を囲む敵を、強き意志を感じさせる赤い瞳で見下ろしている。
その装甲で身を固めた姿は、どんなに激しい攻撃を受けても屈しないタフネスな強さを無言で語っており、それまでのヒーローとは全く異なる、ソリッド感を感じさせるデザインは、80年代を象徴する新たなヒーロー像を創造した。
村上克司氏によって、ほんの30分ほどで基本となる原型が書き上げられたと言われるそのデザインは、SF小説「宇宙の戦士」に登場する「パワードスーツ」で描かれた、宇宙空間でも活動できる戦闘用強化服というSF的な概念を等身大ヒーローのスタイルに落とし込むという斬新な発想を元に、電撃的に生み出された。
「仮面ライダー」の人間の体が改造された改造人間という異形の哀しみを背負った姿、「スーパー戦隊シリーズ」の体にフィットした強化服を着用した姿とも全く異なる、未来のテクノロジーで作られたメカと装甲を身に纏ったその姿は、タフでテクノロジックな、未来感あふれるヒーロー・デザインを創出したのだ。

これまでのヒーロー像とは一線を画した、全く新しいヒーローのイメージボードは、東映のスタッフ陣を大いに奮い立たせた。誰も見たことのない斬新なデザインでありながら、ヒーローの持つ「強さ」「宇宙的スケール」を無言の佇まいだけで語るそのデザイン自体が持つ大きな力が、まず東映のスタッフ陣を魅了したのだ。
このヒーローなら凄い番組が作れるかもしれない。多くの関係者の心を突き動かしたこのヒーローの提案を期に、あらゆる方面から「新しいヒーローを生み出そう」という機運が高まった。

吉川進プロデューサーは、己の進退をかけるほどの意気込みで、それまで女児向けアニメが放送されていた金曜夜7時半からのゴールデン枠を獲得し、東映キャラクター作品の危機的状況を打破すべく、全く新しい企画作品でありながら、過去最高の制作費を捻出した制作体制を整えた。「凶と出れば当分特撮の新ヒーローは生み出せないほど」の額をかけたこの企画に、脚本の上原正三氏、演出の小林義明氏、特撮の矢島信男氏、アクションの金田治氏、音楽の渡辺宙明氏など、それまで多くの名ヒーローを生み出してきた才気あふれるスタッフが集い、この新企画の成功のために一丸となって力を尽くした。
そして生み出された作品が、「宇宙刑事ギャバン」である。

「蒸着!鋼のボディに人の心を持つニュー・ヒーロー」

1977年にアメリカで公開され、1978年には日本で公開されたSF大作「スター・ウォーズ」に端を発し、70年代なかばよりの「宇宙戦艦ヤマト」ブームを経て盛り上がりを見せていたSFブーム。東映も「スター・ウォーズ」を意識した和製スペース・オペラ「宇宙からのメッセージ」を制作し本格的なSF作品の機運が高まりを見せていた。
そのブームに着目していた吉川進プロデューサーの元、「宇宙」及び「SF」を題材にした変身ヒーロー作品の企画が何度も打ち立てられている。「宇宙刑事ギャバン」の企画のもう一つの源流はこれらの企画群だった。そこに提出されたイメージボードの新ヒーローの姿を受け、宇宙よりやってきたメタリックなヒーローが活躍する企画が成立する。

様々な名称が提案される中、フランスの名優ジャン・ギャバンにあやかって「ギャバン」と名付けられたその新ヒーローの、何よりの特徴であるメタリックな装甲を再現するため、レインボー造型企画はFRPにメッキを真空蒸着する独自のスタイルを作り上げ、全身に蒸着メッキが施された銀色に輝くスーツを作り上げた。
この「蒸着」という素材にメッキを定着させる工業手法は、ギャバンの変身の掛け声として使われ、ギャバンというヒーローを代表するフレーズとして定着することになる。

こうして完成した光り輝く装甲に身を包んだヒーローのバックホーンにふさわしい設定として、宇宙を股にかけた巨大なスケールの正義と悪の組織が考案される。正義側の組織としてギャバンを地球に派遣した組織である「銀河連邦警察」は、全宇宙の平和を守るために宇宙刑事たちを惑星に派遣し、宇宙犯罪組織の犯罪と戦っている。
そしてそんな銀河連邦警察と戦う「宇宙犯罪組織マクー」は、いわば宇宙のマフィアであり、獣星帝国として幾多の星々を制圧している巨大な悪の組織だ。凶暴なベム怪獣や、支配した星の獣星人ダブルマンを戦力として持つマクーは、その頂点に立つ謎の存在「ドン・ホラー」によって支配されている。そして今まさに地球にその毒牙を伸ばそうとしているマクーの陰謀を阻止するため、宇宙刑事ギャバンが地球に派遣された、というわけだ。

硬質なパワードスーツに身を包んだヒーロー。
一見、冷徹に正義を遂行する冷たいヒーローをも連想させるメカニカルなデザインを持つこのギャバンというヒーローに、制作陣はヒューマニズムあふれる人物造形を与えた。
宇宙刑事ギャバン、地球での名を一条寺烈は、バード星人の宇宙刑事、ボイサーと地球人の一条寺民子の間に生まれた混血児である。幼い頃に地球の母と別れ、父ボイサーとともにバード星で正義を守るために宇宙刑事となるために育った彼は、母の故郷である地球を守る決意を胸に宇宙刑事となって地球に帰ってきた。そしてもう一つの目的は、仲間だったがマクーに寝返った宇宙刑事、ハンターキラーの裏切りによって消息を絶った父・ボイサーを探すことである。
メインライターとしてシリーズ構成を担当した上原正三氏によって、スーパーヒーローも血の通った人間であることを強調するために設定されたこの親子の絆を描くドラマは、「宇宙刑事ギャバン」というシリーズの縦軸として機能し、一条寺烈=宇宙刑事ギャバンというヒーローに人間味を与えたのである。こうして、鋼のボディに人間の温かい心を持った、新時代のニュー・ヒーローが誕生しようとしていた。

「マクーの攻撃、迎え撃つギャバン」

かくして1982年3月、「宇宙刑事ギャバン」の放送がスタートする。
ヒーローの持つ精神性を熱く歌った主題歌と、それに合わせ、夜の闇の中に輝きを放ちながら登場する、鋼の鎧に身を固めた全く新しいヒーロー。金田治アクション監督の元、JACの精鋭たちによって繰り広げられる、TV番組の域を超えた激しいアクション。銀河連邦警察と宇宙犯罪組織マクーの攻防というスケールの大きな、それでいて単純明快な設定。戦闘円盤を繰り出すマクーの攻撃に臆せず、数々のスーパーメカでそれを打ち破る圧倒的な頼もしさを持つヒーロー。全ての要素が視聴者の興味を引き、「宇宙刑事ギャバン」はたちまち人気番組となった。

「宇宙刑事ギャバン」という作品は、80年代ヒーローのニュー・スタンダードとして、様々な革新的要素を確立させている。一条寺烈がコンバットスーツを蒸着、ギャバンとなるシーンは、瞬時にギャバンの姿に変わるシーンの後に、ナレーションによる解説とともにその蒸着プロセスをプレイバックして見せる、という独自の演出がなされた。
「変身ポーズ」を行うカットの挿入により、アクションやドラマの流れが一度停止してしまう問題を解決したこの手法は、ドラマのスピード感を損なわず、変身プロセスを印象深く演出することに成功し、後に続く「宇宙刑事シリーズ」に受け継がれる伝統の手法となった。

ヒーローが様々なメカを駆使して戦うシーンが毎回の流れとして定着したのも特筆事項である。
かつての「イナズマンF」において、イナズマンが操るスーパーマシン「ライジンゴー」の玩具が人気でありながら、ドラマ重視の作風を追求した結果、玩具の販促であるライジンゴーの活躍シーンが減少する、という事態を招いていた。
その後、ロボや母艦の玩具展開と連動した作風となった「スーパー戦隊シリーズ」において玩具展開と連動したメカやロボットの登場が定番となったことを受け、玩具展開を最初から意識して企画された「宇宙刑事ギャバン」では、毎回のようにマクーが戦闘円盤を繰り出し、それに対してギャバンが超次元高速機ドルギランを呼び、ドルギランから分離した電子聖獣ドルの頭部に飛び乗って戦闘円盤を撃墜するシーンが挿入された。
玩具販促を強く意識したこのシーンが定番パターンとして挿入されることで、様々なメカを駆使して戦う宇宙スケールのヒーローという印象を強く演出することにも成功している。

東通ECGシステムの本格的な採用で可能になった合成カットの増加も「宇宙刑事ギャバン」の特徴だ。ECGシステムとはVTRを映画のフィルムに変換するシステムのことである。
これまでの特撮作品において用いられてきた16mmフィルムを使った合成では、オプチカル処理に多額の予算と時間が費やされ、合成の成功もフィルムの現像が仕上がらなければ確認できないというデメリットがあった。
一方でVTRで合成を行えば、オンタイムでモニターに映像を映し仕上がりの確認ができるだけでなく、何度でもやり直しが出来る。しかしVTRで合成された素材をフィルムに変換する場合に、従来では画質が大幅に劣化してしまうというデメリットが存在していた。しかしECGシステムが導入されたことで、VTRからフィルムの変換に伴う画質の劣化は比較的抑えられるようになり、鮮明な画質のフィルム映像を作り出すことが可能になった。
「仮面ライダー(スカイライダー)」にて、スカイライダーがセイリングジャンプを行い飛行するシーンの合成に試験的に用いられていたこのECGシステムの本格導入によって、「宇宙刑事ギャバン」制作陣はそのイマジネーションを存分に発揮した合成カットを次々に生み出していった。エンディング映像で毎回挿入されていた、巨大な大球が一条寺烈を襲うシーンや、後述する魔空空間に浮かぶ惑星のアステロイドベルトでベム怪獣とギャバンが戦うシーンなどの名カットが次々生み出され、視聴者の目を引きつけている。

この合成カットをふんだんに使用できる、というメリットを映像の売りとして活かすために考案されたのが、マクーが作り出す異空間、「魔空空間」の設定だ。夢とも現実ともつかない不条理な現象が巻き起こるこの異空間は、一種のブラックホールであり、マクーの繰り出すベム怪獣やダブルマンはこの魔空空間では3倍の能力を発揮することが出来る。
あらゆる物理法則が通用しないこの異空間を、「宇宙刑事ギャバン」制作陣は数々の合成カットを連続させ描いた。幻想的なイメージを演出することに成功したこの「魔空空間」の設定は、続く「宇宙刑事シリーズ」においても「幻夢界」「不思議時空」と名前や設定を変えながら踏襲され、シリーズの特徴となっていく。

これらの革新的な要素は、続く「宇宙刑事シリーズ」や、それに端を発する「メタルヒーローシリーズ」にも多かれ少なかれ影響を与え、東映特撮ヒーロー作品における重要なファクターとなっていく。革新的なビジュアルを備えたヒーローがもたらしたヒーロー作品の革新は、80年代から90年代という時代を駆け抜けた「メタルヒーローシリーズ」の基盤となり、ヒーロー作品のニュー・スタンダードとして、「宇宙刑事ギャバン」の名を歴史に刻んでいる。

「名も無い花を踏みつけられない男」

「宇宙刑事ギャバン」という作品が人々の心を掴んだのは、前述した革新的要素のすべてが高いレベルで演出された、特撮アクションドラマとして完成度の高い作品として完成されている作風を展開したことが理由として挙げられるだろう。
そして「宇宙刑事ギャバン」が今なお人々の心に強い印象を残しているのは、主人公であるギャバン=一条寺烈が見せた、情感に溢れた人間ドラマにもある。

一条寺烈を演じた大葉健二氏は、自らが演じるギャバンのデザインを見て、彼が宇宙一強いヒーローであることを感じとった。そして宇宙一強いということは、宇宙一優しい男でもあるはずだ、と解釈し、一条寺烈というキャラクターの人間性を構築していった。母親の故郷である地球を守り、どこかにいるかもしれない父親を探そうとしている一条寺烈の行動原理は、計り知れないほどの「愛」である。一条寺烈はその「愛」を、地球に生きる全ての命に向ける、宇宙一の優しさを持つ男だった。悪の暴力から、子供や動物たち弱者を身を挺して守る姿はシリーズを通して何度も描かれ、一条寺烈という男の「愛」が象徴的に描かれている。

もはやテレビ番組の域を超えたアクションを満載した、シリーズ屈指の人気エピソードである第15話「幻?影?魔空都市」においても、物語の発端となるのは高熱に苦しみ道でうずくまっていた少女を一条寺烈が助けるシーンだ。
さらにその好評を受け、アクションをより一層強化した続編とも言えるエピソードの第41話「魔空都市は男の戦場  赤い生命の砂時計」においても、川に流されようとしている子犬を一条寺烈が助けるところから物語が始まる。
これらのアクションドラマとして人気の高いエピソードにおいても、魔空空間の不条理な現象に翻弄されながら抜群の身体能力でそれをくぐり抜けていく一条寺烈の「強さ」だけでなく、弱者を決して見捨てない「愛」が描かれており、一条寺烈は決して強いだけの男ではなく、心に「愛」を持った人間であることが強調されている。

そんな「強さ」と「愛」を兼ね備えた究極のスーパー・ヒーローである一条寺烈の物語の縦軸となったのが、生死不明になった父・ボイサーの消息を追うドラマである。
第11話「父は生きているのか?謎のSOS信号」において、宇宙刑事しか知らないSOS信号をキャッチした一条寺烈は、裏切り者のハンターキラーの罠かもしれないことを承知で、父の生存の可能性を信じSOS信号の発信元へと急行する。そこでマクーに襲われていた少女、星野月子を助けた一条寺烈は、彼女の口から、彼女の父が発明したプラズマエネルギー発生装置がマクーによって奪われており、彼女の父は親友だったボイサーに彼女のことを託して息を引き取った事を知る。そしてボイサーが乗っていたと思われる朽ち果てた宇宙船を発見した烈は、ボイサーが残した上着と、母・民子と自分の写真が入っている懐中時計を発見するのであった。懐中時計のオルゴールが鳴り響く中、生き別れた父の面影を発見し、父への想いから涙をこぼす烈の姿は情感たっぷりに演出され、「宇宙刑事ギャバン」を単純明快、痛快なアクションドラマの中に親子の「愛」を描く人間ドラマをも内包した作品としてその完成度を高めたのである。

こうして過激なアクションと情感に溢れた人間ドラマを演出した「宇宙刑事ギャバン」は世代を問わず絶大な支持を受け、当初は半年間の予定の放送期間は1年間に延長されることになる。
その中で制作陣は「宇宙刑事」らしい演出をさらに洗練していき、3年間に渡って展開されることになる「宇宙刑事」シリーズの基盤を確固たるものにしていくのであった。

「正義一閃!レーザーブレード」

ギャバンの必殺武器、「レーザーブレード」。普段は刀身を持つ実体剣であるこの武器は、ギャバンが手のひらを剣にかざし、ダイナミックレーザーパワーを注ぎ込むことで光る剣となり、必殺の「ギャバンダイナミック」を放つことが出来る。言うまでもなく「スター・ウォーズ」のライトセーバーに影響を受けたこの武器は、ギャバンの持つ未来的なイメージを視覚から演出し、やはり「宇宙刑事」シリーズ共通のアイテムとして、絶大な支持を受けることになる。

「宇宙刑事ギャバン」中盤より、このレーザーブレードを起動させるシーンには特定のBGMが毎回のように選曲されることになった。ファンの間で「レーザーブレードのテーマ」として親しまれ、続く「宇宙刑事」シリーズだけでなく、音楽の渡辺宙明氏が担当した他作品においても同様のモチーフを持った曲が作曲されているこの名BGMは、本来マクー側のBGMとして作曲されたもので、戦いの緊迫感を煽るイントロから流麗なメロディへ盛り上がりを見せるその曲調は戦闘シーンを強く盛り上げたことから、ギャバンが振るう正義の剣、レーザーブレードのテーマとして定着した。
選曲を担当した村田好次氏による、最初につけられた題名や作曲テーマにとらわれることなく、劇伴1曲1曲を聞き込むことで画面に適した劇伴を的確に選びぬいた、卓越したセンスによる選曲によって、特撮・アニメ音楽史にその名を刻む名曲が広く知られることになったのである。

「危うし烈!大逆転」

ベム怪獣とダブルマンを使い、様々な作戦を展開してきた宇宙犯罪組織マクーだったが、その陰謀は尽く宇宙刑事ギャバンの活躍で阻止されていく。そんな状況にドン・ホラーが手をこまねいていた訳では無い。
第13話「危うし烈!大逆転」において、モンスターのパワーが自分にあればギャバンに勝てる、と進言したダブルマンの言葉をヒントに、生体合体装置を完成させたマクーは、ダブルマンの知能とベム怪獣のパワーを併せ持つ強敵、ダブルモンスターを生み出す。その力はギャバンをも戦慄させ、死をも覚悟して戦いに臨まなければならないほどだった。
ベム怪獣とダブルマンという2種類の怪人をダブルモンスターに一本化することでドラマの構図をシンプルに整理し、かつさらに手強さを増したマクーの恐ろしさをも演出したダブルモンスターの登場を期に、ギャバンとマクーの戦いは更に激化することになる。

そして第30話「ドンホラーの息子が魔空城に帰ってきた」では、ドン・ホラーの息子である男、サン・ドルバと、その母親を名乗る魔女キバが登場。それを快く思わないハンターキラーのマクーへの裏切りと、裏切りが発覚したことによる暗黒銀河への永久追放をもって、マクーの組織体制は一変することになる。数々のヒーローを演じてきた宮内洋氏を、宇宙刑事アラン役としてゲストに招き展開されたこの怒涛の展開は中盤を迎えたシリーズを盛り上げた。

サン・ドルバはドン・ホラーの息子である。その点において、サン・ドルバは「宇宙刑事ギャバン」のテーマの1つである「親子愛」の負の側面を描く役割を担うことになった。
第35話「マクーの若獅子 サンドルバの反抗」では、ドン・ホラーがサン・ドルバを「ギャバンを倒すまで帰ってくるな」と厳しい態度で勘当する。ギャバンに勝てない不甲斐ない息子に、強く逞しくなって帰ってきて欲しい、という親心からあえて厳しく接するドン・ホラーからは、悪の首領とは思えない「父親」の愛が感じられる。しかし、親の心子知らずと言うべきか、サン・ドルバは勘当された事実に憤り、自分の力で強くなってギャバンを倒す道ではなく、魔女キバの入れ知恵での人質作戦でのギャバン打倒を目指すのであった。
ドン・ホラーとサン・ドルバの親子の間の、近くにいるにも関わらずのディスコミュニケーションぶり、というよりは親心を理解しようとしない子供という構図は、生き別れ、離れ離れになっていても互いのことを想い試練に耐えるギャバンとボイサーの親子関係と徹底的に対象的なものとして描かれ、「親子愛」を巡る物語を奥深いものにしている。

「再会と別離」

かくして展開していった宇宙刑事ギャバンと宇宙犯罪組織マクーの戦いのクライマックスは、最終3部作として3話もの話数を割いて展開された。
既に「宇宙刑事ギャバン」はその好評を受けて続編企画「宇宙刑事シャリバン」が成立しており、最終3部作の序章となる第42話「烈よ急げ!父よ」では、「宇宙刑事シャリバン」の主人公である伊賀電と一条寺烈の出会いが描かれている。バッファローダブラーに勇敢に立ち向かい重症を負った伊賀電の命を救うべく、烈は彼をバード星へと送り、バード星の医療技術に彼の命を託すのであった。一方で、銀河連邦警察は暗黒銀河へ追放されていたハンターキラーを保護することに成功する。ハンターキラーは尋問を受け、ついにマクー基地の在り処を自白するのであった。マクー基地に向かった烈だったが、既にその動向はマクーの知るところとなり、サン・ドルバはボイサーを連れて基地を脱出していた。
マクーはボイサーが知る、星野博士が作り出したプラズマエネルギー発生装置の秘密を聞き出し、大量破壊兵器「ホシノスペースカノン」を完成させようとしていたのだ。

続く第43話「再会」にて、マクーの鬼首島総本部基地に捕らえられたボイサーは、魔女キバの作り出した自白液によって苦しみながら、執念とギャバンとの再会を願う想いで過酷な拷問に耐え続けていた。やがて父を思うギャバンの想いと、息子を思うボイサーの想いが通じたのか、ボイサーの声がギャバンに届き、ギャバンはついにマクー基地を発見。熾烈な攻防の果てに、建造中だったホシノスペースカノンの破壊と父の救出を成し遂げる。懐中時計のオルゴールのメロディが鳴り響く中、生き別れた親子はついに再会を果たしたのだ。

ここで描かれた、ギャバンとボイサー親子の、互いを思い合う気持ちが奇跡を起こし、遠く離れた相手の声を聞きつける描写は、脚本を担当した上原正三氏が好んで用いるドラマチックな人物描写であり、後の「宇宙刑事シャイダー」においても、シャイダーとアニーという二人の宇宙刑事の心の繋がりを示す描写として描かれる。
この人間同士の心のつながりの強さを描いた描写が、「宇宙刑事」という未来的なハイテク感覚に溢れたヒーローに人間的な情感を付与し、我々の心に大きな感動を呼んだのであった。

再会した父との語らいという、ようやく掴んだ安らぎの時間は長くは続かなかった。
過酷な拷問に耐えぬいたボイサーの命は今まさに尽きようとしていたのだ。
強く、優しく成長したギャバンの姿を見届けたボイサーは、妻、一条寺民子を想いながら、永遠の眠りにつく。その体にはホシノスペースカノンのレーザー増幅システムの設計図が浮かび上がっていた。ボイサーは設計図を自らの身体に刻み込み、体温のある限り浮かび上がらない仕掛けをしていたのだ。自らの命をかけ、宇宙の平和を揺るがしかねない秘密を守り抜いたのである。
ギャバンはそんな父の姿に本当の勇気と優しさを学び、マクーへの闘志を燃やすのであった。

自らに課した使命のために懸命に生き抜く「執念」を抱いたボイサーのキャラクター性は、同じ上原正三氏が脚本を担当した「スパイダーマン」におけるスパイダー星人、ガリアを思わせる。
スパイダー星をモンスター教授に奪われ、一族をも滅ぼされたガリアは、400年もの時を執念で生き続け、自らの使命を託す若者、山城拓哉へテレパシーを送り、その到来を待ち続けていた。
執念とともに生き抜き、使命を託して散っていく彼らの姿は、山城拓哉や一条寺烈といった若者にその使命を自覚させ、高みへと導いた。この「執念」のドラマも上原正三氏が得意とするパターンの1つである。

ボイサーを演じたのはJACを創設した世界的なアクションスター、千葉真一氏だ。
ギャバンを演じた大葉健二と師弟関係にある彼がボイサーを演じたことで、演技を超えた実際の親子のような関係性が画面を通して演出され、視聴者の心を打つ名シーンを産んだのである。

「星空のメッセージ」

いよいよ迎えた最終回「ドンホラーの首」では、一条寺烈の周囲の人々を人質に取ったサン・ドルバと魔女キバがギャバンに最後の挑戦をする。しかしギャバンはあっさりとそれを撃退。ホシノスペースカノンを破壊されただけでなく、人質を取りながらギャバンに敗れたサン・ドルバのあまりの不甲斐なさに怒るドン・ホラーは、再びサン・ドルバを勘当。ここでもギャバンとボイサー親子が見せた親子の絆とは対象的な機能不全の親子関係が描かれている。
魔女キバの入れ知恵でドン・ホラーとギャバンを対決させ、同士討ちによる漁夫の利を狙ったサン・ドルバは魔空城を動かしギャバンが乗るドルギランを攻撃させるが、その目論見はドン・ホラーには筒抜けで、結局サン・ドルバはギャバンとの直接対決を避けられなくなる。
どこまでも卑劣なサン・ドルバは、魔女キバをギャバンに近い者たちの姿に変身させながらギャバンを攻め立てる。魔女キバであるとわかっていても刃を向けることが出来ないギャバンは窮地に陥るが、父ボイサーの姿を思い出すと、闘志を振り絞り立ち上がるのであった。
ここでもギャバンとボイサーの親子の絆こそが最後の力を振り絞る原動力になる、ことが描かれ、ドン・ホラーとサン・ドルバの醜い親子関係との対比を見せている。

ギャバンにとどめを刺そうとしたサン・ドルバの攻撃を、赤い光球が阻んだ。
その光球は、太陽のように輝く真紅のコンバットスーツを身に纏った宇宙刑事へと姿を変える。新たな宇宙刑事、それはバード星で治療を受け回復し、新たな宇宙刑事となった伊賀電が赤射蒸着した、宇宙刑事シャリバンだった。
シャリバンの登場に奮い立ったギャバンは、サン・ドルバと魔女キバを打ち倒す。そして魔空城に突入したギャバンは、ドン・ホラーとの一騎打ちの果てにドン・ホラーを打倒、ドン・ホラーとともに宇宙犯罪組織マクーは滅んだのだった。

ギャバンはマクーを壊滅させた功績で銀河パトロール隊の隊長へと昇進し、地球の守りをシャリバンに託すことになって「宇宙刑事ギャバン」は幕を閉じる。一条寺烈の父親探しや星野博士の発明の秘密という「宇宙刑事ギャバン」のドラマの縦軸の消化と、次シリーズである「宇宙刑事シャリバン」への橋渡しを見事に成し遂げたこの最終三部作の完成度の高さが「宇宙刑事ギャバン」という作品の評価を決定づけたことは間違いないだろう。
ギャバンとボイサー、ドン・ホラーとサン・ドルバという二組の親子の対象的な姿を通して、「親子愛」というテーマを描ききったドラマは、今見ても色褪せない輝きを放っている。

「宇宙刑事ギャバン」は間違いなく東映特撮ヒーロー史の一つの転換点だった。
玩具販促シーンとしてのメカアクションに割く尺を確保しつつ、激しいアクションと重厚な人間ドラマを展開した密度の濃いドラマを成立させたことで、特撮ヒーロー作品は作品のテーマ性をスポイルしないまま玩具販促をもこなしてみせる、「スーパー戦隊シリーズ」が構築してきた職人芸とも言える作品制作体制を、特撮番組に完全に定着させたのだ。
テーマ性だけを追求することもなく、一方で玩具販促描写だけに気を取られることもなく、描きたいテーマを描きながら、玩具が発売されるキャラクターの魅力をもしっかりと描く。単なるドラマ作りよりもずっと難易度が高いこのミッションを、「スーパー戦隊シリーズ」と「宇宙刑事ギャバン」が達成したことで、玩具会社と映像制作プロダクションがガッチリと協力し、よりよい作品作りが行われていく態勢が整ったとも言える。
「宇宙刑事ギャバン」はその革新的なデザインが持つ力によって、特撮ヒーロー作品の作品づくりの姿勢をも革新し、ヒーロー作品のニュー・スタンダードを築いたのである。

「宇宙刑事ギャバン」は2023年7月現在、東映特撮ファンクラブU-NEXTなどで有料見放題配信中だ。今なお古びないギャバンのコンバットスーツのデザインのカッコよさや、一条寺烈が見せる過激なアクション、SF感覚が魅力にあふれるメカの活躍。娯楽作品として追求されたこれらの要素は、今も見る者の胸のエンジンに火をつけてくれる。
そして人間同士の心のつながりの強さを描いた人間ドラマが、あなたの心に大切な人のことを想いやる、温かい星空のメッセージを届けてくれるはずだ。

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