あらすじ
ある日、三村博士がドリルミサイルを完成させた。
しかし、博士はエゴスによって殺され、娘のまゆみはその現場を目撃してしまう。
笑顔を失ったまゆみのため、コサック、いや謙作は強化服を持たずに彼女と接するが…。
少女の笑顔を守るために、優しき戦士は命を散らす
「バトルフィーバーJ」は、初期メンバーが二人も途中交代しているのが珍しい作品。
かつて、初代ミスアメリカことダイアン・マーチンは、妹を通して正体が露見し、家族を危険に巻き込まないためにバトルフィーバーを辞め、安全なアメリカに移住。
ミスアメリカの称号と強化服は二代目ミスアメリカ・汀マリアに託された。
そして今回は、バトルコサックこと、白石謙作が退場し、バトルコサックの称号と強化服は二代目バトルコサック・神誠に託されることになるが、その交代劇は悲痛なものとなった。
パトロールをしていたコサックは、その道中、三村博士の研究所に向かった。
娘のまゆみと交流するコサックを出迎えたのは、三村博士を護衛する旧友・神誠だった。
三村博士は標的の内部に食い込んで爆発する新兵器、ドリルミサイルの研究に打ち込んでおり、密かにこの新兵器の設計図を完成させていたのだった。
三村博士は自分や娘のまゆみを気遣い、たびたび自宅を尋ねてくれたコサックに感謝する。
神誠を演じるのは、「人造人間キカイダー」や「イナズマン」、「忍者キャプター」で主演を務め、数々のヒーローを演じてきた伴直弥(現:伴大介)氏。
久々の東映ヒーロー作品への復帰となる神誠役では、不言実行タイプの孤高の戦士をハードボイルドに演じることになり、「人造人間キカイダー」や「イナズマン」など、ドラマ重視のヒーロー作品を確かな演技力で成立させた技量を遺憾なく発揮している。
三村博士の護衛任務を終える神誠と、トローリングに行く約束をしてパトロールに戻ろうとするコサックだったが、そこにまゆみを捕えたサロメたちエゴスの一味が現れた。
サロメは三村博士がドリルミサイルの研究をしていることを知り、博士の自宅に盗聴器を仕掛け、完成したドリルミサイルの設計図を奪う機会を見計らっていたのだ。
断固とした態度で設計図を渡すことを拒んだ三村博士だが、そんな三村博士にカットマンたちは容赦なく銃撃を開始し、銃弾の雨を降らせる。
強化服を着たコサックはカットマンを蹴散らすが、銃弾によって神誠も傷を負い、ドリルミサイルの設計図はサロメに奪われてしまった。
銃撃で致命傷を負った三村博士は、まゆみの目の前で息絶えてしまう。
父の死にショックを受けたまゆみは気絶し、病院に保護される。
だが、父の死によって心理的外傷を負ったことで、まゆみの目からは光が消えていた。
バトルフィーバー隊はエゴスがドリルミサイルを完成させる前に摘発すべく、懸命に捜索する。
ヘッダー指揮官はドリルミサイルを完成させ、バトルシャークに撃ち込むことで、バトルシャークを乗り込んだバトルフィーバーごと粉砕しようとしていた。
作戦を指揮するイーグル怪人はドリルミサイルの完成を急がせ、ヘッダー指揮官もカットマンたちに24時間体制の突貫作業を行わせる。
まゆみの病室を尋ねたコサックは、そこで神誠からの手紙を発見する。
ドリルミサイルの設計図が完成した直後に奪われたタイミングの良さと、三村博士が死に至らしめられながら軽症で済んだことで、神誠は国防省にスパイの嫌疑をかけられていた。
潔白を証明するために設計図を奪い返そうと行動を起こした神誠は、まゆみの心の傷を癒やすために、コサックにまゆみのそばにいてほしいと頼む。
神誠は、国防省時代はコサックと射撃のライバル同士であり、コサックを凌ぐ実力者だった。
心に傷を負ったまゆみに寄り添おうとするコサックだが、まゆみはコサックを拒絶する。
目の前で父を無惨に殺されたまゆみにとって、平和を守る正義の戦いとはいえ、エゴスと殺し合いをしているコサックもまた、父を殺したエゴスと同じ人殺しだった。
まゆみはコサックの身体から血の匂いがすると告げ、コサックを拒絶し心を閉ざす。
世界の平和を守るためとはいえ、エゴスと血で血を洗う戦いを繰り広げてきた自分もまた、人殺しに過ぎないという事実を突きつけられ、苦悩するコサックは、まゆみが感じ取った、自分に染み付いた血の匂いを拭い去るために手を洗い続ける。
コサックはなんとかまゆみを励まそうと病室を訪ねようとするが、彼女の、自分から血の匂いがするという言葉に苦悩し続けるのだった。
スパイアクション的な作劇を強調してきた「バトルフィーバーJ」においては、エゴスとの戦いも、世界を守る正義の戦いではあるが、同時に血で血を洗う命のやり取りである。
目の前で最愛の父を殺されたまゆみは、自分に優しくしてくれたコサックもまた、エゴスの構成員の命を戦いの中で奪っていることを敏感に感じ取り、そのことへの嫌悪感を、コサックの身体から「血の匂いがする」という言葉で表現している。
その言葉を受けたコサックが、血の匂いを拭おうと手を洗い続けるシーンは、世界を守る使命のために数多くの命を奪ってきたという消せない罪を突きつけるものであり、ヒーローが行う正義の戦いの正当性に疑問を呈したシーンにもなっている。
サロメは、フランスとケニアが基地の周囲を嗅ぎ回っていることを察知する。
エゴスを捜索していたフランスとケニアは突然銃撃を受けるが、その銃撃は同じくエゴスを捜索し、彼らをエゴスと誤解した神誠によるものだった。
神誠は黙して語らぬまま、フランスとケニアをエゴスの基地があると思われる地点へと誘導するが、道中の工事現場で働く職員から、工事現場の発破があると告げられる。
結果として彼らは迂回を余儀なくされてしまい、エゴスの基地には辿り着けなかった。
コサックは設計図の捜索を続けながらも、まゆみのことを気にかけ続けていた。
少しづつ元気になっていくが、シャボン玉に父の顔が映るのだと言って虚ろな目でシャボン玉を吹き続けるまゆみの姿に、コサックは過去の自分の体験を思い出す。
コサックは、かつて孤児だったが心ある神父によって引き取られ、同じ境遇の孤児たちとともに神の子牧場で暮らしていた。だが、コサックにとって実の親も同然の神父は、牧場の土地を狙う暴力団の立ち退き命令に従わなかったがために、コサックたちの目の前で銃殺されてしまった。
だからこそ、コサックは自分と同じく親を目の前で失ったまゆみを放っておけなかった。
コサックはマサルに頼んでまゆみと一緒にけん玉をしてもらい、まゆみを元気づけていく。
コサックが孤児であるという設定は、第7話「お家が燃える!」でも語られたもの。
第7話では、孤児だった時に鉄山将軍に引き取られたとの説明だったが、神父に引き取られ、その神父を地上げ屋の凶弾によって失った後、鉄山将軍に引き取られたものと思われる。
第7話でも自分と同じく孤独な少年の心に寄り添っていたコサックは、孤児として孤独を知り、親代わりの神父を目の前で理不尽に殺されたからこそ、同じく父親を理不尽に殺されたまゆみに寄り添おうとするし、その言葉を気にして自らの血の匂いを消そうと試みている。
そしてその子供に寄り添う優しさが、彼の命運を左右することになるのだった。
ヘッダー指揮官は、サタンエゴスにバトルフィーバー隊が一段とドリルミサイルの設計図の捜索を厳しくしていると報告するが、サタンエゴスはバトルフィーバーは5人揃えば脅威だが、一人だけなら5分の1の力に過ぎないと告げる。
それを聞いたイーグル怪人は、バトルフィーバーを一人ずつ抹殺する作戦を立てた。
バトルフィーバーが一人でも欠員が出ればペンタフォースが使えず、エゴス怪人を倒す術を失うことは大きな弱点としてエゴスに付け狙われ、ドラキュラ怪人に狙われたダイアンやヘンショク怪人に狙われたケニア、ミミズ怪人に狙われたジャパンなど、バトルフィーバーの正体を知ったエゴスはバトルフィーバーを各個撃破しようとしてきた。
そして今、イーグル怪人によってコサックの命が狙われようとしている。
まゆみの元に出かけるコサックは、強化服を持たずに出かけようとしていた。
それをロボット九官鳥やジャパンに咎められたコサックは、強化服をクリーニングセンターに出しているとうそぶく。既にバトルフィーバーの正体が露見している今、いつエゴスに襲撃されるかわからない危険がある以上、強化服を持っていくように促す一同。
しかし、コサック=謙作は、まゆみが血の匂いを感じる要因である、殺し合いをするための姿である強化服をまゆみの元に持っていくことを拒むように、強化服を持たずに出かけてしまった。
危険を感じたバトルフィーバー隊はケイコ隊員に強化服を用意させ、後を追うのだった。
ヒーローの変身後の姿が、悪を抹殺するための姿、殺し合いの象徴として嫌悪されるという圧巻の展開。目の前で親を殺されたことで、人殺しに嫌悪感を抱く少女に寄り添えるコサック=白石謙作の優しさが非情なエゴスの前に弱点となってしまう展開は、あまりにも辛い。
謙作はまゆみの気分を変えようと、湖に連れ出して一緒にダムを見学していた。
まゆみの心もずいぶんと晴れ、笑顔を見せるようになる。
親を失くしたまゆみに寄り添おうとした謙作の真心が、まゆみに通じたのだった。
一方、ケイコ隊員とトモコ隊員は強化服を持って急ぎ謙作の後を追っていた。
謙作が飲み物を買いに行った間に、エゴスが現れ、まゆみを捕えた。
まゆみを人質にされ、戦闘服も持たない謙作は、なんとかエゴスの手からまゆみを奪回することには成功したものの、まゆみを庇ってカットマンの銃撃をなすすべなくその身に受けてしまう。
サロメがとどめを刺そうとしたその時、神誠が駆けつけ、銃撃でカットマンたちを蹴散らした。
ケイコ隊員たちも現場に駆けつけたが、時すでに遅く、致命傷を負った謙作は地に倒れ伏す。
バトルフィーバー隊も到着したが、謙作は悲しむまゆみを気遣い、仲間へ詫びる。
そして、熱を帯びる身体の熱さに苦しみ、エゴスへの逆襲を誓いながら、謙作は息絶えた。
ジャパンは謙作の身体にコサックの強化服を被せ、バトルフィーバー隊は哀悼の意を表する。
だが、神誠はコサックの強化服を手に取ると、仇を取るためにエゴスの基地へ向かうのだった。
バトルフィーバーとしての能力は強化服に依存するのは、以前ダイアンがマリアにミスアメリカの強化服を託した展開からも明示されていた。
そして、少女の心を救う優しさによって命を落とした謙作の仇を討つべく、神誠がバトルコサックの強化服を継承することになる。不言実行、目的のために非情になれる神誠は、子供に優しさを見せる謙作とは真逆の性格ではあるが、互いにその実力を認め合っていた。
バトルコサックの称号と強化服を継承できるのは、彼しかいない。
以前、神誠の進路を変えさせた工事現場の職員はエゴスの変装だった。
神誠は銃撃で次々に工事現場員に化けたカットマンを撃つが、イーグル怪人に襲われる。
バトルフィーバーも駆けつけたが、4人ではペンタフォースが使えずイーグル怪人を倒せない。
だが、神誠がコサックの強化服を身に纏い、二代目バトルコサックとしての名乗りを上げた。
コサックの強化服を纏った神誠の「待てい!」は、悪を許さぬ正義の怒りを感じさせる、さすがに様々なヒーローを演じてきた伴直弥氏ならではの迫力を持った台詞。
だが、彼がコサックになる経緯があまりにも哀しすぎるがゆえに、伴直弥氏がまた一人ヒーローを演じることになった嬉しさよりも哀しさが先に来てしまった…。
5人揃ったバトルフィーバーに不利を悟ったイーグル怪人はイーグルロボットを呼ぶ。
パンチ攻撃を得意とする二代目コサックの猛攻が、エゴスを次々に打ち倒していく。
エゴスもドリルミサイルは完成させておらず、現場に到着したバトルシャークからバトルフィーバーロボが出撃。ジャパン一人が乗り込んでイーグルロボットとの戦闘を開始した。
バトルフィーバーはペンタフォースでイーグル怪人を倒し、バトルフィーバーロボも電光剣唐竹割りでイーグルロボットに勝利する。
一人の少女の心を救うために真心を尽くし、その命を守るために壮烈な戦死を遂げた初代バトルコサック・白石謙作の墓標に、その意志を受け継いだ二代目バトルコサック・神誠を加えたバトルフィーバーは、謙作の冥福を祈るとともに、エゴスへの勝利を誓うのだった。
初期メンバー二人目の退場劇となったこの第33話は、父を殺されたことで人殺しの暴力に敏感になってしまった少女を通して、ヒーローの戦いも所詮は悪と同じく人殺しの暴力に過ぎないという現実と、それでもヒーローは、他者の傷ついた心を癒やすためにその暴力を振るうための力を手放すことが出来るという、悪とヒーローの存在を決定的に分ける要因を描いている。
悪は自分たちの欲望のために、際限なく暴力を振るい続け、そのための力を求め続けるが、ヒーローは傷ついた者に寄り添い、その心を癒やすためなら暴力を手放すことが出来るのだ。
「正義のヒーロー」という存在は、時折その存在の正しさや危うさを、アンチヒーロー的な作品を通して批判されることもある。所詮は正義という正しさの元に暴力を振るう存在でしかない、その正義が暴走すれば誰も止められない危険な存在だという指摘。
世界征服という夢に向かって団結し邁進している悪の軍団を暴力で一方的に排除する独善的な存在だ、という、本質を見誤った批判すら存在する。
だが、彼らは自分自身が正義だと思っているのではなく、他者を蹂躙する邪悪に立ち向かおうとする、大衆の正義に味方する存在、すなわち「正義の味方」であり、世界を支配する夢のために他者を蹂躙することに、大義などあるわけがない。
そして何より、正義のヒーローはこの「バトルフィーバーJ」第33話のように、自らの意思で暴力を振るう力を捨てて、傷ついた者に寄り添う事が出来るのだ。
夢という私欲のために、他者を蹂躙する暴力を振るい続け、そのための力を求め続ける悪の軍団と彼らを決定的に分けるのは、力を捨てることが出来る覚悟だとも言えるだろう。
夢のために暴力を振るい続け、暴力で叶えた夢は、暴力を手放せば瓦解する。
それゆえに悪の軍団は暴力を振るう力を求め続ける。
だがヒーローは、他者を蹂躙する悪を討つために力を振るうが、悪が消えれば、蹂躙され何かを失った者に寄り添うために、力を捨てることが出来る。
力に執着せずに、他者に尽くすために力を手放せる覚悟を持つから、彼らはヒーローなのだ。
傷ついた少女の心に寄り添うために力を手放した白石謙作は、間違いなくヒーローだった。