あらすじ
突然日本に現れた野生の青年・アマゾンと、彼を狙う悪の使者・十面鬼、そして獣人たち。
古代インカ帝国に伝わる秘密のエネルギーを秘めたギギの腕輪がアマゾンの姿を変える。
ギギの腕輪を狙う獣人に、アマゾンは仮面ライダーアマゾンに変身して戦いを挑む!
「異形」と「孤独」への原点回帰 野生の戦士への完全新生
連続ドラマ要素を強化した作劇、スマートで流麗なメカニックライダーとしての魅力。
様々な新機軸を導入し、「仮面ライダー」シリーズの幅を広げた「仮面ライダーX」。
その後続となる「仮面ライダー」シリーズの新作の制作にあたり、制作陣は「原点回帰」というコンセプトを打ち出すことになった。「仮面ライダーX」が広げた「仮面ライダー」シリーズの原点を見つめ直し、改めて変身ヒーローの王道を描く作品とする。
だがここで、制作陣は「仮面ライダー」の原点とは、そもそもスマートでも颯爽でもない、不気味で異形なものが、社会から孤立しながら悪と孤独に戦う精神性であると解釈した。
闇に蠢く本郷ライダーから一文字ライダーへのモデルチェンジ、新1号と新2号を経たV3、Xと、「仮面ライダー」は変身ヒーローの王道として、スマートなヒーローとして確立しつつあった。
そうしたスマートさを極めたヒーロー像を打ち出した「仮面ライダーX」を経て、「異形」への原点回帰を志向した制作陣は、「仮面ライダー」が持つ野獣性に立ち戻ろうとした。
野獣性を秘め、奇怪な姿をした主人公が社会から孤立しながらも懸命に悪と戦う姿を描くことで、単に作風を「仮面ライダー」初期に戻すのではなく、その精神性を換骨奪胎した新たなドラマを構築することで、「仮面ライダー」の「原点回帰」を果たそうとしたのである。
こうして、「原点回帰」を志しながら、後年には「完全新生」を果たした作品として、シリーズ屈指の異色作と呼ばれる「仮面ライダーアマゾン」が誕生した。
文明が発達した今日でも、人の足を踏み入れたことのない大アマゾンの奥地。
そこには、現代文明から切り離され、古代インカ帝国の流れを汲む一族が暮らしていた。
だがそこに、巨大な人面岩と一体化した赤い鬼神の如き様相の怪人・十面鬼が飛来。
十面鬼の人面岩から噴出する赤い血のような液体爆弾はアマゾンの大自然を炎上させ、アマゾンの奥地で暮らしていた一族を壊滅させる。
十面鬼ゴルゴスは、自らの野心のために巨大なインカ科学の鍵・ギギの腕輪を狙い、自らの肉体を改造して人面岩と一体化することで異形の怪物となり、自らの師であり、ギギの腕輪を守っていた一族の長老・バゴーに反乱を起こしたのだった。
傷を負いながらも十面鬼の反乱を生き延びた長老バゴーは、もはや一族全てを失った今、最後の希望として、アマゾンの自然の中で育った野生の日本人青年にギギの腕輪を移植すると同時に肉体改造手術を行い、改造人間に仕立ててギギの腕輪を守ろうとしていた。改造手術は成功。
バゴーは青年に、「日本へ向かい、高坂に会え」という暗示を残すと、静かに息を引き取る。
改造を受けた青年・山本大介は、生まれてまもなく両親とアマゾンで遭難し、野獣の中で育ち、言葉も知らない身の上だった。バゴーによって改造され、秘宝の鍵・ギギの腕輪を託された彼は、自分がなぜ十面鬼が率いる組織・ゲドンに襲われるのかすらもわからない。
青年を追う十面鬼の人面岩に埋め込まれた9つの人面が、世界支配の野望を叫ぶ。
十面鬼の液体爆弾が森を燃やす中、獣のように追われる理不尽に怒りを燃やす青年。
それでも彼は、バゴーの暗示に従い、ひたすらに日本を目指して駆け抜ける。
十面鬼が率いるゲドンの襲撃、そしてアマゾンの改造の経緯と腕輪を守る使命を説明するアバンタイトルから、ゲドンに追われ、大自然を駆けるアマゾンの逃亡劇を映す変則OPで幕を開ける異例の流れが印象的な演出。「講談社 Official File Magazine 仮面ライダー Vol.8」によれば、この演出はフィルムの尺を詰めきれなかったがゆえの苦肉の策だったらしいが、ドラマの流れを止めることなく、ゲドンに追われるアマゾンの孤独を見事に演出することに成功している。
日本では、謎の失踪事件が続いていた。それは既に日本にその魔手を伸ばし、生贄となる人間を集めていた十面鬼率いる悪の軍団・ゲドンのクモ獣人の仕業だった。
失踪事件を調査していた高坂教授は、人々が失踪した現場に残された蜘蛛の糸が一切の証拠を残さぬように消える様子を見て、一連の事件にかつてアマゾンの奥地に探検に向かった際に遭遇したバゴーから教えられた悪の組織・ゲドンが関係していると確信。
高坂教授は、警察も自衛隊もその実在を信じず対処できないであろうゲドンの魔手から、バゴーがギギの腕輪と日本を守るために自らの元へ送った若者の到来を待っていた。
そこで、高坂教授と助手の松山はクモ獣人が港へ向かうのを目撃し、その後を追う。
港には、バゴーの暗示を受けた青年がいた。日本行きの船に密航し、なんとか日本上陸を果たした青年だったが、そこにクモ獣人が襲いかかる。港へ辿り着いた高坂教授は、果敢にクモ獣人に噛みつき抵抗する青年を目撃。クモ獣人が一旦姿を消した隙に、青年に接触する。
初めて見る日本人に怯え、威嚇する青年。しかし、高坂教授は不思議なハンドサインを示し、青年に味方であることを示すと、青年もそれに笑顔で応え、同じハンドサインを示した。
高坂教授が行ったハンドサインは味方の印であるという。
クモ獣人から逃亡する一行。しかし、アマゾンが不思議な光を放つ蜘蛛の糸に気を取られたところに、奇襲をかけてきたクモ獣人の糸が助手が絡め取ると、助手は毒性の糸によって皮膚が硬化してしまい絶命する。さらに高坂教授をも襲うクモ獣人。
青年はクモ獣人と戦い、傷を負った高坂教授を逃がすのだった。
クモ獣人の毒性の糸で皮膚が硬化する様子は特殊メイクで表現され、怪人の能力の怪奇性を原点回帰として強く打ち出そうとする意図が感じられる。また、第1話に登場する怪人がクモの怪人であるあたりも、「仮面ライダー」の「怪奇蜘蛛男」を強く意識した趣向だ。
大自然で育ち、日本で生まれながら言葉を知らない青年に、高坂教授が味方の印としてハンドサインを示すことで相互理解を果たす。
言葉に頼らないコミュニケーションで心を通わせる、野生児としての出自を持つキャラクターならではの作劇で、これまでの「仮面ライダー」シリーズとは一味違う展開を演出している。
高坂教授の甥であるまさひこは、病院から高坂教授が怪我をした知らせを受けていた。
まさひこと、その姉であるりつ子は急いで病院に向かう。
なんとか一命をとりとめた高坂教授は、バゴーが送った男に会えたことを幸運に感じていた。
青年の顔がアマゾンで死んだ山本教授に似ていたことから、山本教授の息子であると確信する高坂教授。高坂教授の話を聞いていたまさひこは、偶然病室の窓からその青年を目撃する。
騒音に包まれ、鉄で出来た建造物に溢れた大都会は、青年にとって恐怖の空間だった。
貨物列車に積まれていたバナナを食べ、一時の休息を取る青年の前に、まさひこが現れる。
青年の様相に怯えるまさひこだったが、高坂教授から教えられたハンドサインに青年が笑顔を見せたことで、心を通わせ始める。「アマゾン」という言葉を話した青年がアマゾンから来たことを確信したまさひこは、言葉を教えてコミュニケーションを取り始める。
まさひこの名前を覚えた青年に、まさひこは「アマゾン」と名前をつける。
こうして、自分の本当の名前も知らない青年は「アマゾン」となり、まさひことアマゾンは仲間の印のハンドサインを通して「トモダチ」となった。
そこに、クモ獣人が現れた。アマゾンは自分の命と、「トモダチ」を守るためクモ獣人に抗う。
アマゾンの噛みつき攻撃で、クモ獣人の身体から鮮血が飛ぶ。さらに、アマゾンは万能ベルト・コンドラーからロープを取り出しクモ獣人に飛びかかった。
自らを襲うだけでなく、初めて自分を思いやってくれた高坂教授や、「トモダチ」のまさひこを襲うクモ獣人への怒りが頂点に達した時、アマゾンの身体は、緑の体に燃える怒りの赤い色が走る、巨大なトカゲの化身である、異形の姿へ変貌した。
かつて日本で幾多の悪と戦ってきた戦士・仮面ライダーの伝説を知っていたまさひこは、仮面ライダーに似た異形の姿となったアマゾンを「ライダー」と呼ぶ。
腕のヒレをこすり、クモ獣人を威嚇するアマゾンライダーは、より協力になった噛みつき攻撃でクモ獣人の爪をもぎ取り、さらに腕のヒレで切り裂こうとする。不利を悟ったクモ獣人は撤退。
まさひこは、変身したアマゾンを「アマゾンライダー」と呼び、その勝利を称える。
変身し、「アマゾンライダー」となったアマゾン。
この時点では、その姿がまさひこの知る「仮面ライダー」と似ていたというだけに過ぎない。
しかし、「トモダチ」を守るための戦いの中で、人類の自由のために悪と戦う「仮面ライダー」へと成長を遂げていくことになる。
まさひこは、トモダチのハンドサインを教えてくれた高坂教授の元へアマゾンを連れて行く。
高坂教授の名を聞いたアマゾンもバゴーの暗示を思い出していた。
しかしその頃、高坂教授の病室ではクモ獣人が高坂教授とりつ子を襲っていた。
悲鳴を聞いたアマゾンは、まさひこを安全な場所に残して急いで病室に向かうが、りつ子はを逃した高坂教授は既に息絶えていた。バゴーの暗示が示し、そして自分に手を差し伸べてくれた人物を無惨に消し去ったゲドンへ、堪えきれない怒りを燃やすアマゾン。
クモ獣人はさらにりつ子を襲い、蜘蛛の糸に絡め取る。そこにアマゾンが駆けつけた
怒りの咆哮が、アマゾンの肉体を再びアマゾンライダーに変える。
噛みつき、爪をもぎ取る。怒りのままにクモ獣人への執拗な攻撃を加えるアマゾンライダー。
そして、腕のヒレでクモ獣人の身体を切り裂く「大切断」が決まり、クモ獣人の身体から夥しい血が流れた。もはや戦う力を失ったクモ獣人は撤退する。
ゲドンのアジトに戻ったクモ獣人だが、失敗を許さない狭量な十面鬼は人面岩から業火を放ち、クモ獣人の身体を燃やし尽くして処刑した。
一方、まさひこは何処かに行ってしまったアマゾンを探し続ける。
戦いは勝ったが、なぜ襲われるのか、教えてくれるものは誰もいない。
アマゾンは、一人戦うことの哀しみに耐えて吠え続けた。
十面鬼はかなり短気というか、失敗を許さずに獣人が戦いで生き延びても処刑してしまう。
非情さ・冷酷さは印象付けられる反面、シリーズ全体を後から振り返ると結果的にゲドン自体が小規模な組織であった上に、そんな小規模な組織ですらモグラ獣人や獣人ヘビトンボと2人も離反者を出し、ヘビトンボの離反がゲドンの壊滅を招いたことを思うと、次から次に失敗した獣人を処刑していた後先の考えなさや狭量さが自らの破滅を招いた小物さをも感じずにいられない。
なぜ戦うのか、理由も分からずに戦うことになるヒーローは多い気もするが、アマゾンの場合は、自身を改造し、暗示をかけたバゴーも何故自分がゲドンに狙われるのかを教えてくれず、それを教えてくれるはずだった高坂教授からも何も聞けぬまま、高坂教授も死んでしまう。
言葉もわからなければ、大自然で育った身からすれば怪物のような文明の利器が溢れた東京で、孤独に戦うことを強いられ、徹底的な孤独に追い込まれるアマゾンの境遇を通して、「異形」の存在が社会からの「孤独」に追い込まれながら、懸命に悪と戦うという「仮面ライダー」の原点回帰を新たな視点で描ききった圧巻の第1話だ。
こうして「仮面ライダー」の原点とは「異形」と「孤独」であるという換骨奪胎をし、全く新しいドラマとして成立させた「仮面ライダーアマゾン」の導入編となる第1話から第4話までの脚本を担当した大門勲とは、「仮面ライダー」の育ての親とも言える平山亨プロデューサーと、シリーズ冒頭から現場を支えて、後年には監督として幾多の東映特撮ヒーローや平成ライダーを演出し続けた長石多可男氏の共同ペンネーム。「仮面ライダー」シリーズ立ち上げから携わり続けた両者が、原点回帰を果たすため徹底的にディスカッションして脚本を執筆し、原点回帰にして完全新生を果たした「仮面ライダーアマゾン」の作品世界を見事に確立させている。
こうして、人か、野獣か、野生の魂を秘めた新たな仮面ライダーの戦いが始まった。