「超人機メタルダー」第7話「ゴールを決めろ!タグ兄弟との炎の決闘」感想

2024年2月20日火曜日

感想 超人機メタルダー

t f B! P L

あらすじ

メタルダー抹殺の刺客、ヨロイ軍団・豪将タグスキーとタグスロン。
タグスキーは柳生新陰流の剣の達人で、タグスロンは薙刀の名手。
ネロス秘蔵の兄弟闘士で、武道の達人である2人が息を合わせた必殺技は…。

血の繋がりが生む絆 心の繋がりが生む絆 超人機は「兄弟」の絆を知る

第6話まで連続で脚本を執筆したメインライターの高久進氏によって独自の作風を確固たるものにした「超人機メタルダー」。今回からは様々な面々が脚本に参加することになり、様々なネロス帝国軍団員のドラマを独自の視点で描き出していくことで、作品世界に深みを与えていくことになる。この第7話は山崎晴哉氏の「超人機メタルダー」における唯一の脚本執筆回。
コーチを務めることになったサッカーチームの兄弟との出会いや、ヨロイ軍団の兄弟戦士、タグスキーとタグスロン兄弟を相手取る中で、「兄弟の絆」という人間が持つ目に見えない繋がりを剣流星が知ることになる。

人々が休日を楽しむ遊園地。剣流星は、レストランで食事を楽しみ、子供たちにお腹いっぱい食べさせようと自身は水だけで済ませる母親の姿を見て、異なる個体同士でも親子のように特別な感情で結ばれている人間の不思議さに興味を抱くと同時に、ロボット人間・超人機であるがゆえに家族を持つことも叶わぬ一人ぼっちの身である自らを悲しんでいた。
そんな剣流星のもとに、少年サッカーチームがミスキックしたサッカーボールが飛んできた。
剣流星は超人的な身のこなしでオーバーヘッドキック、サッカーボールをゴールに蹴り返す。
それを見ていたミスキックの犯人、少年サッカーチーム「ドングリーズ」の子供たちは、剣流星にサッカーのコーチを依頼。なんでも、少年サッカー大会直前にコーチが不在になってしまって困っていたのだという。子供たちの熱意に負け、コーチを引き受けることにした剣流星は、舞の協力でサッカーのビデオ教材を鑑賞し、そのコンピューターにサッカーのデータをインプット。
そのデータを活かした完璧な指導を行う剣流星のコーチで、ドングリーズの子供たちはメキメキとサッカーのテクニックを上達させていくのだった。

それまで、舞としか関わっていなかった剣流星が、ドングリーズの子供たちという新たな人間たちと出会い、さらに人間についての見識を広げていくことになる。
第6話までで作品世界の設定構築を行った導入編が終わり、剣流星の人間について知る旅路が新たな局面を迎え、剣流星が知る世界が広がりを見せていくことを期待させる展開だ。
剣流星はドングリーズのキャプテンと副キャプテンを勤める田中太郎・次郎兄弟の息の合ったプレーに感嘆し、人間について新たに知った概念である兄弟の絆の不思議さに興味を抱く。

剣流星の行方を追う桐原コンツェルンの情報網は、剣流星がサッカーのコーチを行っていることを掴み、美人秘書が剣流星の尾行を開始していた。練習を終え、レストランで食事を楽しむドングリーズの面々。剣流星は好物を取り合い喧嘩する太郎・次郎兄弟を諌めつつ、喧嘩したと思ったら直ぐに仲直りするその様子に、ますます兄弟の絆についての興味を深めていく。
その様子を見ていた美人秘書はゴーストバンクに戻ると、剣流星が「兄弟」に感心を抱いていることを報告。その報告を受けたゴッドネロスは、うってつけの刺客として幼い頃から手塩にかけて育てたヨロイ軍団の豪将、タグスキーとタグスロン兄弟を呼び出す。
柳生新陰流の開祖、柳生石舟斎宗厳の剣を徹底的に仕込まれた兄・タグスキー。
源平の戦いで活躍した薙刀の達人、三井寺浄妙明秀の型を叩き込まれた弟・タグスロン。
剣と薙刀の達人である兄弟の輝かしい戦歴はネロス帝国軍団員の誰もが知っていた。
ゴッドネロスを裏切った反逆者を、兄弟ならではの息の合った連携で次々に処刑してきたことで、出世街道を驀進し兄弟揃って豪将まで上り詰めたタグ兄弟に、ゴッドネロスはメタルダー抹殺を命ずると、その出陣の餞として自らバイオリンの演奏を始める。

「優れた音楽は天才のみが作る、そして天才の心は天才のみが知っている」と、自らのずば抜けた才能を誇るゴッドネロス。ゴッドネロスが音楽を解する心を持っていることは、後に古賀竜夫が音楽を愛する心を持っており、剣流星がそれを受け継いだことが判明する展開の伏線だろう。
ゴッドネロスの正体の謎は古賀博士の足跡を辿ることで解けることがわかっている。
古賀博士の足跡、超人機の開発には息子・古賀竜夫の死が密接に関わっているが、ゴッドネロスが古賀竜夫と同じく音楽を解するということは、古賀竜夫とゴッドネロスに何か関係があるのだろうか、という具合に、少しずつ明らかになっていく謎がさらなる謎を呼ぶ重厚な展開だ。
とはいえこの回の時点では、ゴッドネロスが帝王として音楽を解する教養を備えており、手塩にかけて育てたタグ兄弟への信頼の現れとして自ら演奏を披露したという程度の描写ではある。

コーチに打ち込む剣流星に、舞はゴッドネロスが剣流星を襲撃しないか心配していた。
剣流星は子供たちだけは守ってみせると決意を新たにする。
剣流星は、喧嘩をしてもすぐに仲直りし、サッカーの試合でも、示し合わせたわけでもないのに抜群の連携を取れる太郎・次郎の兄弟の絆に憧れを抱くようになっていた。
舞はそんな剣流星の抱えた孤独を感じ取ると、剣流星にも、古賀竜夫という兄がいると励ます。剣流星は、古賀竜夫と剣流星は古賀博士の意志を継いだ兄弟同士と言えるはずと言う舞の気遣いに感謝を示しながらも、超人機=ロボット人間である自分に血の繋がりを持つ兄弟などがいるはずはない、と改めてその孤独を深めていく。
シルバーカークスに戻った剣流星は、古賀竜夫の遺影を眺めていた。
その様子を見ていたスプリンガーは、剣流星が兄弟の絆に憧れて兄弟が欲しいと思っているのだろうと看破すると、自分が兄貴みたいなものだと彼を励ますのだった。

古賀竜夫と剣流星は、古賀博士の願いを受けて生まれたという点では確かに舞が指摘するように「魂の兄弟」である。しかし、この時点の剣流星にとって「兄弟」は血の繋がりを持つ人間同士だけの間柄であるという認識であるがゆえに、舞の気遣いからの言葉も素直に受け止めることが出来なかった。この展開も、後に剣流星が「兄弟の絆」の多様なカタチを知ることになるという展開の伏線となっている。また、孤独な自分の身を悲しむ剣流星に、自分が兄貴のようなものだと言うスプリンガーの優しさも秀逸なシーン。スプリンガーの場合、同じ超人機計画で生み出されているので、犬型ロボットと人型ロボットの違いはあれど確かに兄弟と言える間柄だ。

練習が白熱し、試合の日が近づいてきた。
子供たちにいちばん大切なのは最後まで諦めないネバーギブアップの精神と伝える剣流星。
感銘を受けた子供たちのサッカーの練習に合わせ、「君の青春は輝いているか」が流れる壮大な演出だ。この描写の好評が、後に挿入歌「ネバーギブアップ」の制作につながるのだろう。
そしてついに、大会当日。
メタルチャージャーで会場に向かう剣流星は、自分を狙う殺気を察知。
待ち受けているタグスロンを発見すると、子供たちを危険に巻き込まないためこの場でタグスロンを迎え撃つことを決意し、メタルチャージャーを降車しタグスロンと対峙した。
剣流星はタグスロンがかつて戦ったベンKと同じく人間であることを察知するが、同じ生命である花々を踏みにじり、小鳥を傷つけるタグスロンに怒りを爆発させ、メタルダーに瞬転する。

自らを襲うタグスロンが人間であることを察知し、一瞬戦いを躊躇した剣流星。
人間であるがゆえに「命」を大切にするように諭し、ベンKを助けた描写が踏襲されている。
しかし、タグスロンが花を踏み躙り、小鳥を攻撃に巻き込んで犠牲にしたことで、「命」を踏み躙る存在として怒り、メタルダーへと瞬転することになった。
目覚めた当初は「命」の概念を理解しておらず、古賀博士の犠牲も理解できないまま、闘争心で瞬転して戦っていたことを思うと、この「命」を踏み躙るタグスロンへの怒りで瞬転する描写は、剣流星が多くの出会いと戦いを経て「命」を護るべきものであり、それを踏み躙る行為にこそ抗わなくてはならないと理解するに至るところまで急激な成長を遂げた描写になっている。

少年サッカー大会会場では、ドングリーズの子供たちが姿を現さない剣流星を心配していた。
取材のため会場を訪れた舞もドングリーズの子供たちから剣流星の不在を知り、ネロス帝国が剣流星を襲撃したのではないかと不安をにじませる。
タグスロンの薙刀を躱し、真剣白刃取りで受け止めると、蹴りで反撃するメタルダー。
追撃をかけようとしたメタルダーの前に、タグスキーが救援に現れた。タグスキーとタグスロンが兄弟である事を知るメタルダーに、タグ兄弟の刀と薙刀が執拗に迫る。

メタルダーは薙刀も届かない高所に退避すると、戦闘マニュアルコンピューターでタグ兄弟の戦力を分析し、まず一人に攻撃を集中する作戦を立てるとタグスロンに攻撃を集中する。
倒れたタグスロンをマウントポジションに組み伏せようとしたメタルダーは、兄に助けを求めるタグスロンの声に動揺する。その隙にタグスロンはメタルダーの両足を抑え込み、タグスキーが刃の一撃を叩き込む。兄弟の抜群の連携に、メタルダーはついに倒れる。
一方、剣流星不在のまま始まったドングリーズの試合も苦戦を強いられていた。

勝利を確信するタグ兄弟は、いよいよ剴聖も夢ではないと喜びをにじませる。
しかし、メタルダーも、子供たちにコーチする中で教えたネバーギブアップの精神を思い出していた。ここで自分が諦めて倒れてしまえば、子供たちを裏切ることになる。
ネバーギブアップの精神で立ち上がったメタルダーは両手にエネルギーを集中。タグ兄弟の刃をダブルレーザーアームで受け止め、武器を弾き飛ばすと、兄弟が抜群の連携を見せ自分を挟み撃ちにすることを察知して跳躍、メタルダーに突撃していたタグ兄弟は正面衝突して昏倒する。

太郎・次郎兄弟の抜群の連携を見て「兄弟の絆」の強さを学んだメタルダーが、「兄弟の絆」を持つタグ兄弟の連携に苦戦しながら、最後にはその「兄弟の絆」の強さを学んだからこそそれを逆用して反撃に成功、勝利するという展開が見事な戦闘シーン。
太郎・次郎兄弟やタグ兄弟の絆が生む連携の強さを思い知ったからこそ、その連携を逆用した反撃で勝利する「兄弟の絆」がテーマのエピソードとしての完成度が非常に高い。

倒れ伏したタグ兄弟は、近づいてくるメタルダーからお互いを庇い合う姿を見せる。
メタルダーは兄弟の命を大切にするように告げ、その場を去ろうとした。
しかし、タグ兄弟はそんなメタルダーを甘いと吐き捨てる。
タグ兄弟は、血の繋がりを持つ実の兄弟ではなかった。しかし、ゴッドネロスに拾われ、武芸を叩き込まれた戦士として育つうちに実の兄弟同様の絆を持つに至ったのだ。
血の繋がりがなくとも兄弟の絆は成立するということを抜群の連携をもって証明したタグ兄弟の姿に、血の繋がりだけが人間を結びつけるのではないという事実を知り驚愕するメタルダー。
タグ兄弟は再戦で必ず勝利すると言い残し、ゴーストバンクに撤退していった。
メタルダーは血の繋がりがなくとも兄弟としての連携を見せたタグ兄弟を通して、人間が持つ絆という感情の奥深さを知ったのだった。

戦いを終えた剣流星は試合会場に到着し、ドングリーズを激励する。
ドングリーズもそれに応え得点を重ねていくのだった。
メタルダーが少年たちと交わったのは、戦士の束の間の休息にも似ていた。
しかし、そこからメタルダーが得たものも大きい。
メタルダーよ、いつの日かゴッドネロスに必殺キックを叩き込め!

冒頭で見た親子や、太郎・次郎兄弟の在り方から、血縁関係にある人間の絆を知った剣流星。
剣流星は人間同士の絆は血縁関係によるものだと学習しており、だからこそロボット人間であり誰とも血縁関係のない自分は孤独であると思いこんでいた。
しかし、血縁関係になくとも実の兄弟同然の絆を持つことを抜群の連携で証明したタグ兄弟の姿に、人間同士の絆とは血縁関係だけで生じるものでないことを知る。
絆が血縁関係によるものだけではないことを知った剣流星が、明確に他者との関わりを意識し、友である舞や、後に出会う北八荒との関係を深めるきっかけとも言えるエピソードである。
これまでは自分が生まれてきた意味を探るために内省を重ねてきた剣流星が、他者との繋がりを意識するようになったという点でターニング・ポイントとなる回だ。
そうしたメタルダーの成長のターニング・ポイントとなるのが、敵であるネロス帝国軍団員の刺客・タグ兄弟であるところに「超人機メタルダー」の面白みがある。
各々の信念を持ち、それぞれの生き様を見せるネロス帝国軍団員との交流でメタルダーが成長していく作劇は、メタルダーとネロス帝国双方のキャラクター描写に深みを与え、見ごたえのあるドラマを展開していくことになる。

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