「仮面ライダーストロンガー」感想メモ ~終わりの美学が産んだ、シリーズ最大のクライマックス~

2023年8月11日金曜日

仮面ライダーストロンガー 感想

t f B! P L

 「ヒーロー番組の原点への回帰」

「原点回帰」を掲げ、「仮面ライダー」の、異形の姿ゆえの人間社会からの孤立という要素を、アマゾンの奥地で1人育った野生児として換骨奪胎し、原点回帰を志向しながら最大の異色作として成立した「仮面ライダーアマゾン」。
主人公であるアマゾンのインパクトの強いキャラクターが話題を呼んだこの作品は、しかし全24話という、シリーズでも最短の放送期間を持って放送を終了することになった。それは人気の低迷からではなく、放送局である毎日放送が、これまでのNET(日本教育テレビ、現テレビ朝日)系列を離れ、TBS系のネット局に編成されることになったネット改変の影響で、TBS側からの改変と同時に新番組をスタートさせる要請を受けたやむを得ないものだった。

東映・毎日放送はこれを受け、急遽新番組企画の検討を開始する。東映サイドが最初に提案したのは、一度に5人の新ライダーを登場させる、「5人ライダー」という大胆な策だった。しかしこの企画は、一度に大勢の新キャラクターが登場することによる個々のキャラクター性の低下を危惧した毎日放送側に却下されてしまう。
結果的にこの「5人ライダー」の企画は、「仮面ライダー」シリーズを失い新たな企画を模索していたNETが継承することになり、ヒーローの共演というイベントをレギュラー化したグループ・ヒーロー、「秘密戦隊ゴレンジャー」として成立。絶大な人気を得て、現在まで続く「スーパー戦隊シリーズ」の祖となることになる。

平山亨プロデューサーは、既に下火となっていた「変身ブーム」の中でも孤軍奮闘しながらも、全盛期の「仮面ライダー」「仮面ライダーV3」ほどの支持を得られなかった「仮面ライダーX」「仮面ライダーアマゾン」を経て、シリーズに漂い始めていた手詰まり感を、ヒーローものとしての原点、すなわち徹底的に強く、頼もしいヒーローを描くことに立ち返ることで打破することを狙いとし、「単純明快・痛快明朗」なヒーロー像の模索を開始する。
そうして完成した企画が、「仮面ライダースパーク」だった。

「改造電気人間」である仮面ライダースパークの痛快な活躍を描くことを志向したこの企画は、改造電気人間という新たな設定を付与し、従来のアクションに加え電気の力を用いた様々な技を描き、新鮮味のある画作りで視聴者の興味を引くことが目指された。
そしてシリーズ最大の特色となる要素として、シリーズ初の女性変身ヒーロー・電波人間タックルの登場が挙げられる。女の子の視聴者からの「私達も仮面ライダーごっこがしたい」という意見を耳にしていた平山亨プロデューサーが、その意見に応える形で考案したこのキャラクターは、ストロンガーの相棒として共に悪に立ち向かう。「孤独」なヒーローとして志向された「仮面ライダー」の原点に回帰し、身寄りのない野生児として主人公アマゾンを描いた「仮面ライダーアマゾン」の企画とは対極をなすこの「相棒」の存在は、二人の改造人間同士の丁々発止のやり取りを産み、ドラマ展開の幅を広げることに成功している。

こうして完成した「仮面ライダースパーク」の企画を受け、原作者である石ノ森章太郎にデザインの発注が行われた。この新番組企画が徹底的に強いヒーローが織りなす痛快な作風を志向し、新たなヒーローにはこれまでのライダーよりもパワフルなデザインが求められていたことを、石ノ森章太郎は的確に汲み取り、モチーフとして昆虫の王様、カブトムシを採用。これまでのライダーの特徴だった触覚はカブトムシの角をカリカチュアライズした2本の角となり、それまでのライダーの共通の特徴だった、どこか哀しみを感じさせる垂れた卵型の複眼を大胆に排除。胸部にはアメリカンフットボールのプロテクターを思わせる装甲を身に纏う、逆三角形の力強い姿は、「徹底的に強い」ヒーローというテーマをその佇まいから体現していた。石ノ森章太郎の非凡なる才能によって、「スパーク」の「S」を象徴的なシンボルマークとして胸に刻んだ新ヒーローは電撃的に生まれ出でたのである。

こうして制作を目前に控える中、毎日放送からの「スパークでは商標登録に引っかかるので新ヒーローの名前を変更して欲しい」という要請が舞い込む。既に決定していた新ヒーローのシンボルとなる胸の「S」マークを活かした上でのネーミング変更を余儀なくされた東映側は、いくつもの「S」イニシャル名の検討を経て、その正式タイトル兼新ヒーロー名を「仮面ライダーストロンガー」に決定。商標登録の都合というやむを得ない事態によって起こったこのヒーロー名の変更は、しかし結果的にこれまでのライダーよりもパワフルな強さを持つ新ヒーローの特徴を名前からして体現するという怪我の功名を産んだ。

主題歌制作も難航した。これまでのシリーズの伝統を受け継ぎ、原作者・石ノ森章太郎の作詞のもと制作された楽曲「見よ!!仮面ライダーストロンガー」が、主題歌としてはパンチ不足と判断されNGとなり、急遽新曲「仮面ライダーストロンガーのうた」が制作されることになった。また、「見よ!!仮面ライダーストロンガー」と、副主題歌である「きょうもたたかうストロンガー」は当初、「レッツゴー!!ライダーキック」、「アマゾンライダーここにあり」を担当した子門真人氏によって歌唱されていたが、これも水木一郎氏の歌唱に変更。正式に主題歌に決定した「仮面ライダーストロンガーのうた」も水木一郎氏による歌唱で世に出ることになる。
この主題歌を巡る紆余曲折も、行き詰まりを見せていた「変身ブーム」の閉塞感を打破すべく、妥協なき姿勢で新企画に臨んだ制作陣の意気込みの表れだろう。

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ」

天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。悪を倒せと俺を呼ぶ。
聞け悪人ども!俺は正義の戦士、仮面ライダーストロンガー!

高らかな名のりを挙げ、正義の戦士が悪との戦いを開始した。
「仮面ライダーストロンガー」第1話「おれは電気人間ストロンガー!!」は、これまでの「仮面ライダー」シリーズや、その他の特撮ヒーロー作品が、その序章となる第1話でヒーローの誕生を描いていたのに対し、仮面ライダーストロンガーとその相棒、電波人間タックルと、彼らが戦う悪の組織・ブラックサタンとの息詰まる攻防戦を描いた。
この変則的な構成は、仮面ライダーストロンガーの持つ、悪を打ち破る強さを十全に演出してその魅力を視聴者に伝えると同時に、なぜストロンガーとタックルは改造人間になったのか、そして悪の組織・ブラックサタンとは何かという謎を提供することで、次回以降の展開を期待させ視聴者の興味を引くことを意図している。
そこには第5作を迎えた「仮面ライダー」シリーズだからこそ出来るパターン破りの手法が用いられ、シリーズのマンネリ感を見事に打破することに成功した、と言えよう。

かくして迎えた第2話「ストロンガーとタックルの秘密!」では城茂=仮面ライダーストロンガーと岬ユリ子=電波人間タックルがブラックサタンとの戦いを開始した経緯が説明される。
自ら進んでブラックサタンによる改造手術を受けた城茂は、厳しい適応テストに耐えたその身体能力を見込まれ、強力なカブトムシのパワーを持つ改造電気人間、ストロンガーとなる。組織に忠誠を誓う儀式が行われようとしたその時、ストロンガーは組織に反旗を翻す。彼は自己催眠装置を使い組織の洗脳を免れていた。親友・沼田五郎を殺したブラックサタンへの復讐のために、ブラックサタンを倒すための力を求めていた彼は、あえてそのブラックサタンによる改造手術を受けることでその力を手に入れたのである。
ストロンガーがブラックサタンのアジトを脱出する途中に助けた岬ユリ子もまた、ブラックサタンによって改造された電波人間タックルであった。ブラックサタンを倒すため、互いの協力を誓い合ったストロンガーとタックルは、ブラックサタンを倒す旅に出る。

「仮面ライダーストロンガー」のドラマ面の最大の特色は、城茂と岬ユリ子、そして後に合流した立花藤兵衛の三人が、日本各地で暗躍するブラックサタンの陰謀を追い、さすらいの旅を続けるというロード・ムービー形式にある。かつての「人造人間キカイダー」においても展開されたこの作劇手法は、「仮面ライダーストロンガー」においては、自らブラックサタンの影を追って悪を滅ぼすための旅を続ける、悪との戦いを能動的に行うパワフルなヒーロー像を演出した。

また、かつてのシリーズで仮面ライダーたちが見せた、人ならぬ身になってしまった哀しみという要素も、痛快な作劇を追求した「仮面ライダーストロンガー」ではスポイルされることになった。親友の復讐のため、そして悪を滅ぼすために力を求め、自ら悪魔の手によって人ならぬ身となり力を得た城茂は、改造人間となったことを悩まない。親友の復讐と、正義を成すという目的のためには手段を選ばない鉄の意志を備え、悪との戦いにおいても気障な言動を崩さず悠然と立ち向かう姿は、企画当初より意図されていた徹底的に強いヒーロー、を体現していた。

主人公であるストロンガーに、「改造電気人間」というエレクトロニクス的な要素を加えるためのバックホーンとして、ストロンガーを生み出したブラックサタンに属する怪人は、従来のライダー怪人とは異なるメカニカルなイメージが追求されたのも、「仮面ライダーストロンガー」の特色である。「奇械人」と呼ばれる彼らは人体の一部をロボット化、メカニックな機能を持った怪人であり、従来の生物をモチーフにした要素と、メカニカルな造形の要素が融合した怪人や、全身がメカニカルな造形に覆われた怪人などが続出し、「仮面ライダーストロンガー」というシリーズを強く印象付けた。ロボットという設定の怪人は先行した「人造人間キカイダー」シリーズでも見られたが、彼らが様々な都合から生物的・妖怪的な造形になっていたことのに対し、機械で出来た怪人というイメージを持つ造形を意識した奇械人たちは、「仮面ライダーシリーズ」に新風を吹き込んだ。そのメカニカルな造形は「ロボット刑事」のバドーロボットや、「イナズマンF」でのデスパー怪人の系譜にあるとも言える。

一方で「仮面ライダー」シリーズならではの怪奇性の演出として、奇械人が宿す「サタン虫」の設定が考案された。サタン虫は人の耳から体内に侵入し、その意識を支配する。サタン虫の寄生によるコントロールで、政府の要人から一般家庭の人間にまで入り込み世界征服を目論むブラックサタンの姿は、メカニカルな造形の奇械人と相反するような生理的嫌悪感を与え、その怪奇性を演出している。

また、「仮面ライダーストロンガー」では、既にシリーズで定番の要素となっていた大幹部を第1話から登場させた。謎の紳士から1つ目の異形の怪物に変身する大幹部・一ツ目タイタンは、自ら陣頭指揮を取り、ストロンガーやタックルと対決する。彼と城茂が織りなす丁々発止のやり取りは軽妙に演出され、シリーズを盛り上げた。

さらに、「仮面ライダー」の特色である「バイクに乗ったヒーロー」という要素をより強調するために、「仮面ライダーストロンガー」では、バイクアクションの強化が志向された。ストロンガーの乗るマシン、カブトローは、普段の城茂が愛用するオンロードタイプの車両に加え、バイクアクションに対応するために従来のライダーマシンのベース車両と同一のモトクロッサータイプと、より軽量小型で俊敏なアクションに向くトライアラータイプの3台の車両が用意された。またカブトロー自体も、仮面ライダーXのクルーザー、仮面ライダーアマゾンのジャングラーが装飾の多いデザインに伴う整備の複雑化やアクションの困難さを招いていたのを受け、非常にシンプルなデザインとして激しいバイクアクションに対応した。このバイクアクションの強化という特色は、ストロンガーとブラックサタン戦闘員の熾烈なバイク同士の戦闘が描かれるオープニング映像からも番組の売りとして強く打ち出されていることがわかる。
トライアラータイプのカブトローはシリーズ初期に起きた撮影中の事故で失われることになるが、モトクロッサータイプのカブトローはシリーズ最後まで活躍し、「仮面ライダーストロンガー」のウリのバイクアクションを強く印象付けた。

「終局へ向かう『仮面ライダー』シリーズ」

こうして圧倒的に強い、ヒーロー作品の魅力そのものを追求した「仮面ライダーストロンガー」は、ストロンガーが自らの電気能力を駆使した様々な技で奇械人を寄せ付けず圧倒する無敵のヒーローの頼もしさを十全に演出した。戦闘員の銃を電気マグネットで引き寄せ奪い、高圧電流をまとった電チョップ機械で出来た戦闘員や奇械人に効果抜群。地面に電気を流して遠くの敵に電撃を与えるエレクトロファイヤーは、ストロンガーならではの技として、改造電気人間という特徴を強く印象付けた。最大の必殺技、ストロンガー電キックは光学合成を用いて溢れ出るエネルギーを演出し、その威力を存分に描写した。

しかし、「仮面ライダーストロンガー」は既に下火を迎えていた「変身ブーム」の中で、制作陣の期待ほどの視聴率を得られなかった。これまでのシリーズより放送時間が30分早まったことで子供たちの帰宅時間と放送時間が合わないという逆風を受けた「仮面ライダーストロンガー」は、番組強化策として、ブラックサタンの雇われ幹部であるライバルキャラクター、ジェネラルシャドウの登場や、第17話から第19話までの怪談シリーズの展開、「テレビマガジン」などの児童誌で公募した子供たちを番組に出演させる「キミもストロンガーと共演しよう」キャンペーンの実施など、様々なテコ入れ作を行うことになる。

かつての「仮面ライダーX」で人気を博した大幹部、アポロガイストを思わせるライバルキャラクターとして登場したジェネラルシャドウは、しかしあくまで雇われ幹部にすぎない彼を信用しきれないブラックサタン大首領に疎まれる。
大首領はストロンガーに敗れた一ツ目タイタンを百目タイタンとして蘇らせ、さらにその百目タイタンも敗北すると今度はデッドライオンという新たな大幹部を呼び寄せるなど、シャドウを組織に招いておきながら蔑ろにする行動を行い、それに怒りを覚えたジェネラルシャドウはブラックサタンを去ることになる。
この悪の組織内の内紛、勢力争いの構図は「キカイダー01」の大犯罪組織シャドウにおけるギルハカイダーとシャドウナイトの間でも描かれており、他シリーズで好評だった要素を取り入れシリーズを盛り上げる制作陣の工夫が伺える秀逸なものとなった。

こうして様々な番組強化策を実行した「仮面ライダーストロンガー」だったが、視聴率下降の傾向に歯止めをかけることは出来ず、ここで制作陣はついに、この「仮面ライダーストロンガー」をもって「仮面ライダー」シリーズの終了を決定する。それは毎日放送側からの、人気があるうちに終わらせようという決断だった。それは、「変身ブーム」を打ち立て、数々の伝説を作り上げたシリーズだからこそ、ボロボロになるまで続けて誰からも見向きもされないまま終わるのではなく、惜しまれつつ終了するという有終の美を飾りたいという、終わりに対する美学の現れだった。

「極限の危機と、起死回生の一手」

こうして終了が決定した「仮面ライダー」シリーズ、そして「仮面ライダーストロンガー」の有終の美を飾るべく、シリーズ後半を盛り上げる策が練られることになった。
ブラックサタンの壊滅に伴う新組織の登場、タックルの戦死とストロンガーのパワーアップ、そして歴代ライダーの帰還による最終決戦。様々な要素が考案され、シリーズ最後の大河ドラマを形成していく。一方で第4クールまでの一年間の放送を想定していたこのシリーズ構成は、第3クールでの放送終了が決まったことで凝縮されたものへとなった。

ブラックサタンを離れたジェネラルシャドウは故郷である魔の国から7人の改造魔人を呼び寄せ、新たな悪の軍団、デルザー軍団を結成する。このデルザー軍団には通常の怪人が存在しない。ジェネラルシャドウを含めた8人の改造魔人全てが同格の大幹部であり、絶対的な支配者を持たないデルザー軍団は、組織の中の大幹部というポジションのキャラクターがかつてのような絶対的なインパクトを演出できていなかった反省を受けて、大幹部同士の駆け引きや、その戦力をもってストロンガーを圧倒する強大さを演出することで、希薄になりつつあった悪の組織のインパクトを改めて演出することに成功した。

巨大なサタン虫の正体を現したブラックサタン大首領を撃破し、ブラックサタンを壊滅させたストロンガーとタックルの前に姿を表したデルザー軍団。ストロンガーを倒したものが軍団の支配権を握る、という取り決めの下、ストロンガーに挑戦を始めたデルザー軍団の改造魔人の力は、奇械人どころかストロンガーをも遥かに凌駕するものだった。
デルザー軍団の先鋒として現れた鋼鉄参謀は、これまで奇械人に対して無敵を誇ってきたストロンガーの繰り出す電キックすら通用しないタフネスと、巨大な鉄球を振り回す怪力でストロンガーを圧倒する絶望感は、デルザー軍団の改造魔人の恐ろしさを演出した。
軍団の支配権を賭けた荒ワシ師団長やドクターケイトと鋼鉄参謀との内紛に救われる形で窮地を逃れたストロンガーだったが、しかし鋼鉄参謀と同じく電気技が通じない強敵揃いのデルザー軍団の猛威は次々に襲いくるのであった。

無敵と思える活躍を続けたストロンガーの技が全く通用せず、寄り合い世帯ゆえの連携の取れなさ、権力争いからの内紛がなければ決して勝利し得なかった強敵、鋼鉄参謀によって演出されたデルザー軍団の改造魔人の恐ろしさのインパクトは絶大だった。続いて挑戦してきたドクターケイトは、あの鋼鉄参謀の唯一の弱点だった猛毒を操る魔女である。その猛毒を浴びてしまった岬ユリ子は、自らの命が長くはないことを悟ると、城茂の足手まといになりたくないという気持ちから、ドクターケイトに苦戦するストロンガーを救うために、捨て身の技・ウルトラサイクロンを放ち、ドクターケイトを道連れにその若い命を散らすのだった。

番組冒頭より共に戦ってきた岬ユリ子=電波人間タックルの最期を描いた第30話「さようならタックル!最後の活躍!!」を経てさらに追い込まれたストロンガーに今度は岩石男爵が、ドクロ少佐が次々と襲いかかる。奇襲攻撃を仕掛けてもなお通用しないほどの絶大な力を持つドクロ少佐の攻撃で傷ついた城茂は元ブラックサタンの科学者、正木博士によって救出され、起死回生の一手として、これまでの電気エネルギーの100倍のパワーを持つ超電子パワーを発揮できる超電子ダイナモの移植手術を受ける。ドクロ少佐との決戦の中でついにその力を開放、「チャージアップ」したストロンガーは、改造超電子人間へと生まれ変わり、これまでの100倍ものパワーでドクロ少佐を粉砕。ここにデルザー軍団の改造魔人を打ち破る超パワーを得るのであった。

次々と襲いかかる改造魔人の猛威、そして岬ユリ子=タックルの悲痛な死によってギリギリまで追い込まれたストロンガーが、新たなる力を得て超絶的なパワーアップを果たし、苦境を打開するこの一連の展開は絶大なカタルシスを演出し、ストロンガーの苦境に心を痛めていた視聴者の鬱憤を晴らす展開で喝采の声を呼んだ。
一方で「チャージアップ」には以前の100倍のパワーを発揮できる、ストロンガー自身も戦慄するほどの力の代償として、1分という時間制限を1秒でも過ぎればストロンガー自身の体が爆発してしまうというリスクもあり、使い所を誤れば自らの身をも滅ぼし、改造魔人を倒すことも出来ない。ハイリスク・ハイリターンなこのパワーアップはストロンガーの圧倒的な強さを持ったヒーローという特徴を回復し、同時にチャージアップのタイミングを巡る新たなスリルを視聴者に提供したのだった。

改造超電子人間となったストロンガーは次々にデルザー軍団の改造魔人を撃破。
追い込まれたジェネラルシャドウの前に現れたのは、ミイラの姿でエジプトより日本に来訪した最強の改造魔人、マシーン大元帥だった。
スペインから来たヨロイ騎士、アマゾンより来た磁石団長を側近として従えるマシーン大元帥は、ジェネラルシャドウからデルザー軍団の指揮権を奪い、デルザー軍団に君臨する。

海外より来た最強の改造魔人たちの上陸。だが、海外から来たのは悪の戦士だけではなかった。
マシーン大元帥を追って、エジプトより風見志郎=仮面ライダーV3が帰還したのだ。

「かえってくるライダー」

マシーン大元帥に単身挑んだV3は、互角に渡り合うものの惜しくもマシーン大元帥を取り逃がす。そしてストロンガーと合流したV3は、シャドウの右腕である改造魔人、ヘビ女を協力して撃破。歴代ライダーの見届人である立花藤兵衛が見守る中、「仮面ライダー」の名を持つ戦士たちは固い握手を交わす。そしてヨロイ騎士を追ってスペインから神敬介=Xライダーが、アマゾンからはアマゾンこと山本大介=アマゾンライダーが帰還した。
第35話「帰ってきた男!その名はV3!!」、第36話「
三人ライダー対強力デルザー軍団!」で描かれた歴代ライダーの共演は、シリーズを通して見続けてきたライダーファンからの喝采の声を浴びる。特に第35話での、「仮面ライダーV3」で好評だった風見志郎のバイクのハンドルから手を離しての変身ポーズの再現というファンサービスや、第36話での、「戦え!七人ライダー」をBGMにX、アマゾン、ストロンガーの三人ライダーが共闘し、これまで他のライダーと共闘していなかったアマゾンが初めて他のライダーと共に戦い、Xライダーと握手を交わすシーンも描かれた展開は、シリーズを通してライダーを応援してきたファンを喜ばせた。

そして、ギリシャからはヨロイ騎士を追って結城丈二=ライダーマンも帰国を果たした。
ストロンガーと遭遇した結城丈二はストロンガーをデルザー軍団との対決を邪魔する存在であると誤解し、あわや一触即発の事態を招くが、駆けつけた風見志郎の仲介で和解。
良く言えば一本気なところがある、悪く言えばやや思い込みが激しいところがあった結城丈二のキャラクター性を踏まえたこの描写は、歴代ライダーが続々揃って共闘する、という流れの中にアクセントとして華を添え、ファンを楽しませた。歴代のヒーローたちが、素顔のまま集うという夢の展開の中だからこそ、個々のキャラクターの性格描写を踏まえた展開を用意する制作陣の姿勢は、この「仮面ライダー」シリーズを最終局面まで支えてくれた視聴者への感謝を込めたものだったに違いない。

V3とライダーマンはかつてのデストロンの最終決戦の時のように共に戦うが、デルザー軍団の猛威の前に力及ばず捕らえられてしまう。第37話「ライダー捕わる!デルザー万才!!」で描かれたこの怒涛の展開は、続く第38話「出現!ライダー1号2号!!」で盛り上がりの頂点を迎える。
マシーン大元帥によって組織内の立場を失ったジェネラルシャドウはいよいよストロンガーとの決戦を余儀なくされ、ストロンガーとの血みどろの死闘の果てについにその命を落とす。しかしその戦いでエネルギーを使い果たしたストロンガーはマシーン大元帥によって捕らえられるのだった。
残るライダーはXライダーとアマゾンライダーのみ。しかし仮面ライダーには「1号と2号」が存在したはず、と懸念を示すヨロイ騎士に、マシーン大元帥はそんなものは伝説に過ぎない、と断じ、城茂の処刑を行おうとしたその時、「伝説」が帰還を果たした。アメリカから本郷猛=仮面ライダー1号が、インドから一文字隼人=仮面ライダー2号が駆けつけたのである。

日本に帰還を果たしたダブルライダーは、第38話時点では1号と2号は変身後の姿のみの登場だったが、それを逆手に取り、自らの命をかけ捨て身で城茂を救おうとした立花藤兵衛を、何者かの手が静止する、そこに映った手が仮面ライダー1号のものであるというシーンで、1号2号の登場を焦らす演出が行われ、1号と2号の帰還を待ちわびていたファンの期待感を頂点まで煽った。
そしてマシーン大元帥ですらその存在は「伝説」であるとするダブルライダーの偉大さもまた演出されたのである(マシーン大元帥はそれまで戦ってきたV3の『3』を何だと思っていたのか、というツッコミどころでもあるが…)。

こうしてついに正義の系譜は完全なる集結を果たし、「仮面ライダーストロンガー」は、5年間に渡る仮面ライダーシリーズに終止符を打つ最終回を迎える。中江真司氏のナレーションが告げた「仮面ライダーストロンガー」最終回のアナウンスは今でも伝説的だ。
「『仮面ライダー』最終回」。
「仮面ライダーストロンガー」最終回が、「仮面ライダー」シリーズ全体の最終回であることを宣言したこのアナウンスをもって、「変身ブーム」を牽引し、5年間に渡る伝説を築いた稀代の特撮ヒーロー・アクション作品シリーズは、ここに1つの終局を迎えようとしていた。

「さようなら!栄光の7人ライダー!」

ストロンガーを救出した1号と2号、そしてV3とライダーマンを救出したXとアマゾン。
ついに集結した7人の仮面ライダーは、再生怪人軍団を繰り出したデルザー軍団を次々と撃破。立花藤兵衛を捕らえていたマシーン大元帥たちを倒し、「育ての親」の救出を成し遂げたのだった。
目を覚ました立花藤兵衛が目にしたのは、これまで彼が手塩にかけ育て、その苦闘の日々を見守ってきた7人の勇者たちの姿だった。本郷猛、一文字隼人、風見志郎、結城丈二、神敬介、アマゾン=山本大介、城茂。
その時点で登場していた歴代ライダーを演じたキャストが一人の欠員もなく揃ったこのシーンは、「ウルトラマンT」におけるテンペラー星人編のウルトラ兄弟全員集合と並ぶ、いや、それ以上の伝説となった。
5話もの話数をかけ、歴代ライダーが徐々に集結していくという大きな流れのもとに演出されたこの「全員集合」は、シリーズ終了が決まっていたからこそ実現した奇跡であり、5年間のシリーズを見届けてきたファンへの、最高のファンサービスだった。7人の勇者の笑顔を目撃した立花藤兵衛の喜びこそ、「仮面ライダー」シリーズファンの声そのものであったと言えよう。

だがそこに、ライダーとデルザー軍団の戦いを不気味に眺めていた奇岩山の人面岩より声が響く。それは歴代ライダー全員が聞き覚えある声、歴代の悪の組織の首領の声だった。
この展開も厳密に言えばこれまでの各シリーズの設定と整合性の取れない展開ではある。しかし、「仮面ライダー」シリーズ全体のクライマックスとして、7人ライダーが最後に戦うデルザー軍団の大首領が、7人ライダー全員がこれまで戦ってきた全ての敵を操ってきた共通の敵である、という構図こそが最良である、と判断されたのは間違いないだろう。全ての悪の組織を操ってきた大首領を葬り、自らの宿命と全ての戦いに終止符を打つべく、7人の仮面ライダーは最終決戦に挑む。人面岩より出現した巨人、岩石大首領の巨体を前に圧倒されながらも、7人ライダーは全エネルギーを結集し、岩石大首領の体内へと突入する。一ツ目の巨大な脳髄という正体を暴かれた大首領は自らの敗北を悟り、地球を捨て宇宙の果てに還る、と言い残すと自爆し、果てるのであった。

こうして、正義と平和、人間の自由のために命を賭して戦った、7人の仮面ライダーの長き苦闘の日々は終わった。朝焼けの中、世界に平和を取り戻した栄光の7人ライダーは何処ともなく去っていくのだった。
原作者・石ノ森章太郎を監督として招き、7人のヒーローを演じたキャストが揃い、シリーズ最大のクライマックスと5年間の「仮面ライダー」シリーズの大団円を描いた「さようなら!栄光の7人ライダー」。
「変身ブーム」という社会現象を起こし、幾多の伝説を築いた「仮面ライダー」シリーズを締めくくったこの伝説的エピソードをもって、一つの時代が終わりを告げたのだった。

「仮面ライダーストロンガー」というシリーズを締めくくった、「7人ライダー編」とも言える最終5部作は、伝説を築き上げた歴戦の勇者たちが全員揃い、最終決戦に挑むという、最初にして最後の壮大な展開を描ききった。仮面ライダー全員集合、自体はその後のシリーズでも幾度となく描かれた。シリーズ復活を果たした「仮面ライダー(スカイライダー)」はもちろん、「劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー」に端を発するオールライダー全員集合を目玉とする作品は幾度となく制作され、ライダーファンを楽しませている。
しかしこの「仮面ライダーストロンガー」の最終5部作は、歴代キャストの全員集合という快挙と、世界各地で暗躍していた改造魔人たちを追って歴代ライダーたちが帰ってくる、という必然性のある展開の下で、歴代ライダーが徐々に登場していき、最終決戦に向けて集結を果たす、という流れを大河ドラマとして描くことに成功し、最終回での7人ライダー全員集合というクライマックスのカタルシスを最大限に演出した。「仮面ライダー」シリーズ終了の判断が下されたからこそ実現したこの奇跡の共演は、今なおシリーズ最高峰の先輩ヒーロー客演編となっている。

その後、シリーズのカーテンコールの意味を込めて、お正月の特番として「全員集合!7人の仮面ライダー!!」が制作され、「仮面ライダー」シリーズは一度その幕を閉じた。未だ人気を保ち、惜しまれるうちにシリーズの幕を閉じよう、という終わりの美学によって実現した7人ライダー全員集合という最大のクライマックスは、「仮面ライダー」がシリーズ当初より継続してきた、視聴者の子供たちが見たいと思う展開を具現化し提供し続けるという、番組制作への真摯な姿勢の現れの集大成でもある。

「仮面ライダーストロンガー」という作品の歩みもまた、順風満帆なものではなかった。沈静化しつつあった「変身ブーム」の中で奮闘し、様々な番組強化策を取り入れていったその様相は、デルザー軍団の脅威に抗い、超電子人間への強化を図ったストロンガーの戦いの道とも大いに重なる。そこに見られる、シリーズ終了が決まっても、いや、決まったからこそ、最高のクライマックスを展開し、最後の最後まで視聴者の期待を裏切らない番組制作を続けてきた制作陣の真摯な姿勢こそ、「仮面ライダー」シリーズが現在まで熱い支持を受け続ける原動力である、と言えよう。

「仮面ライダーストロンガー」は、東映特撮ファンクラブU-NEXTHuluなどで有料見放題配信中だ。圧倒的に強いヒーローの魅力を全面に打ち出したパワフルな作風を見せるブラックサタン編、それとは逆に圧倒的に強い悪に対して不撓不屈の精神で挑むヒーロー像を見せ、歴代ライダー全員集合という最高のクライマックスへ繋いだデルザー軍団編が見せる明朗快活なロード・ムービーは、今見ても見応えのあるものとして輝きを放っている。口笛高くやってくる、さすらいの改造電気人間の活躍を、ぜひその目でご覧いただきたい。



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