「バトルフィーバーJ」第35話「腹ペコ大パニック」感想

2024年4月3日水曜日

バトルフィーバーJ 東映特撮YoutubeOfficial

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あらすじ

エゴスではパニック作戦なる作戦が進められていた。
作戦の実行役を務めるコダイギョ怪人は、道路を破壊し食べ物の物流を絶つ作戦を決行。
その結果、魚の値段が高騰してしまい、日本にパニックが起こる。
バトルフィーバーはその価格高騰の中心に、あるスーパーマーケットがあることを突き止め、スーパーマーケットの調査を開始する。

断たれた物流 起こる混乱 現代にも起こり得るパニックへの警鐘

今回のエゴスの作戦は、魚の物流を絶つことで、東京での魚の値段を高騰させること。
魚の物流が途絶え、魚の値段が高騰したことで芋づる式にあらゆる食材の値段が高騰。
さらにマスコミでは社会評論家が世界的な食糧問題による飢餓の時代の到来を嘯き、人々の不安を無責任に煽り続ける。人々は明日にはまた食料品が値上がりするかもしれない不安に怯え、高騰した値段でも仕方なく買い溜めしないといけない心理が働き、社会に混乱が巻き起こる。
魚の値段を高騰させる、というところだけ抜き出せばコメディテイストに感じるかもしれないが、このエピソードで描かれている、物流が途切れることで社会に巻き起こるパニックと、それを無責任に煽り立てるマスコミによって人々が混乱する現象は、令和の現代でも起こり得る。
いやむしろ、SNSの普及でマスコミでなくても個人が社会不安を煽る風説を無責任に広めることを可能にし、社会不安が巻き起こる令和だからこそ、極めて現実的な脅威である。

このエピソードの脚本を担当したのは、後に「宇宙刑事シリーズ」で時事的な社会問題を題材にした名作エピソードをいくつも描き、不安に揺れる人々の描写においては、より文明が発展した現代社会、放送当時からすれば未来をも予見した描写を幾度ともなく描いてきた上原正三氏。
物書きとして社会問題にも敏感に目を向け、その社会問題が未来に引き起こす社会不安を予見して作品を描く上原正三氏の手腕は、このエピソードでも遺憾なく発揮されている。

サタンエゴスは、ヘッダー指揮官にパニック作戦の準備を進めさせていた。
ヘッダー指揮官は、近海で操業中の漁船を襲い、漁師の恐怖を煽って漁船を港に釘付けにし、東西を繋ぐ大動脈の東名高速道路を分断して、関西から東京への魚の輸送を封じることを画策。
さらにサロメが、魚の流通が止まったのを見計らい、東京C地区にエゴスのカットマンが変装した支配人が運営する東西スーパーを開店し、独自に買い占めた魚を暴利で販売。
さらに魚の希少性を煽り立てる情報を流すことで、家計を支える主婦をパニックに陥れる。
その上で、パニックをより深刻化させるため、カットマンが変装した世相評論家の大田黒が、飢餓の時代が到来したとマスコミで風説を流布することで社会にパニックを煽り立てる。
物流を絶ち、食糧不足と価格高騰のパニックで東京を混乱させることがパニック作戦なのだ。
パニック作戦の内容に満足したサタンエゴスは怪人製造機でコダイギョ怪人を生み出す。
今回から、怪人製造機から怪人が誕生する際、怪人の名前や作戦目的がカタカナのテロップで紹介される演出が加わり、怪人誕生のシークエンスがより印象深いものになった。
こうして、海の魔王を自称するコダイギョ怪人のパニック作戦が始まった。

コダイギョ怪人は次々に操業中の漁船を襲い、漁師たちは怪人の被害を恐れ海に出ることを控えるようになった。さらに、東名高速道路のトンネル内で起こった追突事故で、190台以上の車がトンネル内で炎上。東西を結ぶ大動脈は分断され、市場への魚の入荷は止まった。
そんなことはつゆ知らず、子猫に魚をあげようと魚を購入しようと市場を訪れたケニア。
だが、市場では手頃な値段の魚は尽く消え、手の届かない高級魚しか残っていないことに驚く。
すると、同じように魚を求める主婦たちが、新装開店した東西スーパーに魚が残っていると騒ぎ、急ぎ東西スーパーに向かっていた。ケニアもそれを聞きつけ東西スーパーに向かう。

だが、東西スーパーはサンマが3000円、小鯵が1500円、鯛が5万円と暴利を貪る店だった。
さらに支配人は高いと思うなら買わなくても良い、だが東京中探しても魚はもうここにしかないと強気な態度に出て、魚を求める主婦を混乱に陥れる。
さらに主婦に変装して群衆に紛れ込んでいたサロメやエゴスの手先は、今は魚が手に入りにくい状況であると噂を流し、さらに自ら率先して高額な値段で魚を購入する。
それが呼び水となり、魚を求める主婦たちは次々に高額な値段で魚を購入し始めた。
目的を果たしたサロメたちエゴスの手先は笑みを浮かべる。

魚の値段が高騰していることを知った八百屋の夫妻は、物流が途切れれば自分たちの売る野菜も値上げ出来ると思い、値上げをした上で、品薄を演出するために在庫を倉庫に隠し始める。
さらにマスコミではエゴスの息のかかった評論家、大田黒が魚や資源が手に入りにくい状況であり、世界的な飢餓の時代が来ていると消費者のパニックを煽る。
結果として、魚の値上がりをきっかけに様々な商品が値上げラッシュとなり、主婦たちも値上げすればするほど、今のうちに買いだめをしなくては損だという心理が働き店に殺到する。
エゴスのパニック作戦は社会不安を煽るという成果を上げ始めていた。

物流を絶ち、物資を独占することで社会不安を煽るだけでなく、高額な値段で物資を流通させ軍資金まで得ようとするエゴスのパニック作戦。
その恐ろしさは、様々な製品が値上げをし、駆け込み需要という言葉が頻繁に聞かれるほど、値上げに敏感になった人々が買い溜めをして様々な商品が品薄になるという騒ぎも起きる令和の現代では、さらに現実的な描写となって実感させられるものになっている。
品薄になるであろう野菜の値段を釣り上げて利益を得ようとする八百屋の描写は、人気商品の予約開始と同時に大量に注文し、発売してから法外な値段で販売して利益を得ようとする、転売を生業にする人間が起こす様々なトラブルを想起させられる。
また、そんな不安定な物流によって人々が感じる不安を報道し、強い言葉を用いて無責任なまでに社会不安を煽り立てるマスコミの報道姿勢もまた、現代ではより身近な問題だ。
これらの令和の現代にも通じる幾多の社会問題を、見事に悪の組織の作戦としてカリカチュアライズして描く手法は、まさに上原正三氏が得意とするところの描写。
社会に蔓延する不安によって混乱する人々の様子を、現代に至るまで通用する詳細な描写で描き切るその力量は圧巻の一語に尽きる。

バトルフィーバー隊は、驚異的な値上げのペースで混乱する市場を調査していた。
倉庫には在庫があれど、買い占め・売り惜しみで市場に商品が流れない。
一人離れた場所で新聞記事を読んでいたコサックは、その背後にエゴスの影を感じ取っていた。
あくまでバトルフィーバー隊の中で孤高を貫くコサックだが、孤高ゆえに、離れたところから事件を俯瞰して眺め、冷静に状況を判断することが出来るのがコサックの強みである。
魚を高額でぼったくられたケニアから、東西スーパーがこの値上げラッシュの中心にいることを知ったバトルフィーバー隊は、東西スーパーの調査に向かうのだった。

東西スーパーの魚はさらに値上げをしており、さすがにケニアもクレームを入れる。
だが支配人は悪びれることなく、ダイヤモンドと同じで、品物が少なくなれば値段が上がるのは当然だと言い放つと、さらに子どもの健全な成長のためにも魚を食べさせてカルシウムを摂取させないといけないと、カルシウムが含まれた魚を子供に食べさせることを喧伝。
子どもの健康を気遣う母親の心理を揺さぶることで、さらにパニックを加速させる。

フランスとケニアは東西スーパーの冷蔵車を尾行し、魚の出どころを突き止めようとする。
荒野の真ん中で停車した冷蔵車を調べるフランスとケニアだが、冷蔵車はもぬけの殻だった。
さらに冷蔵車に仕掛けられていた爆薬が爆発した。
間一髪爆発から逃れたフランスとケニアは、一連の事件がエゴスの仕業だと確信する。

草野球をしていたマサルが、スライディングをしただけで腕を骨折する怪我を負った。
魚を食べられず、カルシウム不足に陥ってしまったのだ。
ケイコ隊員はこの魚不足の事態の深刻さを思い知る。
ヘッダー指揮官は買い占めによって起こったパニック地獄をサタンエゴスに報告していた。
サタンエゴスはこのパニック地獄を日本中に広げようとする。

コサックはケニアの声掛けも無視して、巨大な釣り針を作っていた。
鉄山将軍は、このままではマサルのように、魚不足に陥った子供たちの健康が損なわれてしまうことを憂い、バトルフィーバー隊に一刻も早い調査を命令する。

お金持ちの家ですらサンマを食べられないほど、魚の値段が高騰しきってしまっていた。
マリアとケイコ隊員、トモコ隊員は東西スーパーに従業員として潜入した。
支配人に荷物を運ぶように言われたマリアたちは、冷凍庫に魚の在庫が山ほどあることを掴むが、それは罠だった。支配人はマリアたちを冷凍庫に閉じ込め、強烈な冷気を流し込む。
冷凍庫の壁は通信電波をも阻害し、マリアたちは助けを呼ぶことも出来ないまま、流れ込んでくる強烈な冷気に晒される、絶体絶命の状況に追い込まれてしまう。

コサックは一人、海岸で自家製の巨大な釣り針で釣りを行っていた。
コサックが何を考えているのかわからないフランスに、ジャパンはコサックはエゴスが海に出てくると読んでいるのだとフォローし、調査を続ける。
不言実行の男であるコサックを信頼し、コサックが独自の行動をする分を自分たちでカバーしようとするジャパンの優れたリーダーシップが発揮されている描写だ。
東西スーパーを訪れたケニアは、潜入していたマリアたちの姿が見えないことを不審に思い調査を開始。そして事務所の奥で、支配人がサロメに魚の売上の2億円を上納する現場を目撃する。
サロメが去った後、ケニアは支配人に接触し尋問しようとする。
カットマン軍団が支配人の護衛に現れたが、ケニアは戦闘服を着込んで反撃を開始した。
さらに支配人が冷凍庫に向かい、より冷気を強めてマリアたちを凍らせようとしたのを阻止したケニアは、冷凍庫内部からマリアたちを救出することに成功する。

コサックは見事にコダイギョ怪人を釣り上げた。
怒りのコダイギョ怪人はカットマンを呼び出すが、コサックも戦闘服を着込んで反撃。
そこにジャパンとフランスも駆けつけ、カットマンとの戦闘を開始した。
不利を悟ったコダイギョ怪人は撤退しようとするが、コサックの釣り竿に動きを封じられる。
口から吹く爆発性の泡で脱出し、海に飛び込んで逃亡したコダイギョ怪人だが、コサックは釣り竿で怪人の体に発信機を取り付けていた。

発信機の信号を追って、バトルフィーバーは水族館に到着。
エゴスは水族館を生け簀代わりにして魚を保管していたのだ。
そこに現れたコダイギョ怪人。評論家の大田黒もカットマンの正体を現した。
社会を不安に陥れただけでなく、子供たちから魚を奪ったエゴスの陰謀を打ち砕くため、バトルフィーバーとコダイギョ怪人の一大決戦が幕を開ける。

コダイギョ怪人が口から吹く爆発性の泡がバトルフィーバーを苦戦させる。
しかしバトルフィーバーもジャパンの槍や、コサックの釵といった飛び道具で反撃。
さらにペンタフォースを炸裂させ、コダイギョ怪人を倒す。
だが、コダイギョ怪人は最期にコダイギョロボットを呼び出した。
バトルフィーバーもバトルシャークを呼び、戦場にバトルフィーバーロボが到着。
アタックランサーとバトルシールドを装備しコダイギョ怪人を攻めたてたバトルフィーバーロボは、さらに電光剣唐竹割りを決め勝利する。

こうして、東京への物流は回復。魚の値段も戻り、日本に平和が戻った。
ケニアは自腹を切って給料全部を注ぎ込んで大量のサンマを買い、子供たちに振る舞う。
カルシウムを摂って丈夫な体になり、自分のようにタフガイに育ってほしいという願いを込めたケニアの優しさが、子供たちの笑顔を取り戻したのだった。

上原正三氏が得意とする、社会問題をカリカチュアライズした悪の組織の作戦によって混乱する人々の社会不安が起こすパニックを描いた名作エピソード。
このエピソードで予見されている物流の途絶による数々のパニック・社会問題は前述した通りだが、そのどれもが令和の現代でも起こり得る、いや起きている問題を予見している、社会風刺としての鋭い切り口で見ごたえがあるドラマになっている。
しかし、このドラマではこのパニックの全てがエゴスの陰謀だが、現実はそんな単純な黒幕が存在しない、多くの人々が抱える不安や些細な悪意、欲望などが絡み合って、様々な社会問題が起こっていることへの哀しさも、どこかで感じざるを得ない…。

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