「百発百中のガンプレイ」
「超人機メタルダー」は、「宇宙刑事ギャバン」に端を発するコンバットスーツ・ヒーロー作品群が、その集大成とも言える「時空戦士スピルバン」の完結に伴い一区切りを迎えた事を受け、新しいヒーロー作品の流れを生み出すべく制作された特撮ヒーロー作品だ。
そのネーミングや赤と青が半々に分かれたカラーリング、そして「自省回路」を内蔵したことで「心」を持つロボット・ヒーローであるという属性は、言うまでもなく東映特撮ヒーロー作品史にその名を残す「人造人間キカイダー」に影響を受けたも。
「超人機メタルダー」は「人造人間キカイダー」で描かれていた「心」を持つロボットの悲劇をより洗練させ、80年代という時代背景にフィットした描写で描き直した作品である。
この作品の特徴は、敵役であるネロス帝国の軍団員にフォーカスしたドラマが幾度も展開されたことだ。1話毎に異なる怪人が順繰りに登場する、という特撮作品の「お約束」に対して挑戦したこの作品は、第1話より数十人にわたるネロス帝国の軍団員が一斉に登場。何体もの怪人・ロボットが共同で作戦を行い、ネロス帝国の野望を阻止する可能性のあるメタルダーの破壊を目論んで苛烈な攻撃を仕掛けてくる。OPフィルムで軍団員が横並びになりメタルダーに迫る圧巻のカットは、ネロス帝国という軍団の強大さやスケールの大きさを否が応でも感じさせた。
一説には「キン肉マン」や「聖闘士星矢」のヒットで敵キャラクターをも含めた世界観を売り出す目的で志向されたと言われる敵キャラクターのドラマに力を入れた描写は、当時販売された玩具のメイン展開が敵キャラクターのフィギュアを中心とした「ゴーストバンクシリーズ」だったことにも後押しされ、敵キャラクターのドラマ描写こそが玩具販促シーンであるという、「超人機メタルダー」独自の構造を成立させている。
ネロス帝国軍団員は固有のパーソナリティーが描かれ、彼らを主役にしたドラマが続出した。
「伝説の巨人」とまで讃えられた勇者でありながら戦うことに意義を見いだせず引退、修理ロボットになったものの、若き戦士の助命のために戦場に立ちメタルダーと戦ったビックウェイン。
軍団内でも最下級の戦士として蔑視されながら、恋人であるウィズダムと幸せな家庭を築くという夢のためメタルダーに挑み、たった1人で夢と愛のために戦ったヘドグロス。
戦闘ロボットでありながら動物を愛する情緒を備えており、戦場に迷い込んだ子犬を助けるため身を挺して地雷原の爆発から子犬を救ったブルチェック。
その他にも様々な怪人・ロボット・モンスターがメタルダーの前に姿を表し、その信念のままにメタルダーと対決、散っていった。そんなネロス帝国軍団員の中でもひときわ印象に残り、その生き様で我々を魅了したのが「トップガンダー」だ。
軍団内でも最下級の戦士として蔑視されながら、恋人であるウィズダムと幸せな家庭を築くという夢のためメタルダーに挑み、たった1人で夢と愛のために戦ったヘドグロス。
戦闘ロボットでありながら動物を愛する情緒を備えており、戦場に迷い込んだ子犬を助けるため身を挺して地雷原の爆発から子犬を救ったブルチェック。
その他にも様々な怪人・ロボット・モンスターがメタルダーの前に姿を表し、その信念のままにメタルダーと対決、散っていった。そんなネロス帝国軍団員の中でもひときわ印象に残り、その生き様で我々を魅了したのが「トップガンダー」だ。
「走る独眼竜トップガンダー」
トップガンダーは漆黒のボディを持つガンマンロボットである。隻眼であるその姿はサブタイトルをして「独眼竜」と言われ、銀色の巨大な左腕がひときわ印象に残るその姿は、メタルダーをキカイダーの現代版とするならば、まさにハカイダーの現代版とも言えるだろう。
勝つことが正義である勝負の世界に身を置く彼は、同時にフェアプレーで戦うことに誇りを感じており、ガンマンの誇りとして一発必中をモットーにする、独自の美学を持つロボットである。
メタルダーとの一騎打ちでは武器を持たないメタルダーに合わせて武器を捨て、「自分のライフルを先に取ったほうが勝ち」と公平なルールでの戦いを挑むなど、暗殺を請け負うヒットマンでありながら武人でもある、多面的な「心」を持つ彼は、メタルダーに敗れるもののその武人としての心意気に感じ入ったメタルダーに命を助けられる。軍団の掟で敗者として処刑されそうになるが、メタルダーとの戦いを求め脱走、裏切り者としてネロス帝国軍団員に追われる中で再びメタルダーに救われ、彼と友情を結ぶことになり、再戦を約束して腕を磨くさすらいの旅に出る。
その後、因縁深い2丁拳銃を振るうガンマンロボ・クロスランダーの登場に合わせ帰還した彼は、ネロス帝国の非道に憤り、メタルダーと共にネロス帝国に立ち向かうことを決意。
メタルダーの無二の戦友として幾多の死線をくぐることになる。
そんな、軍団を裏切り友情に生きた孤高のガンマンの「最期」は、非常に乾いたものだった。
「熱き友情の脱出」
シリーズ後半にトップガンダーをフォーカスしたのが第33話「大包囲網 熱き友情の脱出」だ。
冒頭、トップガンダーは夢を見る。
冒頭、トップガンダーは夢を見る。
それは自らがネロス帝国の首領、ゴッドネロスの暗殺に成功し、自由と平和を取り戻したことを喜んだのもつかの間、無二の戦友であるメタルダーが自らのもとから去っていく悪夢だった。
夢を見るロボット、という描写がSF感を強める描写。
ここで描かれているのは暗殺を生業としてきたロボットの孤独だった。
ネロス帝国のヒットマンとして数々の暗殺を請け負ってきた血塗られた過去。
その過去に対する負い目が、メタルダーという無二の戦友と共に平和の喜びを味わうことを許さずに、メタルダーが自らから離れていく悪夢として結実した、ともとれる。
その過去に対する負い目が、メタルダーという無二の戦友と共に平和の喜びを味わうことを許さずに、メタルダーが自らから離れていく悪夢として結実した、ともとれる。
目覚めたトップガンダーは、メタルダーが離れていく夢に寂しさを覚えながら、1人ヒットマンとして生き、勝負の世界に身をおいてきた人生に疲れたことを独白する。
だがそこに、ネロス帝国軍団員が襲撃してきた。
トップガンダーは苛烈な波状攻撃の前についにネロス帝国に捕らえられてしまう。
捕らえられたトップガンダーはネロス帝国を裏切ったことを誇りに思うこと、殺しの美学に意味などないこと、そしてメタルダーという最高の友を得た今、人生に悔いはない事を叫ぶ。
生きるか死ぬかの世界に身をおいてきた孤独なガンマンは、無二の親友を得たことで孤独から開放された。しかしネロス帝国はトップガンダーを囮にしてメタルダーを誘い出すことを目論見、トップガンダーは人質にされてしまう。
トップガンダーを救出に来たメタルダーは北八荒の助けもありトップガンダーを救出するものの、クロスランダーの凶弾からメタルダーを庇ったトップガンダーは回路を撃ち抜かれる。
傷ついたトップガンダーを連れ、ネロス帝国の包囲網から脱出に成功したメタルダーに、トップガンダーは命あるものは必ず滅ぶ運命であり、メタルダーと出会えたことが幸せだったこと、もはや思い残すことはないことを告げ、機能を停止するのであった。
「最愛の友 ここに眠る」
以上がトップガンダー主役エピソード「大包囲網 熱き友情の脱出」のあらすじだ。
何も乾いた最期ではない、ヒューマニズムに溢れた感動の最期にも思えるだろう。
しかしこの話には続きがある。メタルダーはトップガンダーを見捨てはしない、という言葉の通り、破壊された回路の修復に成功。トップガンダーはなんと生還するのである。
そう、彼はこの散り際として用意されたのであろうこのエピソードでは命を散らさず、ゴッドネロスとの最終決戦にメタルダーとともに挑むことになるのだ。
脚本段階ではトップガンダーの残骸を埋葬し葬ったメタルダーがゴッドネロスとの決着の決意を新たにしていた一方、実際の完成作品では復活したトップガンダーとメタルダーが友情を確認し合うシーンで完結している。
ではトップガンダーの「最期」とはどのようなものだったのだろうか。
彼の「最期」は第37話「大崩壊!ネロス帝国」において唐突に訪れる。
ネロス帝国の本拠地ゴーストバンクを崩壊させ、生き残った機甲軍団をも壊滅させたメタルダーとトップガンダー。しかしトップガンダーはそこに現れたクールギンに背後からの不意打ちを受け、メタルダーの名を叫びながら最期を迎えることになる。その最期は、第33話で描かれたような劇的なものでなく、淡々としたものだった。
ネロス帝国崩壊というクライマックスの中で描かれたこのトップガンダーの最期が第33話のような劇的なものでなかったのは、単なる尺の都合と言ってしまえばそこまでであろう。
しかしメタルダーとともに戦ってきた、平成ライダーで言うなら2号ライダーのポジションであるこのトップガンダーというキャラクターの最期にはあまりにも寂しすぎるのも確かだ。脚本段階で最期を迎えることになっていた第33話での最期を先延ばしにしてまでこの展開になった意味は、果たしてどのようなものだったのだろうか。
しかしメタルダーとともに戦ってきた、平成ライダーで言うなら2号ライダーのポジションであるこのトップガンダーというキャラクターの最期にはあまりにも寂しすぎるのも確かだ。脚本段階で最期を迎えることになっていた第33話での最期を先延ばしにしてまでこの展開になった意味は、果たしてどのようなものだったのだろうか。
あれだけ劇的かつ感動的に死を迎える第33話で、トップガンダーはある意味では死に損なったことになる。ここで否が応でも感じてしまうのは、暗殺という稼業に身を染め、多くの命を奪ってきたトップガンダーにとって、メタルダーとの友情を貫き通し劇的に死ぬ、という結末が、己が生き様に満足して散るという「救い」になってしまうがゆえに、制作陣がこの最期はトップガンダーに相応しくない、と判断したのではないか、ということだ。
あれだけ劇的な最期を迎えそうな時には死ぬことは許されず、本当にその命を散らせる時には、親友であるメタルダーに何も言い残せないままあっさりと最後を迎えてしまう。
こうした乾いた最期が、暗殺で多くの命を奪ってきたロボット、トップガンダーには相応しい。
暗殺者という肩書は格好いい、フィクションではよく出てくる職業だ。
しかしそれは、他者の命を奪うことを生業とすること。そんな罪をいくつも背負った存在に、友を得た充足と感謝を伝えて満足の中散ることは相応しくない。
そういった考えが制作陣にはあったのではないか、とも思う。
生と死が日常である戦いの世界で生きてきたからこそ、戦いの中であっさりとその命を散らしてしまう。そうした戦いの虚しさをこそ、「超人機メタルダー」制作陣はトップガンダーの最期を通して伝えようとしたのではないか、と思う。
「超人機メタルダー」は2023年7月現在東映特撮ファンクラブやU-NEXTで有料見放題配信中だ。トップガンダーだけでなく、個性豊かなネロス帝国軍団員が織りなすドラマや、メタルダー=剣流星が自身の生まれてきた意味を求めさすらい戦うドラマの重厚さは、今見ても圧巻だ。
「心」を獲得していく機械=超人機と、多くの「心」を持ったロボットや怪人たちが織りなすドラマの中で、宇宙全体よりも広くて深い「心」の多様さを目撃してほしい。
こいつはすごいぜ!