「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」感想メモ ~次世代へと継承された「勇気」~

2023年8月5日土曜日

宇宙刑事ギャバン 海賊戦隊ゴーカイジャー 感想

t f B! P L

 「交わるはずのなかった、2つのシリーズの共演」

宇宙最大のお宝を手に入れるため、地球狭しと大冒険する6人の宇宙海賊!
宇宙の平和を守るため、宇宙警察より派遣された伝説の宇宙刑事!
出会うはずのなかった宇宙海賊と宇宙刑事が、今、相対する!

「海賊戦隊ゴーカイジャー」は、2011年に「スーパー戦隊シリーズ」35作記念として制作された特撮ヒーロー作品だ。過去に展開されてきた、「秘密戦隊ゴレンジャー」に端を発する34作のスーパー戦隊シリーズとのクロスオーバーを最大の特色としているこの作品は、過去に34のスーパー戦隊が地球を守り続けてきた、という世界観を前提として描かれた。宇宙規模の組織であるザンギャックとの戦いで歴代のスーパー戦隊から失われた力の結晶であるレンジャーキーを所有し、レンジャーキーの力で歴代戦士の「海賊版」に変身する能力を持った海賊戦隊ゴーカイジャーは、「宇宙最大のお宝」を探すために地球にやってきた、正義のヒーローとは縁遠い存在だった。
しかし地球でザンギャックとの戦いを展開し、地球人や力を失った歴代のスーパー戦隊の戦士たちと交流していく中で、徐々に地球に守るべき価値を見出してきたゴーカイジャーは、歴代のスーパー戦隊の「大いなる力」を全て受け継ぎ、地球にあるという「宇宙最大のお宝」をその手に掴むことを目指し前進していくのだった。

そんな「海賊戦隊ゴーカイジャー」では、スーパー戦隊シリーズ35作品記念作品として、2011年6月に「ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199ヒーロー大決戦」を映画作品として公開。34のスーパー戦隊が集いザンギャックと戦った「レジェンド大戦」を描き、前年の戦隊だった「天装戦隊ゴセイジャー」の面々とゴーカイジャーの出会い、対立からの和解と、全スーパー戦隊の力が集う最大のクライマックスを描いたこの作品はファンからの喝采をもって迎えられた。
一方で、この作品でゴーカイジャーとゴセイジャーの共演が描かれたこともあり、「スーパー戦隊シリーズ」で定番となっている、前年の戦隊とのクロスオーバー作品「スーパー戦隊VSシリーズ」は前年の戦隊との共演というパターンを破った作品が制作されることになる。
それが今回取り上げる「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」だ。

「宇宙刑事ギャバン」は1982年に制作された、「メタルヒーローシリーズ」の祖となった「宇宙刑事」シリーズの第1作となった作品である。革新的なビジュアルから連想された宇宙規模のスケールの大きな世界観と激しいアクション、そして血の通った「愛」をテーマにしたドラマが幅広い世代からの支持を受け、伝説となった作品だ。
2012年に生誕30周年を迎えようとしていたこの作品は、それまでに何度も復活を意図した企画が立ち上がりながら、実現には至らず立ち消えになるという経緯を辿っていた。「海賊戦隊ゴーカイジャー」制作陣はこの伝説的なキャラクターと作品に目をつけ、「スーパー戦隊シリーズ」35作品記念と、「宇宙刑事シリーズ」30周年のダブルアニバーサリー作品として「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」を企画する。
こうして、かつてライバルとして切磋琢磨し、東映特撮ヒーローのレベルを高みへと押し上げた、異なる世界観を持つがゆえに交わるはずのない2つのシリーズがクロスオーバーする、未曾有の作品が生まれ落ちたのである。

「色褪せぬ、銀色の輝き」

静寂が支配する夜の街に、爆音が轟く。海賊戦隊ゴーカイジャーがその拠点とする空飛ぶ海賊船、ゴーカイガレオンが謎の宇宙円盤に追われ、襲撃を受けていたのだ。巨大な龍へと姿を変えた円盤は、ゴーカイガレオンを不時着に追い込む。
ガレオンを降りたゴーカイジャーの前に姿を表したのは、銀色に輝く強化服を纏った男、宇宙刑事ギャバンだった。ゴーカイジャーを海賊行為の罪で逮捕する、と告げたギャバンに、ゴーカイジャーのアイムは、特捜戦隊デカレンジャーの調査でゴーカイジャーの罪はザンギャックの捏造であることが証明されたはず、と訴えるが、ギャバンはそれに答えずゴーカイジャーに迫る。やむなく豪快チェンジしたゴーカイジャーはギャバンに攻撃を仕掛けるが、歴戦の勇士であるギャバンの前に圧倒され、必殺のゴーカイスラッシュもバリヤーで防がれてしまい、ギャバンに捕縛されてしまうのだった。

公開当時にして既に30年前のヒーローでありながら全く古びないコンバットスーツの秀逸なデザインと、ゴーカイジャー5人の猛攻を前に一歩も引かない歴戦の強さを見せたギャバンの勇姿は、年少のファンには全く新しい鮮烈な印象を残し、往年のファンには伝説の宇宙刑事、未だ健在なるところを見せつけた。
ゴーカイジャーを捕縛する際にレーザーブレードをムチのように変える新機能を新たに見せており、後輩の宇宙刑事、シャイダーが使用していた新型のレーザーブレードからのフィードバックも感じさせる描写も心にくい演出だ。

「魂なき輝き、ギャバンブートレグ」

ゴーカイジャーを捕縛したギャバンは、彼らの身柄を宇宙警察総裁ウィーバルに引き渡す。
ギャバンはゴーカイジャーが無実を訴えていることから、ゴーカイジャーの罪状を改めてウィーバルに問いただす。
態度を豹変させたウィーバルはザンギャックに逆らったことこそが宇宙最大の罪であると言い、ゴーカイジャーを処刑しようとするのであった。それを目の当たりにしたギャバンは、ゴーカイジャーの枷を解く。ギャバンによるゴーカイジャーの逮捕劇は、ウィーバルの行動に疑問を感じたギャバンが仕掛けたブラフだった。ウィーバル本人を引っ張り出し、その真意と正体を正すためにゴーカイジャーを捕らえたのである。
宇宙警察でありながらザンギャックに味方することをギャバンに糾弾されたウィーバルはその正体を表す。ザンギャックの魔空監獄・獄長、アシュラーダはウィーバルに化けて宇宙警察を乗っ取ろうとしていたのだ。アシュラーダはギャバンによく似た姿を持つ銀色の戦士を召喚、ギャバンに向かわせる。それは、宇宙警察の技術と、ザンギャックの技術を融合させ、ギャバンの能力や技を複製、さらにバージョンアップして作り上げた最強のロボット戦士、「ギャバンブートレグ」だった。ギャバンは宇宙警察の事件に巻き込んでしまったことを謝罪すると、1人ザンギャックの軍勢を引き受けゴーカイジャーを逃がそうとする。1人でなんとかなる人数ではない、と言うゴーカイジャーに、ギャバンは「大丈夫、よろしく勇気だ!」と苦境に怯まない勇気を見せ、ザンギャックの軍勢に向かっていくのであった。その言葉を聞いたゴーカイレッド=キャプテン・マーベラスは、何かを思い出すのだった。
自らと同等、もしくはそれ以上の能力を持つ「海賊版」に苦戦するギャバン。一方、ザンギャック戦闘員のゴーミンたちに囲まれたゴーカイジャーたちは、1人買い出しに出ていて難を逃れていたゴーカイシルバーに助けられ、脱出に成功する。しかしギャバンは、ギャバンブートレグによって、かつて宇宙犯罪組織マクーが操った魔空空間へと引きずり込まれてしまうのであった。

ギャバンの能力を複製したロボット兵士、ギャバンブートレグは、以前企画が検討されていたギャバンの新作用にデザイン・造形されていたキャラクターを再利用したもの、とされており、各部にギャバンを模したディテールを継承しながら、ツリ目のレーザースコープなどが悪役らしさを演出した、出色のデザインとなっている。
ギャバンと似て非なるもの、を物語るそのデザインは、名前の通りのブートレグ=海賊版らしさを備えた、設定とデザインがリンクした秀逸なものだ。

ギャバンがゴーカイジャーに語った「よろしく勇気」は、「宇宙刑事ギャバン」主題歌からの引用となるフレーズである。こうした主題歌からの「本歌取り」は、脚本を担当した荒川稔久氏が得意とする手法。後に同氏が脚本を担当した「宇宙刑事シャリバン NEXT GENERATION」や、「宇宙刑事シャイダー NEXT GENERATION」でも同様の手法が取られており、ヒーローの精神性を歌った主題歌から引用された言葉を使うことでそのヒーローの精神性を最短距離で表現する手法は、こうした映画作品やVシネマなどの単独作品の限られた尺では非常に有効であると言える。特に「宇宙刑事シリーズ」の主題歌の作詞を担当した山川啓介氏によって紡がれた言葉は歌を聴いている者に語りかけるようなフレーズも多く、台詞として引用されることでそのメッセージ性がさらに強調されている、とも言える。

「キャプテン・マーベラス、その原点」

ゴーカイガレオンに帰還したゴーカイジャーたち。
マーベラスはギャバンの言葉を受け、幼き日にギャバンと会ったことがある、かもしれないことを仲間たちに打ち明ける。マーベラスが幼い日、乗り込んでいた宇宙貨物船がザンギャックに襲われたことがあった。火の海に包まれた船内の高所に取り残され動きの取れないマーベラスの前に、一人の男が現れる。自分の危険も顧みず、マーベラスを激励し続けるその男は、マーベラスに「素晴らしい未来を掴み取るために勇気を出せ。あばよ涙、よろしく勇気だ!」と言葉をかけ、その言葉に勇気を奮い起こしたマーベラスは意を決して男の胸に飛び込み、男はそんなマーベラスをしっかりと受け止める。そう、その男こそ、宇宙刑事ギャバン=一条寺烈だったのだ。

「よろしく勇気」という、「宇宙刑事ギャバン」主題歌が語った言葉が、宇宙を股にかける宇宙海賊、キャプテン・マーベラスが初めて勇気を奮い起こし、困難を打破するきっかけとなったという展開は、かつて「宇宙刑事ギャバン」を見て育ち、その主題歌に励まされてきた年長のファンにとって胸を熱くする展開だ。同時にゴーカイジャーの現役のファンである子供たちにも、ギャバンがあのマーベラスの勇気の原点となった男である、と実感させるに足るこのシーンは、ギャバンというヒーローが強さだけでなく勇気も兼ね備えた伝説のヒーローである、と強いインパクトを残したのである。

余談になるが、ここで幼いマーベラスを演じたのは、「ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国」で既に特撮作品に参加しており、そして後年、立派な青年に成長し、「ウルトラマンジード」で見事主演の座を射止めた濱田龍臣氏である。彼もまた、「素晴らしい未来」を掴み取ったのだ。

「幻?影?魔空監獄」

ギャバンがマーベラスの命の恩人であったことを知ったゴーカイジャーたち。そんな時、マーベラスのモバイレーツに着信が入る。それはスーパー戦隊の大いなる力を巡って熾烈な死闘を繰り広げていた因縁の宿敵、バスコ・タ・ジョロキアからの連絡だった。バスコに呼び出されたゴーカイジャーは、ギャバンが魔空空間へ引きずり込まれて、2万6千年に渡り1人の脱獄者も出していない鉄壁の要塞監獄、魔空監獄に捕らえられているという情報をもたらされるのだった。
命の恩人であったギャバンの危機に苦しむマーベラスと、彼を慮るゴーカイジャーの面々の前に、ギャバンそっくりの顔をした男たちが姿を現す。それはバトルフィーバーJのバトルケニアこと曙四郎と、電子戦隊デンジマンのデンジブルーこと青梅大五郎だった。
久しぶりに再会し旧交を温める二人のそっくりの顔を持つ男たちは、ギャバンが魔空監獄に捉えられていることを知ると、自分たちのレンジャーキーの力を合わせれば、危険なれど魔空空間へと突入できることをゴーカイジャーに教える。

宇宙刑事ギャバン=一条寺烈を演じた大葉健二氏が、ギャバン以前に「バトルフィーバーJ」でバトルケニア=曙四郎を、「電子戦隊デンジマン」でデンジブルー=青梅大五郎を演じたことを踏まえた、楽屋ネタとも言える同一キャストのキャラクターが顔を合わせる夢の展開は、歴代のスーパー戦隊シリーズ全ての存在を前提とした世界観を持つ「海賊戦隊ゴーカイジャー」ならではのシーンだ。ゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズなどでよく見られる、同じキャストが演じたキャラクター同士の関連付けをしたシーンは、オールスター作品ならではのファンサービスに満ちたシーンで、見ている我々を楽しませてくれる。

「史上初の脱獄」

魔空監獄に捕らえられたギャバンは、アシュラーダとギャバンブートレグによる苛烈な拷問に耐え続けていた。マーベラスは過去に自分を助けた男が本当に宇宙刑事ギャバンだったのかを確かめ、その命を救い、礼を言うために、魔空監獄への突入を決意する。そしてゴーカイジャーの面々もマーベラスの原点であるギャバンを助けるために共に魔空空間へと突入するのであった。
魔空監獄へ侵入を果たしたゴーカイジャーたちは、ザンギャックに逆らった者たちが投獄されているところに遭遇。かつて自分たちをも巻き込んで大騒動を起こしたジェラシットや、炎神戦隊ゴーオンジャーと戦ったガイアーク三大臣、轟轟戦隊ボウケンジャーと戦った風のシズカと幻のゲッコウ、魔法戦隊マジレンジャーと戦った妖幻密使バンキュリア、獣拳戦隊ゲキレンジャーの戦いを実況していたバエ、爆竜戦隊アバレンジャーの仲間になったトリノイド、ヤツデンワニ…改心したことでザンギャックの不興を買い投獄された懐かしい顔ぶれが、それぞれ自分の喋りたいように喋るカオスな状況がゴーミンに発見されてしまい、ゴーカイジャーの魔空監獄への侵入が発覚してしまう。ゴーカイジャーは投獄された面々を開放すると、そのままゴーミンとの戦いに突入する。

一方地球では、ゴーカイジャーたちに魔空監獄の情報を与えることで彼らを誘い出したバスコが、もぬけの殻になったゴーカイガレオンを奪おうとしていたが、そこに36番目のスーパー戦隊、「特命戦隊ゴーバスターズ」が駆けつけ、ゴーカイガレオンを守るのだった。

ゴーカイジャーたちはマーベラスを先に進ませるために、数名ずつに分かれ、次々襲いかかる刺客を足止め。異空間である魔空都市などに繋がっている魔空監獄に翻弄されながらも、ついにマーベラスはギャバンが捕らえられている魔空監獄最上階にたどり着く。襲いかかるギャバンブートレグの猛威に苦戦しながらも、ギャバンブートレグの銃を逆に利用することでギャバンの枷を破壊したマーベラスは、自分の胸に飛び込み脱出することをギャバンに促す。ギャバンを捕らえていた装置の爆発から間一髪飛び退き難を流れたギャバンを、マーベラスはしっかりと受け止めた。それは幼い日、ギャバンがマーベラスを受け止めた時と立場を逆にした、マーベラスなりの「礼」であったのだ。ゴーカイジャーたちはそれぞれの階層の床に砲撃し一つの大きな穴を作り上げると、そこに飛び込んで魔空監獄を脱出。ゴーカイガレオンバスターで魔空監獄を破壊する。ここに、魔空監獄史上初の脱獄は成功したのだった。

「海賊戦隊ゴーカイジャー」ならではの歴代敵キャラクターの共演や、かつての魔空空間を思わせる不条理な空間のつながりを見せる魔空監獄の描写など、ファンサービスに満ちた魔空監獄のシーンの中で白眉なのは、ギャバンブートレグの拷問に耐え続けるギャバンのシーンだろう。
かつて、「宇宙刑事ギャバン」の最終局面では、ギャバンの父、ボイサーが宇宙犯罪組織マクーに囚われ、宇宙の平和を揺るがしかねないホシノスペースカノン・レーザー増幅装置の秘密を守り抜くためにマクーの過酷な拷問に耐え続けた。ギャバンはボイサーを救出し、宇宙の平和のために拷問に耐え続けた父の姿から本当の勇気と優しさを学んだのである。
それに続いた「宇宙刑事シャリバン」の第15話「海鳴りの仕掛島」では、ボイサーが守り抜いたホシノスペースカノン・レーザー増幅装置の秘密を聞き出すため、宇宙犯罪組織マドーがギャバンを捕らえるという展開があり、かつて父がそうしたように、宇宙の平和に殉じて過酷な拷問に耐え続けるギャバンの姿が描かれた。
そしてこの「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」でもまた、マクーの恨みを晴らすべく苛烈な拷問を受けるという絶望的な状況でありながら耐え続ける、決して諦めない男であるギャバンの強い意志が描かれている。
この映画劇中ではギャバンの父の存在は語られることはないが、苦境に絶望することなく強い意志で立ち向かい続けるギャバンの姿からは、ボイサーから継承された正義の意志を確かに感じずにいられない。
シーンに込められた意図全てを劇中内で説明するのではなく、過去の作品と重なるようなシチュエーションを描くことで、過去の作品から継承されたメッセージ性を無言で演出する巧みな手法が、かつて「宇宙刑事ギャバン」を見て育ったファンにも大きな感動を呼び起こしている。

「原点との再会、そして共闘」

地球へと帰還したゴーカイジャーとギャバン。
なぜ自分を助けたのか、と問うギャバンに、マーベラスは「礼を言うため」と答える。その言葉にギャバンもまた、かつて自分が助けた少年が目の前にいる宇宙海賊であり、「未来を掴み取った」ことを知るのであった。
しかしそこに、ギャバン抹殺に執念を燃やすアシュラーダが、ギャバンブートレグとゴーミンを引き連れ現れる。
ゴーカイジャーとギャバンはついに並び立つと、共にアシュラーダたちに立ち向かう。
ギャバンは直接対決でギャバンブートレグを打ち倒す。ただ能力だけを複製した「海賊版」が、人間の心を持つギャバンに勝てるわけがなかったのだ。ゴーカイジャーも、苦戦しながら連続ゴーカイチェンジで逆転、アシュラーダを倒すが、恨みの念を更に燃やしたアシュラーダは巨大化、魔空空間を拡大させ、地球を飲み込まんとする。
カンゼンゴーカイオーに乗り込んだゴーカイジャーは、ギャバンの指示でギャバンの駆る守護神、電子聖獣ドルの上に乗ると同時攻撃でアシュラーダを圧倒。カンゼンゴーカイオーから降りたマーベラスはギャバンと並び立ち、ギャバンとゴーカイレッド、そしてカンゼンゴーカイオーによる必殺の同時攻撃「ギャバンマーベラスダイナミック」でアシュラーダに引導を渡すのであった。

戦いは終わった。ギャバンは改めて、立派に成長し未来を掴み取り、立派な男になったマーベラスを讃える。そして自らの原点に、未来を掴み取った姿を見せることが出来たマーベラスも、万感の思いを込めた笑みを見せるのだった。
そこに曙四郎と青梅大五郎が姿を表し、ギャバンと対面。同じ顔をした伝説のヒーローが揃い踏みする中、何処となく天の声が響く。かつての子どもたちが一度も見たことがない三人の同時変身を見せてやればどうだ、との声に、三人の英雄は応え、レンジャーキーを一時返還したゴーカイジャーの協力もあり、三人の英雄が並び立つのだった。

総裁が偽物にすり替わっていた、という大事件に混乱する宇宙警察を立て直すべく、伝説の宇宙刑事は帰還する。
その姿を、マーベラスはゴーカイガレオンのマストの上からいつまでも見送るのだった。

三人の英雄が天の声に促され同時変身を披露し並び立つシーンは、「宇宙刑事」シリーズ最終作となった「宇宙刑事シャイダー」第49話「3人の宇宙刑事 ギャバン シャリバン シャイダー大集合!!」での、史上初にして、初代の彼らとしては最後になった3人の宇宙刑事が並び立ったシーンのオマージュとして取り入れられたものだ。「スーパー戦隊シリーズ」初期の2作品「バトルフィーバーJ」「電子戦隊デンジマン」の人気を支え、新たな流れである「宇宙刑事シリーズ」を構築した「宇宙刑事ギャバン」を演じきった大葉健二氏への、制作陣への感謝とリスペクトを込めたこのシーンが、ファンサービスとリスペクトに満ちたこの作品を爽やかに締めくくっている。

全く互角、いやそれ以上の性能を持ったギャバンブートレグとギャバンとの間の勝敗を分けた差、それは「人間の心」だった。この構図からは、「宇宙刑事」シリーズが人気を得た理由が、コンバットスーツの革新的なビジュアルだけではなく、メインライターを務めた上原正三氏を中心に描かれた、人間の血が通った「愛」を描いたドラマ作りがあったからこそだった、という制作陣の「宇宙刑事」シリーズへの理解の深さと愛情を感じずにいられない。
ギャバンというヒーローが、ただ革新的なビジュアルを備えたかっこいいだけのヒーローだったら、話題にはなっても、こんなに長い間語り継がれる作品になったのかどうかはわからない。鋼鉄のスーツの下の、血の通った人間が紡ぐ人間ドラマがあってこそ、映画公開当時にして30年前のヒーローでありながら、現代まで残る作品となったのだろう。この「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」における、「人間の心」がギャバンの勝利の決め手になった、という展開は、「宇宙刑事」シリーズの勘所が、ヒーローデザインの革新的なカッコよさだけでなく、「人間の心」のつながりを描いたドラマにこそあるのだということを、作品を通して語ったのである。

「親から子へ、そして次世代へと継承された『勇気』」

単なるキャラクターの再登場にとどまらず、「宇宙刑事」シリーズの魅力をも伝え直した「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」は、スーパー戦隊シリーズのファン、宇宙刑事シリーズのファン双方に喝采をもって迎えられた。この作品を期に「宇宙刑事」シリーズの復活の機運は高まり、それは2012年10月に公開された映画作品「宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」として結実。「仮面ライダー×スーパー戦隊×宇宙刑事 スーパーヒーロー大戦Z」や「宇宙刑事シャリバン NEXT GENERATION」 「宇宙刑事シャイダー NEXT GENERATION」、「スペース・スクワッド ギャバンVSデカレンジャー」といった新世代の宇宙刑事シリーズを構築したことが、この作品の好評を物語っている。

一方で「海賊戦隊ゴーカイジャー」側も、ゴーカイレッド=キャプテン・マーベラスの原点を描き、その人間的な厚みを描写したこの映画がクライマックスを迎えようとしていた彼らの物語をさらに盛り上げ、彼らの「大いなる力」として描かれた「夢を掴む力」の原動力となる、困難を恐れず未来を掴み取るために前進する「勇気」の原点が描かれたことで、彼らの心の強さを改めて強調している。

かつてギャバンは宇宙の平和に殉じた父・ボイサーの姿から本当の勇気と優しさを学んだ。
そしてギャバンは、その勇気を素晴らしい未来を掴み取るための力であると幼いマーベラスに伝え、マーベラスはその勇気を胸に刻んで見事に未来を掴み取った。
「宇宙刑事ギャバン」が描いた父から子への「継承」のドラマを継承し、次世代のヒーローの代表たるゴーカイジャーに勇気を伝えた「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」は、「宇宙刑事ギャバン」という作品のキャラクターと、作品の骨子を見事に現代に蘇らせ、「海賊戦隊ゴーカイジャー」という作品に深みを与えた名作として、東映特撮ヒーロー史に新たな歴史を刻んだのである。

「海賊戦隊ゴーカイジャーVS宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」は2023年現在、東映特撮ファンクラブはもちろん、HuluU-NEXTといった各種動画配信サイトにて有料見放題配信中だ。交わるはずのない宇宙海賊と宇宙刑事の出会いと、色褪せぬ輝きを秘めた伝説のヒーローが、若き宇宙海賊たちに伝えた勇気の心の継承のドラマを、ぜひその目でご覧いただきたい。

QooQ