あらすじ
世界支配をたくらむゴッドネロスの暗躍を察知した天才科学者・古賀博士は、旧日本軍の秘密兵器として開発された超人機(アンドロイド)“メタルダー”を復活させ、ネロス帝国の野望に立ち向かわせることに...。
届かない叫び 生まれた意味を見つける旅路の始まり
平和への祈りを願う教会の鐘が響く。朝焼けの中、一人の科学者が協会を訪れた。
太平洋戦争で戦士した息子の墓参りのために、アメリカより帰国したロボット工学の権威、古賀博士である。しかし、博士の本当の目的は、多発する世界の異変の裏で糸を引く巨悪に対抗するために、ある存在を目覚めさせることだった。息子の墓前でその決意を語る博士は、自らの気持ちを息子にだけは知っておいてほしい、と祈りを捧げる。
その祈りは、戦火に散った息子の平和への祈りに反し、戦時中に自らが作り上げた超人機という戦争の落とし子を目覚めさせることを決意した自らの罪の告白でもあるのだろうか。
一方その頃、世界的な大企業、桐原コンツェルンの所有するハイテクビル最上階では、桐原コンツェルンの若き総帥、桐原剛造が二人の美人秘書の報告を受けていた。ニューヨークの株式市場の異常な高騰。中東の不穏な情勢。桐原は美人秘書に、桐原コンツェルンが所有する原子力潜水艦をペルシャ湾へ向かわせ、自社のタンカーのみを守らせるように指示する。
原子力潜水艦を独力で所有する大企業というと、後年の1991年に公開された「ゴジラVSキングギドラ」に登場した帝洋グループにも共通した設定が存在している。帝洋グループは未来世界で世界最大の経済グループにまで肥大化し、未来人の歴史改変計画を招いてしまう、というのが「ゴジラVSキングギドラ」のストーリーだが、この「超人機メタルダー」でも、世界経済を裏からコントロールする謎の大企業、として桐原コンツェルンが設定されている。
バブル景気に湧いていた80年代後半、発展しすぎた日本経済がいつか世界をも飲み込んでしまう、という危惧と、経済活動にだけ注力しすぎた日本がヒューマニズムを失うのではないか、という懸念が(今にして思えば杞憂に過ぎないが)世間に確かにあったことを感じさせる設定だ。
桐原はさらに美人秘書2人に「私を夜の闇に包め」という謎めいた指示を出す。
美人秘書がブラインドを閉じ、部屋が闇に包まれたその時、端正な顔立ちの桐原が、みるみる内に醜悪な老人の姿へ変貌していく。桐原の正体は、謎の秘密組織、ネロス帝国の支配者にして、自身を「神」と称する帝王ゴッドネロスだった。
桐原のゴッドネロスへの変貌シーンは特殊メイクで徐々に桐原の顔が崩壊、ゴッドネロスの顔に変化する過程を描き出しており、異様な迫力をもって演出されている。
ゴッドネロスは桐原コンツェルンハイテクビルの地下に建造されていた秘密闘技場、「ゴーストバンク」の玉座に姿を表すと、彼の名を呼び、彼を称える歓声が響く。
そしてゴーストバンク四方の扉より、次々に異形の存在たちが姿を表した。
バイオテクノロジーによって生み出された、醜悪なる異形のモンスターから成るモンスター軍団と、その支配者・凱聖ゲルドリング。
ロボット化した戦車や戦闘機、戦闘兵器が量産され大軍団を成した機甲軍団と、その指揮官である戦艦型ロボット・剴聖ドランガー。
強化改造されたサイボーグ、鋼の強化服を纏った人間たちが集うヨロイ軍団と、銀の鎧に身を包んだ剣士・剴聖クールギン。
ロボット工学を応用・駆使して作り上げられた、戦うためだけの機械、戦闘ロボット軍団と、彼らを束ねる剴聖バルスキー。
第1話にして、40体以上のキャラクターが一挙に登場するこのシークエンスは、「超人機メタルダー」という作品が現在まで独自の特長として持つものだ。
これまでの特撮ヒーロー作品でも、いわゆる怪人軍団、というエピソードはいくつも作られてきた。「仮面ライダー」第13話の「トカゲロンと怪人大軍団」、映画「仮面ライダー対ショッカー」の再生怪人軍団は、悪の組織のスケール感を見事に演出していた。しかしそれは、毎週ごとに倒されていった怪人たちを再生させることで実現した、話数を重ねていった上で、いわばそれまで少しずつ作成してきたスーツの再利用を行うことによってようやく実現できたものである。
この「超人機メタルダー」は、第1話の段階で、無数の怪人・ロボットたちが蠢く悪の闘技場・ゴーストバンクというシーンを演出すべく、番組開始時点で無数の造形物を用意するという奇策を行い、悪の帝王ゴッドネロスを崇拝する悪の軍団、というスケールの大きな組織を、設定だけでなく画面上のビジュアルで見事に成立させてみせたのだ。
この異例ずくめにして掟破りともいえる、多数の造形物による悪の軍団のビジュアル化は、「宇宙刑事シリーズ公式読本 METALLIC BIBLE」に掲載された日笠淳プロデューサーのインタビューによるところでは、「宇宙刑事ギャバン」から「時空戦士スピルバン」までの、いわゆるコンバットスーツ・ヒーロー作品の見せ場として演出されていた、宇宙から来襲する敵の巨大戦艦と、ヒーローが呼び出す宇宙母艦の戦闘シーンに変わる見せ場として、撮影所の大きなスタジオを借り敵基地のセットを作り、そこに多数の怪人が現れるというシーンが演出された、とのことだ。毎週の特撮シーンに予算を少しずつ配分するのではなく、コンバットスーツ・ヒーロー作品からの路線変更を感じさせない措置として、最初に造形物を多数造形、敵キャラクターを一挙に登場させることで、これまでの特撮ヒーロー作品にはない独自の見応えを追求したのだ。
また、関連商品を展開するスポンサーサイドからも、当時ヒットを飛ばしていた「聖闘士星矢」や「キン肉マン」といった作品の関連商品が、主人公側のキャラクターだけでなく、それに立ちはだかる敵キャラクターも人気を博し好調な商品展開を見せていたことから、敵キャラクターのフィギュアを主軸にした商品展開を行おう、という挑戦的な提案がされていたことも後押しになり、この「悪の軍団」に重点を置いた迫力の演出が実現したのである。
また、関連商品を展開するスポンサーサイドからも、当時ヒットを飛ばしていた「聖闘士星矢」や「キン肉マン」といった作品の関連商品が、主人公側のキャラクターだけでなく、それに立ちはだかる敵キャラクターも人気を博し好調な商品展開を見せていたことから、敵キャラクターのフィギュアを主軸にした商品展開を行おう、という挑戦的な提案がされていたことも後押しになり、この「悪の軍団」に重点を置いた迫力の演出が実現したのである。
まさに「超人機メタルダー」は、コンバットスーツ・ヒーロー作品からの方向転換を求められた制作陣とスポンサーサイド双方の、新たな流れを生み出そうとする挑戦心によって生み出された作品であると言えるだろう。
ゴッドネロスは軍団員に演説を行い、ネロス帝国の活動内容が明かされる。
機甲軍団員に石油備蓄基地を破壊させ、石油の供給を断つことで、桐原コンツェルンが所有する原油の値段が高騰。それは瞬く間に世界の株式に影響を与え、桐原コンツェルンの株式は暴騰を続けていた。そう、美人秘書が桐原に報告していた株の高騰は、桐原の裏の顔であるゴッドネロスの指示によるネロス帝国の活動によって引き起こされていたのだ。
これを踏まえると、桐原が続けて指示していた原子力潜水艦の派遣による自社のタンカーのみの保護も、他のタンカーは中東の不穏な情勢を隠れ蓑として機甲軍団によって破壊することで原油による利益を独占する狙いがあるのでは?と思わせる。単なるテロ活動による社会情勢の混乱からの世界征服を目論むのではなく、表の顔である桐原コンツェルンの経済活動も合わせて世界を支配せんとする、ネロス帝国の恐ろしさが十全に演出された名シーンだ。
さらにゴッドネロスは、戦争は人間の命と武器の果てしなき消耗戦であると説き、ネロス帝国が死の商人として密かに各勢力に武器を売り莫大な利益を産んだと誇る。
そして戦争によってもたらされる破壊と流血の果てに訪れる、飢餓に苦しむ弱者を情け容赦なく切り捨てることを宣言し、力あるものが勝ち栄える世の定めのもと、全宇宙の神たる自身が作り上げた4つの軍団と、それに支えられたネロス帝国の繁栄を叫ぶのだった。
ネロス帝国軍団員の士気が最高潮に達する中、ゴッドネロスは軍団員に古賀博士の映像を見せると、古賀博士こそがネロス帝国に災いをもたらすとし、軍団員に抹殺を命ずる。
モンスター軍団を生み出すバイオテクノロジー、機甲軍団や戦闘ロボット軍団を作り出し運用する科学力と軍事力は、各地の紛争を激化させるのに十分すぎる技術だ。そうして激化した戦争によって被害を被る弱者を切り捨て、力あるもの、すなわちネロス帝国だけが生き残る弱肉強食の世界をこの地球に創造せんとするゴッドネロスの野望は、今の目で見てもなお許してはならない巨悪としてゴッドネロスの恐ろしさを物語っている。
息子の墓前で決意を固めた古賀博士は、旧日本軍大本営跡へ車を走らせていた。
そこに、ネロス帝国機甲軍団激闘士・ストローブが飛来する。
ストローブの追跡に気づいた古賀博士は間一髪、ストローブの攻撃の前に車から降りて脱出するが、車は爆発し運転手は事切れて、古賀博士も負傷してしまう。それでもやるべきことを果たすまで死ぬわけにはいかないという執念でついに旧日本軍大本営跡の地下に隠された秘密基地・シルバーカークスにたどり着いた古賀博士は、圧倒的な科学力で建造された研究施設と、そこに横たわる、息子の姿と同じ姿をした青年との再会に成功するのだった。
古賀博士が研究施設の電源を入れると、青年の身体に赤と青の閃光が走る。
死人のように青ざめていた青年の顔が徐々に赤みを帯びていき、青年は目を覚ました。
その青年の名は、剣流星。
剣流星は、古賀博士が戦時中に敗色濃厚な日本軍を救うための起死回生の秘密兵器として作り上げた、息子の古賀竜夫をモデルとした容姿を持つアンドロイド、すなわち「超人機」だった。
自分が誰かも、人間かどうかすらもわからない剣流星に、古賀博士は剣流星の名と、その身体が機械で出来ていること、そして剣流星は超人機メタルダーであることを教える。だが、そもそも人間と機械がそれぞれどういう概念の存在なのかも知らない剣流星は、ただ困惑する。
一方地上では、古賀博士を逃したストローブのもとに、後詰めとして派遣されたネロス帝国ヨロイ軍団員が次々に到着していた。暴魂チューボに率いられたヨロイ軍団は、古賀博士の捜索を開始する。一方で、ヨロイ軍団を率いる軍団長、剴聖クールギンは、何故ゴッドネロスが古賀博士一人をそこまで恐れ、執拗に始末させようとしているのかわからず、懸念を抱いていた。
第1話にして数多くの怪人(ロボット)たちが連携した行動を取り、一人が失敗しても後詰めとして他の軍団員が派遣される「軍団」としての動きを見せるネロス帝国の描写は、前述した通り、番組開始時点で数多くの造形物を造形して多彩なキャラクターを用意したがゆえに可能になった、「超人機メタルダー」ならではの特色だ。
どうしても1話に一人ずつ怪人が造形され登場する既存の特撮ヒーロー番組の方法論では、悪の組織も戦力の逐次投入という一般的には愚策とされる戦略を取らざるを得なかった。
しかし「超人機メタルダー」では、多数のキャラクターを一気に登場させることで、古賀博士の抹殺というネロス帝国の至上命題に戦力を集中投入するリアルな描写が可能になっている。
剣流星に超人機メタルダーとして生きていく使命と、それが茨の道であることを説く古賀博士。しかしそこに、ネロス帝国機甲軍団の爆撃音が響く。機甲軍団はシルバーカークスの場所を発見できず、古賀博士が姿を消した森を絨毯爆撃して古賀博士をあぶり出そうとしていた。
モニターに映った機甲軍団のことを何者かも認識できない剣流星に、古賀博士はそれが敵であることを教えるが、善と悪を判別する知識もなく、何が味方で何が倒すべき敵なのか、そもそも超人機メタルダーとして生きていく使命とは何なのかすらもわからない剣流星には伝わらない。
意を決した古賀博士は、「敵」の存在を身をもって教えるため、地上へと向かう。
暴魂チューボは古賀博士を発見、瞬く間にヨロイ軍団員が古賀博士を取り囲む。
古賀博士は剣流星の名を呼び、剣流星は古賀博士の声を聴く。
そして古賀博士の声が途切れたことを感じた剣流星もまた、地上へと向かうが、そこには、暴魂チューボの手にかかり、倒れ伏した古賀博士がいた…。
古賀博士は自らの命を捨てることで、何も知らない剣流星にネロス帝国こそが、人の命を簡単に奪う悪、倒すべき敵であることを刷り込ませた。
自らの命を捨ててでも、剣流星、超人機メタルダーにゴッドネロスを打倒させるため、ネロス帝国こそが「敵」であると刻み込ませた執念に鬼気迫るものを感じざるを得ない。
古賀博士の抹殺に成功したことを確認した暴魂チューボたちヨロイ軍団員や剴聖クールギンはその場を去ろうとするが、古賀博士に駆け寄る剣流星の姿を発見。
暴魂チューボたちは口封じとして剣流星をも始末すべく攻撃を開始した。
この世に生まれ出たばかりの剣流星には、生と死についての明確な意識が存在しない。
ただ、動かなくなった古賀博士の姿に困惑し、暴魂チューボたちの攻撃を受け続けた剣流星だったが、攻撃を受け続ける中で、彼の中の闘争本能が頭をもたげはじめる。
それこそが、彼が最初に獲得した感情、「怒り」。
「剣流星の体内に秘められていた全エネルギーが、感情の高まりとともに頂点に達した時、彼は、超人機メタルダーに瞬転する!」
「怒る」の叫びとともに、剣流星の体は超人機メタルダーに瞬転した。
未知のロボットの出現に困惑するネロス帝国軍団員に反撃を開始したメタルダーだったが、有り余るパワーを制御する術も知らないメタルダーは、向かってくる相手を吹き飛ばす事は出来るが、自分からの攻撃を有効に当てることが出来ない。
メタルダーの手刀で木が真っ二つになるシーンは、メタルダーの身体に秘められたパワーの凄さと、そのパワーを有効に使うことがまだ出来ていない演出として秀逸なシーンだ。
メタルダーのパワーを脅威と認識した暴魂チューボは5人がかりでメタルダーの身体を抑え込もうとするが、メタルダーはその猛攻をも吹き飛ばしてみせる。そこに、崖の上から戦況を見守っていた剴聖クールギンが現れた。一瞬の静寂の後、交錯するメタルダーとクールギン。
勝ったのは、クールギンだった。
クールギンの刀で身体を切り裂かれたメタルダーは、崖へと転落。
古賀博士の抹殺と、謎のロボットの破壊を完遂したクールギンは去っていく。
ゴーストバンクでは、ゴッドネロスが軍団員より一連の経緯の報告を受けていた。
ゴッドネロスは内心で戦慄する。超人機メタルダーの出現を…。
メタルダーは生きていた。沈む夕日を見つめるメタルダーは嘆きと疑問を叫ぶ。
「風よ、雲よ、太陽よ。心あらば教えてくれ。何故、この世に生まれたのだ」
自身が生まれた意味を問うその叫びに、答えるものは誰もいなかった。
剣流星に「敵」の存在を教えるために、この世で最も価値のあるもの、「命」を犠牲にした古賀博士だったが、未だ「命」の価値や生と死の概念すらも理解していない剣流星は、自らを痛めつけるネロス帝国への「怒り」を獲得したものの、「敵」であるネロス帝国と戦い命を守り抜く「超人機メタルダー」としての使命を理解してはいない。
しかし、ここで古賀博士の意志を継いでネロス帝国と戦うことを決意してしまえば、それは古賀博士の指令で戦う相手を決める、戦うための道具に過ぎない。それはゴッドネロスの指令で各地に破壊と暴虐を撒き散らすネロス帝国軍団員の戦闘ロボット軍団や機甲軍団と何も変わらない。
自らの意志で、戦うべき相手を見定め、戦うべき理由を見つけ、そして自身が何のために生まれてきたのかを知った時、剣流星は本当の意味で人と機械を超えた「超人機」となるのだろう。
メタルダーの進むべき道を、使命を教えてくれるはずの古賀博士はもういない。
メタルダーは自らの手で進むべき道と使命を見出さねばならない。
それは生前の古賀博士が言ったように、茨の道だ。
しかし、その道を選ばなければ、メタルダーは戦うためだけのロボットになってしまう。
自分が生まれてきた意味を見つけるための、過酷な旅が、幕を開けようとしていた。
ということで、「超人機メタルダー」の各話感想を少しずつ書いていきたいと思います。
幾分飽きっぽいので、全39話の終わりまでたどり着けるか不安ですが、スローペースになってでも、剣流星の進む自分が生まれてきた意味を探す旅路を改めて見ていきたいと思います。
よろしくお願いします。