「超人機メタルダー」第3話「野兎への愛にハンマー男ベンKが涙する」感想

2024年2月12日月曜日

感想 超人機メタルダー

t f B! P L

あらすじ

計り知れぬパワーを持ちながら、戦うすべを知らず戸惑うメタルダー。
美しい自然に触れ、人間の心に目覚め始めた剣流星に、メタルダー抹殺に燃えるゴッドネロスの命を受けたヨロイ軍団・激闘士ベンKの影が迫る。

大自然に生きる「命」を慈しむ思いが呼ぶ、最初の勝利

この第3話からいよいよ、独特なワードセンスで鮮烈な印象を残す長文でのサブタイトルが毎回のエピソードを彩るようになる。

戦闘ロボット軍団・爆闘士ゴチャックとの死闘を辛くも生き延びたものの、再び満身創痍のダメージを負ったメタルダーは、何とかシルバーカークスに辿り着くとスプリンガーの手で修理を受けていた。ゴチャックの絞め技で頭部の回路をバラバラにされるほどのダメージを負ったメタルダーを復活させるための大手術が行われる。
ゴチャックの全身を捻じ曲げるほどのパワーを秘めながら、未だ戦い方を知らずに本能のまま戦っていたメタルダーは、ネロス帝国の大攻撃に苦戦を強いられ続けていた。

一方、ゴーストバンクでは、全身を捻じ曲げられたゴチャックの亡骸が回収されていた。
その惨状を見たゴッドネロスは自らの懸念が的中していたことを嘆き、メタルダーの秘めた能力への危機感を募らせていく。メタルダー抹殺に失敗したゴチャックを、スクラップ場で廃棄処分するように命じたゴッドネロスは姿を消す。
しかし戦闘ロボット軍団の凱聖バルスキーは、軍団きっての格闘術の使い手であるゴチャックがこのまま廃棄処分になることを惜しみ、密かに最終移行場へと運び込み強化改造を行うように指示。帝王の意向に反する行為に懸念を示す部下に、責任は自分が取ることを宣言するのだった。
ゴチャックが最終移行場で強化改造を受け修復されることを示唆したこのシーンは、後に「超人機メタルダー」の敵方に重点を置いた作劇の代表作として後年まで知られる、最終移行場で修理を担当しているロボット、ビックウェインが登場するエピソード、第11話「勇者の追撃!天空にそそりたつ巨人!!」に続く伏線となる描写であり、同時に凱聖バルスキーが、自分の責任において失敗した部下にも最大限の温情をかける好漢であることを示している。
悪の軍団の幹部でありながら、独自の信念を持ち部下のことを思うバルスキーの性格描写は、悪に属しながら、自らの信念を持つキャラクターたちの生き様を次々に描いていく群像劇としての側面も持つ「超人機メタルダー」ならではのキャラクター造形だ。

修理が完了した剣流星は気力を取り戻す。
スプリンガーはそんな剣流星に、彼に内蔵された回路についての話を始める。
メタルダーのメインコンピューターは赤い左半身に内蔵されており、感情や理性といった人間と変わらない能力を秘めている。そしてさらに、「自省回路」という装置が内蔵されており、それは自分の感情を自分で制御し、有り余るパワーを制御する働きを見せるのだ。
一方、青い右半身には、戦闘マニュアルコンピューターが内蔵され、敵の能力を分析して闘うことが出来る、戦闘を司る機能を持っている。
メタルダーのオマージュ元である、「人造人間キカイダー」のキカイダーは、主題歌で「正義と悪との青と赤」と歌われるように、青い半身が理性を象徴し、赤い半身が悪への怒り、情熱を象徴すると意図されていたが、メタルダーはキカイダーとは逆に、赤い半身が理性を司り、青い半身が戦いを司っているのが面白い構図だ。
メタルダーは人間の赤い血を象徴する赤い半身に、人間と変わらぬ理性や自省回路を持ち、冷徹さを象徴する青い半身に戦闘回路を持つ、と設定したとも解釈できる。

戦う術を知らないまま苦戦を強いられ続けていたメタルダーは、その状況を打開すべく森の中で自らの能力を使いこなすための能力測定と訓練を始めた。
ゴチャックとの戦いで発現した能力であるレーザーアームの一閃で大木を斬り、飛び蹴りのGキックで大岩を砕く。ジャンプした跳躍到達距離は127メートルにも及び、アイアンクローで岩を掴み、脚部の真空吸着装置で岩を駆け上ることすら可能にする。
未だ自らの能力の全貌を知らないヒーローが、悪との戦いに備え自らの能力を測定する展開は、「仮面ライダー」第3話「怪人さそり男」でも見られたシチュエーション。未知の戦力を秘めた自らの能力を知ることで悪との戦いへの準備を完了するという流れを丁寧に描くことで、ヒーローが戦いの中で超絶的なパワーを発揮する描写にリアリティを与えている。
能力測定を終えた剣流星は、シルバーカークスに帰還する途中、山中で暮らす野兎に出会う。「命」の暖かさを持ち賢明に生きる野兎に笑顔を見せる剣流星。
剣流星はここに初めて「命」を持つ「友」を得るのだった。

さらに、自分がいるこの日本の社会情勢を知ろうと試みた剣流星は、社会勉強の必要性を説くスプリンガーに送り出されメタルチャージャーで街に向かった。戦時中の記憶しか持たない剣流星にとって、いくつもの高層ビルが立ち並ぶ現代日本は驚きの連続だった。
しかし剣流星は、命をかけて倒さねばならない宿敵、ゴッドネロスがこの市街地の何処かで暗躍していることをまだ知らない。軍事力で裏から世界を操り、密かに勢力を広げるゴッドネロスの恐ろしさを感じさせる緊張感ある演出だ。

電話ボックスで電話をかける女性を見た剣流星は、仰木舞から渡された名刺の存在を思い出すと、名刺に書かれた電話番号に電話をかけようとするが、電話のかけ方がわからない。順番待ちをしていた子供に電話のかけ方を教わり、テレホンカードを借りた剣流星は、自宅でエアロビに励む舞に電話をかける。その様子を、桐原コンツェルンの美人秘書が目撃していた。

首相官邸での総理と定例会見に臨もうとしていた桐原の元に、剣流星発見の報告が届く。
一瞬の台詞だが、桐原コンツェルンが既に日本政府に強力なパイプを持っていることが演出されており、ゴッドネロスの脅威を感じさせる秀逸な描写だ。
報告を受けた桐原はゴッドネロスの姿に変わると、ゴーストバンクに軍団員を集め剣流星の抹殺を指示。ゴチャックの失敗を挽回すべく戦闘ロボット軍団にその任務を任せてほしいと上申するバルスキーに、クールギンはその失敗を指摘するとヨロイ軍団がその任務を引き受けると上申し、激闘士ベンKを呼び出した。バルスキーはそれに対抗して激闘士ゲバローズを呼び出し、2人の激闘士はメタルダー抹殺の権利をかけて決闘を開始する。
ベンKのハンマーによる攻撃を回避するほどスピードに優れ、華麗な身のこなしを見せるゲバローズだったが、一方でパワーが不足しているゲバローズの攻撃ではベンKに決定打を与えられず、ついにベンKのハンマー攻撃がゲバローズに直撃、ゲバローズは頭部を吹き飛ばされ倒れる。こうしてベンKがメタルダー抹殺へ向かうことになった。

人々が平和を謳歌する街の様子や、テレビに映し出された映像を興味深く眺めていた剣流星。舞はそんな剣流星の世間ずれした様子に、まさか宇宙から来た異星人?と興味を抱きながらも不信感も隠せない。そんな剣流星を突然ベンKの鎌が襲った。傷ついた剣流星はメタルチャージャーに駆け込む。それを追う舞は、剣流星の傷跡から機械が露出しているのを目撃。
剣流星がロボット人間であることを知った舞は気絶してしまう。
剣流星は、ネロス帝国の攻撃が他者を巻き込み迷惑をかけてしまうことを恐れ、メタルチャージャーで人里離れた場所まで全速力で逃亡を開始する。
前回、舞との出会いで「命」の暖かさを知り、ゴチャックの死で「死」が取り返しのつかないことであることを学習したことで、自分とネロス帝国の戦いの被害が他者の「命」に「死」をもたらしかねないことを学んだことを示す描写で、前回、バーベリィの奇襲を躱すために舞を囮にした時点から急速に「命」や「死」の概念を学習したことを示すシーンだ。

メタルチャージャーを空から追う機甲軍団のバーベリィとストローブ、そして陸からはバイクに乗ったベンKを先頭に、兵員輸送車「ダークガンギャリー」と戦闘用ジープ「ドライガン」に載った機甲軍団、その後を徒歩で追うヨロイ軍団のムキムキマンとフーフーチュウが追跡する。
ゴチャック一人に任せた結果敗北した前回の戦いの反省を経て、機甲軍団までも多数動員した大規模な作戦行動を行っているのがネロス帝国の恐ろしいところだ。
一方その頃、意識を取り戻した舞は剣流星の体の傷から見えた機械部品を思い出し、あの出来事が夢でなかったことを確信する。

前回の失敗から無事に強化改造されたのであろうバーベリィは、メタルチャージャーを捕捉するとストローブとともにミサイルの絨毯爆撃を開始。次々に巻き起こる爆発を間一髪躱しながら駆け抜けるメタルチャージャーの走行シーンは迫力満点だ。
バーベリィの報告を受けた機甲軍団の豪将メガドロンは、ドライガンとダークガンギャリーの武装を展開しメタルチャージャーを待ち受ける。頭部や全身に装備したミサイルが引っかかりダークガンギャリーから出られずメガドロンからどやされる機甲軍団の暴魂ダーバーボのシーンは、熾烈な戦闘シーンで一息つけるコメディシーンとして楽しめる描写だ。
ドライガンとダークガンギャリーからの砲撃をも振り切ったメタルチャージャーだったが、勢い余って崖から落下する。しかしメタルチャージャーの側面の装甲が展開、翼に変わるとそのまま着地可能な地点まで飛行し、メタルチャージャーは着地に成功する。

シルバーカークス近くの森まで辿り着いた剣流星はメタルチャージャーを降りると、森に身を隠しながらシルバーカークスに向かった。
そこに、剣流星をあぶり出さんとする機甲軍団の熾烈な砲撃が襲いかかる。
剣流星を追って森まで辿り着いたベンKは、そこで剣流星と心を通わせた野兎を発見、なんと食料として捕えてしまう。野兎の悲痛な叫びを、剣流星に内蔵されたマルチイヤーが捉えた。
剣流星は物言わぬ友の叫びに応え、野兎の元へ急行する。

大自然に生きる「命」を、初めての「友」を救うため、ついにベンKと対峙する剣流星。
野兎を大切に思う剣流星の様子を見たベンKは、彼を動揺させようと、野兎を地面に叩きつけて殺害せんとする。それを目撃した剣流星は静かに怒り、メタルダーへ瞬転した。
Gキックの一撃がベンKを吹き飛ばした。野兎が逃げていくのを確認したメタルダーは、戦闘マニュアルコンピューターでベンKをスキャンし、彼が人間であることを知る。
ベンKのハンマー攻撃は大木をへし折り、大地を揺らすほどの破壊力だった。
メタルダーは跳躍到達距離を測定した経験を活かし、ハンマーを素早い身のこなしで回避していく。力任せにぶつかっていった前回までの戦いとは異なり、自らの身体能力を的確に活かした戦いへと成長しているのが細かいながらに秀逸な描写だ。
だが、ベンKもまたかなりの手練である。ついにその鉄槌がメタルダーの左足に直撃し、メタルダーの左足は完全に力を失った。満足に動けないメタルダーをベンKのハンマーが襲う。
揺れる大地、崩れる大岩。
だがその時、大自然に生きる「命」を慈しむメタルダーに、大自然が味方した。
突如吹いた強風が巻き起こす砂塵に視界を奪われたベンKの隙をついて、メタルダーは跳躍。なんとか迎え撃とうとしたベンKの視界を、今度は太陽の光が遮り、ベンKはついにメタルダーのGキックの直撃を受け、仮面を弾き飛ばされる。

Gキックのダメージで動けないベンK。メタルダーがベンKのハンマーを手に取り、とどめを刺そうとハンマーを振り上げたその時、メタルダーの「自省回路」が作動した。
自省回路とは、古賀博士が無限の力を秘めたメタルダーを作るにあたり、力での解決が全てではなく、汝の敵をも愛せよとの大きな思いを込めて作った装置だった。
それは、旧日本軍を救う兵器を開発する使命を帯びながら、戦争で息子を失った古賀博士が、本当の意味で戦争を終わらせるためには、敵の抹殺ではなく、共存を模索する道を歩まねばならない、という思いが込められた装置だったのかもしれない。自らの行いを省みて、ただ力で敵を粉砕するのではなく、理性によって自らを律して平和への道を歩む。超人機メタルダーに託された願いは、ネロス帝国の戦闘ロボット軍団のように闘うために作られた道具として生きるのではなく、戦わない道を探り平和を模索する道だった。
メタルダーは振り上げたハンマーを下ろすと、野兎の無事を確認した。
敗北した自分にとどめを刺さない理由を問うベンKに、メタルダーは「命だ。たった一つしかない命、無駄にするな」と伝えると、傷ついた足を引きずりながら去っていった。
ベンKは、大自然に生きる「命」を愛し、「命」の価値を知ったがゆえに、大自然に味方されて勝利を掴みながら、敗者である自らの命にも情けをかけたメタルダーの大いなる愛を感じると、彼が守ろうとした「命」の象徴として野山に咲く花を見つめ、涙を流すのだった。
野兎に元気に暮らすように告げ、メタルダーはシルバーカークスに帰還する。
その行路には、勝利を祝福するように花が咲いていた。

大自然に生きる「命」を踏み躙らんとしたベンKに対し、大自然に生きる「命」を友として守ろうとしたメタルダーに大自然が味方し、勝利を収める展開が美しい回。
何も知らない純粋な状態で生まれたからこそ、「命」の暖かさからその価値を知り、命を失うことで二度と取り返しがつかなくなる「死」の概念を学んだことでベンKの助命を行う、という展開もまた、前回のゴチャックとの戦いで「死」を学んだがゆえの積み重ねの描写が行われたものであり、見ごたえのあるドラマを見せている。
戦いの中で自らの行いを省みることで成長を見せる「自省回路」の設定もこの回で初登場し、「人造人間キカイダー」の勘所だった「良心回路」の設定をさらに深化させ、誰かに既定された良心を善悪の基準として活動するのではなく、戦いの中で倫理観や理性、他者を慈しむ心といった良心を獲得していき、自らの意志で自らの使命や、闘うべき相手を見定めていくまでをドラマにした描写も見事な展開だ。

メタルダーがベンKの命を助ける展開は、当初予定されていたというメタルダーが戦いの中で出会い、ネロス帝国に反旗を翻した者たちを集めて軍団を結成、ネロス帝国の軍団に対抗する展開の試金石のような展開にも思える。
この展開は、結果的に完成作品ではネロス帝国から離脱することを選んだキャラクターも多数登場した(ベンKもその一人である)が、メタルダーと最後まで共に戦うのはトップガンダー一人だけとして演出され幻のものとなったが、「超人機メタルダー」の商品展開のメインアイテムだったフィギュアシリーズ「ゴーストバンクシリーズ」の発想の原点となったのが当時人気を博していた「キン肉マン」や「聖闘士星矢」のフィギュア展開だったことを思うと、「超人機メタルダー」は当初、この2作品がかつての敵と仲間になって軍団を結成し新しい敵と闘う、という展開を見せていたのと符合した展開が想定されていたようだ。

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