「仮面ライダーX」第28話「見よ!Xライダーの大変身!!」感想

2024年2月8日木曜日

仮面ライダーX 東映特撮YoutubeOfficial

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あらすじ

クモナポレオンのために仮面ライダーXのエネルギーが全て奪われてしまう。
倒れたライダーXを救ったのはV3・風見志郎だった。
彼はライダーXにマーキュリーパワーをセット。ライダーXはパワーアップに成功する。

受け継がれる正義の系譜 風見志郎がくれた正義の血

特別編だった27話を経て、再びRS装置の設計図争奪編が始まった。
回ごとに効果がコロコロ変わるRS装置だが、今回は劇中でその効果について言及されていなかったため、冒頭ナレーションの「全ての物質のエネルギーを消す」装置として進行していく。

日本各地で科学者が次々に怪死する事件が起こった。
部屋にナポレオンの肖像画を飾っていた科学者が研究作業に勤しんでいたところ、突然首をめがけて飛んできた巨大な蜘蛛に首を噛まれ、倒れたところに無数の蜘蛛に群がられ、その命を奪われてしまう。さらに、沖生物学研究所の沖博士も、コーヒーの中に潜んでいた巨大な蜘蛛に襲われ、同じように全身を無数の蜘蛛によって包まれ命を奪われてしまった。
無数の蜘蛛が顔面から身体を埋め尽くすように群がる描写は、生理的嫌悪感を感じずにいられない、秀逸な恐怖描写だ。コーヒーの中にデカい蜘蛛がいるなど、想像するだけで気持ち悪い。
こうして、13人の罪なき科学者の命が次々に奪われてしまう。彼らの共通点は、怪死する直前に、何者かが犯行予告としてか、ナポレオンの肖像画を贈っていたという点だ。
神敬介はこの事件に、RS装置設計図を狙い南原博士に設計図を託された科学者を次々に襲うGOD悪人軍団の影を感じていた。果たしてそれは、RS装置の設計図の欠片を探すGOD悪人軍団の一人、クモナポレオンの仕業だったのだが、命を奪われた13人の科学者は誰も設計図の欠片を持っていなかったことを思うと、どうやらクモナポレオンは細かく南原博士の交友関係を洗い出して設計図の欠片を持つ科学者を探し出すより、手当たり次第に科学者を殺戮して設計図の欠片を探す、随分と乱暴な手段に出ているようだ。

場面は変わって、避暑に来ていた家で眠っていたチコとマコは、不審な物音で飛び起きる。
チコとマコは、同居しているだけでなく同じベッドで一緒に寝るほどに仲がいい。
仲良しで常に行動を共にする美人女子大生という属性は、世が世なら「仮面ライダーリバイス」の五十嵐さくらと夏木花のようなカップリング人気を博していたかもしれない。
チコとマコが避暑に来ていたのは、南原博士からRS装置の設計図の欠片を送られていた科学者の一人である野中陽一郎の家だった。作中ではその経緯はほぼ語られないが、仮面ライダー公式サイトの仮面ライダー図鑑の解説を読む限りでは野中博士の娘である陽子がチコとマコの友人だったようで、大学の夏休みに2人を家に招いた、ということらしい。
物音に飛び起きたチコとマコ、そして野中博士の妻・照代と娘の陽子、息子の至は、応接室に飾られていたナポレオンの肖像画から出現したクモナポレオンに襲われる。
13人もの犠牲を出してとうとう当たりを引いたというわけで、傍迷惑な存在のクモナポレオンだが、野中博士本人が渡米していて不在であることを知ると、妻の照代を捕え、設計図の欠片を奪わんとする。自らをジェントルマンと称し、レディーを傷つけたくない、と上辺だけの紳士振りを見せるクモナポレオンの言動は異様にキャラが立っている。ナポレオンはフランス人なので、いわゆる紳士の国として有名なイギリス人ではないのだが、些細なことではある。
クモナポレオンは自らの吸血蜘蛛の威力をGOD戦闘員を処分して証明すると、吸血蜘蛛をちらつかせ照代を脅す。母の身を案じた息子の至が自分が設計図を持つ、と言ってしまったことで、息子を庇うために照代は設計図の欠片をクモナポレオンに渡してしまうのだった。

設計図の欠片を手に入れたクモナポレオンが、チコとマコ、そして野中家の人々を始末しようとしたその時、神敬介が駆けつけた。設計図の欠片を手に入れ目的を果たしたクモナポレオンは撤退、神敬介はそれを追跡する。しかしそれはクモナポレオンの罠だった。
クモナポレオンの糸に足を絡め取られ、そこに吸血蜘蛛の群れを差し向けられた神敬介は海に落下するものの、Xライダーにセタップしてクモナポレオンに挑む。だが、Xライダーの足に巻き付いたままのクモナポレオンの糸は、Xライダーのエネルギーを吸収する効果を持っていた。エネルギーが足りないまま放つXキックはクモナポレオンに全く通用せず、倒れたXライダーはクモナポレオンの「クモの巣ジャングル」に絡め取られ身動きが取れなくなってしまう。
物語上はこの後マーキュリー回路を埋め込まれ、ライドルを使用しなくなるXライダーだが、演出上は既にこの戦闘の時点でライドルを使用した大車輪を行わずXキックを放っている。エネルギーを吸収されているため大車輪をすることが出来なかった、とも解釈可能だ。

クモナポレオンは軍略の天才であるナポレオンの化身だけあって、設計図の欠片の入手という目的を果たせば機を見て撤退を選び、自身の撤退を餌に神敬介を罠に掛けるなど、巧みな戦術で神敬介を苦しめ、見事にXライダーを一敗地に塗れさせている。
さらにエネルギーを奪われたままクモの巣ジャングルに絡め取られ藻掻くXライダーへのとどめも行おうとしており、勝利を確信したがゆえの増長や手ぬるい面は感じさせない。
クモナポレオンがXライダーにとどめを刺そうとしたその時、前回日本に帰国していた仮面ライダーV3が間一髪駆けつけた。デストロンを打ち破り、歴戦の戦士に成長したV3を知らないクモナポレオンに、「俺の名を知らないようでは大したことがないようだな」と挑発してみせる頼もしさが心地良い。V3は挑発でおびき寄せられたクモナポレオンをかわし、クモの巣ジャングルからXライダーを救出して撤退した。

全てのエネルギーを吸い取られ生命の危機に瀕する神敬介。風見志郎は、彼を救い、かつクモナポレオンに勝つためにはマーキュリーパワーしかないと判断する。
マーキュリーパワーとは、必殺技・真空地獄車を生み出すためのパワーであるとナレーションに解説されているが、それ以上の説明は特にない。良くも悪くも、このパワーの詳細はドラマに関係なく、Xライダーが新たな力で生まれ変わる、ということだけが重要という判断だろう。
兎にも角にも、Xライダーがマーキュリーパワーを発揮するには、マーキュリー回路を内部に搭載し、全身の血液を入れ替える必要があった。風見志郎はそのために、神敬介の血液と自身の血液の交換、そしてマーキュリー回路の搭載手術を決行する。
このパワーアップのドラマの勘所は、マーキュリーパワーという謎のパワーを生み出すマーキュリー回路の詳細ではなく、かつて仮面ライダー1号と2号の手によって改造人間に生まれ変わったV3が、1号2号から受け継いだ正義の血をXライダーに与え、Xライダーが新たな力で生まれ変わるという流れを通して、風見志郎から受け継いだ正義の血を通し、神敬介に「仮面ライダー」の系譜が継承される、という点にある。
マーキュリー回路はV3の手で生まれ変わったXライダーが新たな力で強くなった、という理由付けのための設定に過ぎず、風見志郎の手でXライダーが生まれ変わることで、1号からの「仮面ライダー」の系譜にXライダーが正式に加わる、ということに重点を置いた展開だ。

一方その頃、アジトに戻ったクモナポレオンはキングダークに設計図を献上するが、それが偽物だったことを知る。照代が渡したのは偽の設計図で、本物は息子の至が持っていたのだ。クモナポレオンは急ぎ至を拉致する。それを知ったおやじさんは神敬介の手術を行っていた風見志郎の元に向かうが、血液交換を行っている間は風見志郎も身動きは取れず、意を決したおやじさんは単身クモナポレオンを追うが、クモの巣ジャングルによって捕えられてしまう。

血液交換を終え、マーキュリー回路の搭載に成功した風見志郎は、電気ショック装置で神敬介を目覚めさせようとしたが、電気ショック装置は故障してしまった。
風見志郎は神敬介との血液交換を行い、手術を終えた満身創痍の身で、至とおやじさんを助けるためにGODの基地へ向かう。久しぶりの風見志郎の登場ということもあり、代名詞とも言えるバイクのハンドルを手放しての変身も披露されるファンサービスが嬉しい。

設計図の秘密を守るため口を割らない至を、残酷にも股間から回転ノコギリで真っ二つにしようとするクモナポレオン。絶体絶命の危機に、V3が駆けつけた。
クモナポレオンは再生マッハアキレスと再生サラマンドラを呼び出し、万全ではないV3を3人がかりで攻撃しようとする。戦力の集中投入で戦果を得んとする手口は、流石に軍略の天才ナポレオンの化身だ。マッハアキレスは第21話「アポロガイスト 最後の総攻撃!!」、映画「5人ライダー対キングダーク」に続く3度めの再生。Xライダーが特訓せねば勝てなかったほどの実力を見込まれているのだろうが、短期間でリサイクルされる回数が多い。

3対1の不利な状況でも奮闘するV3だが、ついにクモナポレオンのクモの巣ジャングルに絡め取られてしまう。そこに、自力で目を覚ました神敬介が駆けつけた。
先輩に助けられた借りを返すように同じシチュエーションで助けに入るのが心憎い。
マーキュリー回路を得た神敬介は、新たな変身ポーズとともに叫ぶ。「大変身」と。

大変身直後のXライダーの背後で爆発が起きるカットは、この後の話では真空地獄車前に挿入されるおなじみのシーンになる。悪への怒りの爆発の心情のようでもあり、真空地獄車を発動する前に挿入されることを思えばマーキュリーパワーの発動の証のようでもある。
これまでと異なり徒手空拳の力強い戦闘スタイルを見せる、パワーアップしたXライダーには、クモナポレオンの吸血蜘蛛もクモの巣ジャングルも効かない。追い詰められたクモナポレオンを捕まえたXライダーは、新必殺技「真空地獄車」でクモナポレオンを打ち破る。
相手を捕まえて転がりまわる真空地獄車は、どういう技か一目ではわかりにくいという判断もあったのか、クモナポレオン撃破後に技の解説シーンとナレーションの解説が挿入された。
ナレーションが語るところには、「真空地獄車とは、相手の力を利用した必殺技である。大地を高速回転しながら、敵の頭を大地に叩きつけ戦闘力を失わせ、更に空中に放り上げ、急降下に移り、地上に激突させ、最後にXキックで勝負を決する必殺技である」とのこと。
大変身をするようになったXライダーがライドルを使わなくなったのは、初代ライダーの素手での戦闘スタイルへの原点回帰を志向したものと思われるが、必殺技の真空地獄車に至っては大野剣友会が「仮面ライダー」以前に殺陣を担当していた「柔道一直線」まで回帰したようだ。
また、見方を変えれば、「人造人間キカイダー」のキカイダーが大車輪投げで相手を捕まえ、投げ飛ばしたところにデンジエンドを叩き込む一連の流れを、回転して投げ飛ばしたところにXキックを叩き込む、という形で輸入したもの、とも思えなくもない。

V3も再生怪人を倒し、神敬介と風見志郎は互いの健闘を称え合う。
パワーアップしたXライダーの力を見た風見志郎は、かつて1号と2号が自らを後継者と認めたように、神敬介に日本の守りを託して再び海外に旅立つのだった。
こうして野中博士が持っていたRS装置の設計図の欠片も神敬介に託され、設計図の欠片は神敬介が4枚、GODが1枚を所有する結果となり、RS装置を巡る戦いは激化していくのだった。

マーキュリー回路でパワーアップしたXライダーは、基本的にライドルを使用しなくなる。
パワーアップで新しい武器を手に入れるヒーローはいくらでもいるが、パワーアップで武器が削減されるヒーローも珍しい。ただ、路線変更やテコ入れでなんとなくこれまで使っていた要素をなし崩し的に何の説明もなく使わなくなるよりは、パワーアップしたことによる変化である、と理屈をつけているのは誠実とも言えるだろう。兎にも角にも、「仮面ライダー」の正義の血を受け継いだXライダーは、V3から受け継いだ勇気を胸にGODとの戦いに挑むのだった。

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