「バトルフィーバーJ」第29話「見たか!? 口裂け女」感想

2024年3月13日水曜日

バトルフィーバーJ 東映特撮YoutubeOfficial

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あらすじ

巷では口裂け女が現れるという噂が流れていた。
トモコ隊員は妹のユキから口裂け女が出たと聞き、基地へ連絡するが、誰も信じてくれない。
しかし、マリアだけはトモコ隊員の話に興味を抱き…。

恐怖の都市伝説 サロメの私怨がマリアを襲う

今回のエゴス怪人は1979年の春から夏頃に流布し、社会問題にまで発展した都市伝説の女王、「口裂け女」を題材にした口裂け怪人。
放送中に社会問題に発展した口裂け女をいち早く題材にしてエピソードを制作、怪談で盛り上がる夏に放送するという、東映特撮ヒーローらしい時代性を反映したエピソードになっている。
事実上の口裂け女の都市伝説の映像化として、都市伝説で語られる異常な身体能力や、自分を美人かと尋ねてくる行動などをかなり忠実に映像化しており、また女性の「口」をアップで映す描写を頻繁に挿入する、怪奇性の高い演出で夏場の放送(初回放送は1979年8月18日)に相応しい口裂け女の恐怖を描いたホラー作品のムードを醸し出している。

街中で流れる川で顔を洗う女性を目撃した子供たち。子供たちがそんな女性に呆れていると、女性は突然口裂け女としての正体を現し、子供たちを追いかけ回した。
さらに口裂け女は、タクシー運転手や女学生たちに自分を美人かと尋ね、美人だと応えたところにマスクを外して口裂け女の正体を現し、次々に人々を襲っていく。
マスクを外した口裂け女の「口」や、口裂け女に襲われる前の女学生たちが談笑する「口」がアップで映る演出が行われ、「口」を印象づける怪奇性の高い演出が印象に残る。

学校帰りのユキは、友達から口裂け女の話を聞いた。近頃子供たちの間で流行している口裂け女の都市伝説は尾ひれをつけながら広がっていき、子供たちの間に恐怖を呼んでいる。
そしてユキも、口裂け女と思われる女性に声をかけられてしまった。
急いで逃げ出したユキは、家で化粧をしていたトモコ隊員に口裂け女の恐怖を訴える。
エゴスと闘う組織の一員であり、妹のユキを狙ってエゴスが行動してきた経験も踏まえてか、ユキの話を真剣に聞くトモコ隊員の子供の話にも真剣に耳を傾ける真摯さに好感が持てる描写だ。
ユキに口紅で口裂け女の様相を再現したメイクをされてしまったトモコ隊員は、子供たちを怯えさせるこの一大事に、バトルフィーバー基地に連絡を取る。

一方、バトルフィーバー基地・ビッグベイザーではエアコンが故障してしまい、バトルフィーバー隊一同は真夏の暑さに苦しんでいた。ロボット九官鳥はケニアに水をかけさせ涼をとる。
一人涼し気な様子のマリアは、日本の幽霊についての本を読んで涼んでいた。
そこに、トモコ隊員が口裂け女に付いての通信を送り、バトルフィーバーの緊急出動を要請するが、真夏の暑さでイライラしているバトルフィーバー隊は全く相手にしない。
真夏の暑さのせいか、男性陣は全員異様に口が悪くトモコ隊員をけちょんけちょんに咎める。
だが、マリアは幽霊に興味津々な様子で、トモコ隊員の様子を伺いに向かった。

バトルフィーバー隊に突き放されたトモコ隊員は怒り、口裂け女を探しにユキを連れて外出。
この回のトモコ隊員は急に気性が荒いところを見せており、真面目でおしとやかなケイコ隊員との対比もあって急激にキャラが立っているが、夏の暑さがそうさせているのだろうか…。
そこに、口裂け女と思われる女性が出現。私、美人?と問いかけ、トモコ隊員が美人と答えたところにマスクを取り、口裂け女、いや口裂け怪人としての正体を現す。
口裂け女のパブリック・イメージそのものの行動でトモコに襲いかかった口裂け怪人だが、そこにトモコたちの様子を影から見ていたマリアが変身したミスアメリカが助けに入る。
アメリカの妨害を受けた口裂け怪人は、驚異的な足の速さで空を飛び、何処かに逃げ去った。

口裂け怪人は俊敏な動きで姿を見せては逃亡し、戦闘になっても俊敏さでバトルフィーバーを苦戦させる強敵として描かれているが、これも口裂け女の都市伝説で語られる、高速で走ることが可能で、空中に浮くという能力を再現したもの。
口裂け女の都市伝説の映像化としてかなり忠実な描写がされている。

マリアから口裂け怪人の情報を聞いたフランスとケニア。
一同は一連の口裂け女騒動はエゴス怪人の仕業であると推測し、その目的を推理する。
フランスは、怖いものが好きなマリアを狙っているのでは、と推理するのだった。
また、ケニアはラジオで口裂け女の話を広めているDJ・香坂静香の存在を思い出した。
香坂静香はそれまで人気がぱっとしなかったが、口裂け女の話題をすることで急激に人気を獲得したのだという。香坂静香の口裂け女の放送に怯える子供たちの間に、不安が広がる。
1979年当時、口裂け女の都市伝説が恐れられ、パトカーの出動要請があったり集団下校が行われたという社会問題に発展していたという時代背景を思うと、都市伝説の流布で子供たちを怯えさせ、社会不安を煽っているというのは非常にリアリティのある描写だ。

マリアは記者を装って香坂静香に接触、食事の席で情報を引き出そうとする。
一方、フランスは香坂静香の恋人だというラジオ局のディレクター、秋田良夫に接触。
マリアたちが向かったのと同じ店で話を聞き始めた。
香坂静香は、口裂け女の話は自分が現代の怪談として創作し、それをラジオで世間に広めているだけに過ぎない、作り話なのだとあっけらかんとした様子で話す。
だが一方で、秋田は数日前に香坂静香に振られてしまい、辛いものが好きで辛子を好んでいた香坂静香が数日前から豆腐ばかりを食べるようになるなど、様子がおかしくなったと話す。
豆腐は子供たちの間で噂される、口裂け女の好物だった。マリアと話している今も、香坂静香は豆腐ばかりを食べている。さらに香坂静香の手を握ると氷のように冷たかったのだという。
フランスはこっそりとマリアと香坂静香が食事をするテーブルに近づき辛子を豆腐にぶっかけて、香坂静香が以前と異なり辛いものが苦手になったことと、手が氷のように冷たいことを突き止める。鮮やかな手口で香坂静香の異変の程を確かめるフランスの行動力が見事だ。

様々な店に入り、ケイコ隊員の働く店では吐息で植物を凍結させるなどの怪奇現象を引き起こす香坂静香を、フランスとマリアは尾行する。だが、次に香坂静香が入った店から人々の悲鳴が聞こえ、フランスは変身して店に突入。香坂静香の後を追い、ついに口裂け怪人に遭遇した。
しかし、またしても驚異的な身体能力で空を飛び逃げる口裂け怪人を取り逃がしてしまう。

口裂け怪人におびき寄せられたフランスと分断されてしまったマリアの前に、またしても香坂静香が姿を現した。マリアは単身で香坂静香を尾行するが、それはマリアをおびき寄せる口裂け怪人の罠だった。口裂け怪人はサロメの頼みでサロメの仇敵であるミスアメリカを始末してしまい、それを果たせば次々にバトルフィーバーを噛み砕いて始末しようとしていたのだ。

要するに一連の口裂け女騒動は、怪奇現象に興味があるマリアをおびき寄せるためにサロメが仕組んだ騒動だったということらしい。バトルフィーバーの5人の中でもまずはマリアを始末しようと口裂け怪人に頼んだサロメの、マリアへの私怨の深さが伺える。
口裂け怪人は普段のエゴス怪人が御子と呼ばれるのとは異なり、ヘッダー指揮官やサロメから王女様と呼ばれている。一応、女性怪人ということもあり呼び方も変わるあたりの細かい描写だ。

香坂静香に追いつき、部屋に通されたマリアは、ついに正体を現した口裂け怪人と直接対決。
そこにケニアとフランスも助けに駆けつけ、3対1の不利な戦況に狼狽するヘッダー指揮官とサロメ。だが、口裂け怪人はそんな不利を感じさせず、逆に驚くべき俊敏さでバトルフィーバーたちを圧倒して逃亡した。後を追おうとしたアメリカは、部屋の押し入れで監禁されていた本物の香坂静香を発見・救出する。

5人揃ったバトルフィーバーが口裂け怪人を追うと、そこには口裂け怪人だけでなく口裂けロボットも待ち受けていた。無茶苦茶に暴れ回り、岩石を飛ばしてくる口裂けロボットの脅威。
バトルシャークを呼んだバトルフィーバーは、バトルシャークの到着前に口裂け怪人を倒そうとするが、異常に素早い口裂け怪人の動きを捉えられない。
バトルフィーバー1の俊敏さを誇るケニアが追跡を開始したが、木の上を自由に飛び回る口裂け怪人の動きはケニアにすら捉えられないほどだった。
ジャパンの槍も受け止めた口裂け怪人だったが、そこに続けて攻撃を受けることで足を止めた隙に、バトルフィーバーのペンタフォースが炸裂して敗れる。

到着したバトルフィーバーロボと口裂けロボットの戦いが始まった。
バトルフィーバーロボのスティックアタッカーを噛み砕こうとする口裂けロボットの俊敏な動きに苦戦しながらも、必殺の電光剣唐竹割りが決まり、バトルフィーバーロボが勝利する。
こうして口裂け怪人が敗れ、都市伝説は終息し子供たちは平和を取り戻した。
英語の塾をさぼったユキを叱るトモコ隊員は、口裂け女より怖いと言われてしまい、ムキになって怒る。夏休みを迎えた子供たちの、平和な日常がそこにはあった。

現実世界の口裂け女の都市伝説は、夏休みを迎えたことで1979年の夏頃には急速に終息したということで、奇しくもこのバトルフィーバーの活躍でエゴスによって流布した口裂け女の都市伝説が終わるこの回の放送とシンクロするように終息したことになる。
現実世界の時代性を反映したエピソードの制作が産んだ現実世界とのシンクロは、バトルフィーバーが口裂け女を倒したから都市伝説も収まったんだと、作品世界と現実世界を繋ぐリアリティを産んでいて面白い。現実社会とのシンクロで子供たちがよりヒーローが活躍する世界観を身近に感じられた、時代性を反映した制作を行ってきた東映特撮ヒーローらしいエピソードだ。

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