「バトルフィーバーJ」第39話「悪魔になった友」感想

2024年4月18日木曜日

バトルフィーバーJ 東映特撮YoutubeOfficial

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あらすじ

コサックの友人・関根は病に冒されていた。
そんな彼にエゴスが近づき、エゴスの会員になれば永遠の命を得ることができると誘惑する。
そして、彼は病気を治すため、エゴスに加わり、ハイド怪人と化してしまう。

死を恐れる心に付け込む悪意 不死の誘惑が人を破滅させる

今週のエゴス怪人は、「ジキル博士とハイド氏」のハイド氏をモチーフにしたハイド怪人。
善良な医者であり、胸に抱いた叶わぬ恋心と迫りくる死に苦しんでいた関根助教授が、死を超克するサタンエゴスの蘇生手術の誘惑を受け、怪人製造機によって変貌してしまった姿だ。
善良な市民が邪悪な存在に転じてしまい、それを自分でも制御できないという点がモチーフであるジキル博士からハイド氏への変貌を連想させるものとなっている。

そして、今回のエゴスは、人間なら誰もが恐れる「死」を彫刻する手段として、エゴスの一員になることを迫り、あくまで自由意志で選択させていると嘯きながら、死を目前としている事実を突きつけ、冷静な判断力を奪った上で死の恐怖に怯える関根をハイド怪人へ変貌させている。
自分たちのグループの一員になれば死の恐怖を克服できると嘯き、グループに勧誘して身を破滅させるエゴスの恐ろしさは、現代社会でも問題になる新興宗教への執拗な勧誘や、マルチ商法への勧誘、あるいは霊感商法による高額な商材の売りつけなどの社会問題を想起せずにはいられない。

人の不幸や不安に付け込み、救済を装って身を破滅させるという、令和の現代社会にも変わらず存在し、人々の不安を食い物にしようとしている社会問題を、エゴスの作戦にカリカチュアライズして描いた、シリーズ屈指の社会派エピソードであるこの第39話の脚本は上原正三氏が担当。
物書きとして社会問題にも敏感に目を向け、その社会問題が未来に引き起こす社会不安を予見して作品を描く上原正三氏の手腕は、このエピソードでも遺憾なく発揮されている。

コサックは毎年のように城北大学病院の高松教授に定期検診を頼んでいた。
高松教授はコサックの頑強な肉体を、バトルフィーバーにふさわしいと絶賛する。
そんなコサックに、旧来の友人である関根直人が声をかけてきた。
だが、関根は突然腹痛と嘔吐感に苛まれ、部屋を出ていく。
彼は、高松教授の見立てでは胃潰瘍を疑われているが、精密検査を受けようとしていなかった。

コサックは釈迦に説法と思いつつ、関根に病気は早期発見が大事だと説く。
だが、関根は論文の執筆中で、今が教授になれるかなれないかの瀬戸際の時なのだという。
関根は通りかかった同僚の安原教授が、看護師の典子と一緒に歩いていく様子に複雑な表情を見せたものの、コサックには自分の体は自分が一番わかっていると気丈な様子を見せるのだった。

そうしてコサックを見送った関根だったが、再び嘔吐感に苛まれてしまう。
そこに、変装したサロメが現れると、関根に、訪ねれば健康になるという「不死の会」の住所が書かれたメモを手渡してきた。体調不良に苦しむ関根は、万に一つ、劇的な回復を見せる可能性を信じ、藁にも縋る思いでメモに書かれた住所を訪ねる。
エレベーターに入った関根が、聞こえてきたサロメの指示に従い、手渡された名刺を壁のカードスロットにセットすると、突然床が抜け、関根は地下のエゴス基地に迷い込んでしまう。

サタンエゴスの間に通された関根に、ヘッダー指揮官は関根が残り三ヶ月の命だと告げる。
エゴスによって密かに精密検査をされた関根の身体は、悪性の癌に犯されていたのだった。
死の恐怖に怯える関根に、ヘッダー指揮官はサタンエゴスの蘇生手術を受ければ永遠の命を得ることが出来ると告げる。しかし、その代償としてエゴスのメンバーになる条件を突きつけると、あくまで関根の自由意志で手術を受けるかどうかを決めさせるのだった。
だが単なる体調不良だけでなく、悪性の癌に全身を蝕まれていたことを告げられ、関根は完全に冷静な判断力を奪われ、死の恐怖に怯える。ついに関根は自分の意志で蘇生手術を受けることを選んでしまい、サタンエゴスの導きで怪人製造機の中に入る。
怪人製造機の中で苦痛の叫びを上げながら、関根はハイド怪人に変貌してしまうのだった。

不幸な事実を突きつけて冷静な判断力を奪った状態で、あくまで強制することはなく自由意志で救済を選択するか判断させるヘッダー指揮官の手口は、完全に悪質な霊感商法のそれだ。
あくまで自分たちは強制してはいない、ただ事実を伝え、その上で自分の意志で選ばせただけのことだと嘯き、人を破滅へと導く姿は、異常なまでのリアリティを持って演出されている。

平和なバトルフィーバー基地では、ジャパンとフランスがチェスをしていた。
その横でケニアは薬草を燻しており、燻された薬草の煙が待機所に充満。
マリアは銀座で買ったワンピースに薬草の匂いが移ると憤慨する。
ロボット九官鳥は、鉄山将軍が国際会議に出席して不在になるとバトルフィーバー隊はすぐにサボると嫌味を言うが、フランスは自分たちが暇ということは平和の印だと言い返すのだった。
コサックはそんな仲間たちの輪に入らずに一人銃を整備していたが、ケニアがジャパンとフランスに薬草を勧めていた様子を見ると、ケニアに薬草を分けてほしいと頼む。

エゴスのメンバーとなった関根は、苦しみながら水を大量に飲む異常な様子を見せていた。
関根は、死ぬよりはエゴスのメンバーになった方がマシだと笑った直後に、喉の異常な渇きに苦しみ出すという、明らかに異常な状態になっていた。苦しみの果てに、牙を持つ吸血鬼の姿へ変貌したコサックとケニアがマンションの自室を訪ねようとしていたことを目撃する。
関根の回復を祈るコサックの頼みを受け、ケニアは関根に薬草を煎じて飲ませようとしていた。

人ならぬ姿になった関根は逃亡するが、その姿を車に乗ったアベックが目撃。
喉の乾きに苦しむ関根は、逃げ遅れた女性を捕らえ、その首に牙を突き立て血を吸う。
悲鳴を聞きつけ駆けつけたコサックとケニアを見た関根は逃亡。
コサックは女性を介抱し、女性の体から血が吸い取られている事を知る。
ケニアは吸血鬼の体から漂うクレゾールの匂いを辿って追跡し、関根のマンションに辿り着く。

コサックとケニアは関根の部屋を訪ねた。
関根はさっきは眠っていて二人が訪ねてきたことに気づかなかったと嘘を付くが、ケニアは鋭い嗅覚で、関根から怪人と同じクレゾールの匂いがすることを嗅ぎ取るのだった。
コサックとケニアは関根に薬草を渡して去っていくが、関根はエゴスによって不死身になった自らの身体を誇るように笑い、コサックの優しさが込められた薬草を廃棄する。

関根は看護師の典子を愛していた。
だが、典子の心は、関根より優秀でスマートな安原教授に傾いており、関根は苦しんでいた。
デートを終え、典子を家まで送っていった安原教授が車で帰宅の途につくと、吸血鬼と化した関根が車中に潜んでおり、安原に襲いかかった。

安原教授は死んだ。高松教授は安原教授亡き後、関根を教授に推薦しようとする。
喜ぶ関根だが、高松教授の前で突然苦しみだし、牙を持つ吸血鬼の姿に変貌。
耐え難い喉の乾きに襲われた関根は高松教授をも襲ってしまう。
さらに、吸血鬼の姿を典子に目撃された関根は逃亡するのだった。
たちまち吸血鬼怪人の噂が立ち、マサルはケイコ隊員に外出禁止令を出されてボヤく。
シリアスな描写が連続するこのエピソードでは貴重なコメディ・シーン。

安原教授も高松教授もいなくなった病院で、関根は自分のエゴのおもむくままにライバルや恩師を殺害していくことで、病院で重要なポストに着くことに成功する。
だが、吸血鬼の姿を目撃され、関根を恐れるようになった典子の心を捉えることは出来なかった。
そんな関根の様子は、コサックたちから報告を受けたバトルフィーバーに監視されていた。

怪人としての耐え難い喉の乾き、血を求める衝動をコントロールすることも出来ず、人間としてのエゴ、恋敵に消えてほしいという恨み、出世したいという欲望のまま行動する獣と化した関根。
死に怯え、ただ生きたいと願った不安に付け込み、人間を欲望とエゴのままに動く獣に変えてしまったエゴスの恐ろしさが強調されている。同時に、死の不安が解消された時に、恋敵を消し、出世をしたいという欲望が次々に湧き出てしまう人間の心の弱さも描かれている。

典子のマンションの周囲で、ジャパンとケニア、マリアの3人が典子の警護をしていた。
そこに、吸血鬼となった関根が現れ、典子の部屋に侵入し、眠っていた典子に迫る。
悲鳴を聞いたバトルフィーバーが部屋に入ると、典子の姿は消えていた。
一晩中捜索を続け、ビルの屋上で吸血鬼となった関根と攫われた典子を発見したジャパンたち。
追い詰められた関根は、典子をビルの屋上から投げ捨て、自身は逃亡。
典子を救助したジャパンたちは、別行動を取っていたコサックに連絡を入れる。

連絡を受けたコサックは、病院にいた関根に容赦なく銃弾を浴びせる。
だが、それはカットマンが変装した替え玉だった。そこに本物の関根が姿を見せる。
あくまでしらを切る関根に、コサックは吸血鬼が典子を殺さなかった理由について推理した結果を話し始める。吸血鬼は典子に恋をし、恋人の安原教授を殺してもなお自分を好きにならない典子に焦り、部屋にまで侵入したが、恋をしているが故に殺すことも出来なかったのだと。
コサックの推理に侮辱されたと感じた関根は動揺し、吸血鬼に変貌。
さらに怒りを爆発させ、エゴス怪人としての姿であるハイド怪人へと姿を変えた。
炎を吐き、コサックとフランスを撒いたハイド怪人は逃亡するが、そこにはジャパンたちが先回りしていた。カットマンたちが現れ、バトルフィーバーとハイド怪人たちの決戦が始まる。

ハイドロボットが現れ、剣を振り回し、火炎放射を浴びせる猛威を見せる。
火炎放射を避けるバトルフィーバーを追撃するカットマンたち。
ジャパンはバトルシャークを呼び、バトルフィーバーロボが到着。
ジャパンとフランスがバトルフィーバーロボに乗り込み、ジキルロボットとの死闘が始まる。
ジキル怪人の強力な剣と尻尾攻撃に苦戦するバトルフィーバー。
コサックはかつての友に対しても非情に徹し、ペンタフォースでジキル怪人を打ち破る。
バトルフィーバーロボもアタックランサーを投擲してジキルロボットの剣を叩き落とし、電光剣唐竹割りを炸裂させ、ジキルロボットに勝利を収めるのだった。

関根の墓に、コサックと典子が墓参していた。
どうしてエゴスなんかになってしまったのかと悲しむ典子。
永遠の命と引き換えに魂を売って悪魔になってしまったのだと、関根に思いを馳せるコサック。
人間の心は弱い。いつも迷い、いつも怯えている。そんな人間の心に、エゴスは食い入ってくる。
コサックは、悪魔になった友の、弱い心が哀れであった。

死の恐怖と不安に怯えさせることで、冷静な判断力を奪い、冷静に考えれば避けるべき選択肢を、これを選ばなければならないと錯覚させる。
悪質な新興宗教の勧誘や、霊感商法、民間療法の業者などが行うとされる手口だ。
今回のエゴス、とりわけヘッダー指揮官はその手口で健康を害していた関根の不安に付け込み、関根に不死の命の誘惑を行い、その身を怪人に変えてしまった。

関根が本当に癌だったのかはわからない。
現代医学の権威である高松教授は胃潰瘍であると見立てているが、関根は恋する相手に思いを告げられず、論文を仕上げなくてはならない焦りから、論文執筆を中断せざるを得ない検査や入院を選ばなかったがために、自分がただの胃潰瘍だったのか、癌なのかも判断できなくなってしまい、一瞬で体調が回復し、不死の命を得られるというエゴスの誘惑に呑まれてしまった。
これを、上手い話には裏がある、という他山の石、寓話として受け止めることはもちろん出来る。
だが、漠然と体調に不安を感じていた時に、あと三ヶ月の命しかないと一方的な余命宣告を行われ、自分たちならそれを救えると言われた時に、その誘惑を跳ね除けることが可能だろうか。
続いていた体調不良の原因が、余命僅かだったことの現れだと告げられ、冷静な判断力を保つことが出来るほど、人間の心は強くない。
もし、眼の前の人間に、自分たちなら瞬時にそれを救うことが出来ると告げられた時に、藁にも縋る気持ちでそれを選んでしまうことは、自然なことではないだろうか。
だからこそ、人の不安に付け込み、自分たちの欲望を叶えようとする存在を許してはいけない。

エゴスのように人の不安に付け込もうとする悪魔は、悲しいが現実の世界にも存在している。
関根は焦燥からコサックの忠告などを受け入れられず、ひとりきりで体調不良の不安に悩んでいたがために、エゴスにその不安に付け込まれ、身の破滅を招いてしまった。
不安に対して一人で考え込めば、その不安に付け込む悪意の誘惑が迫ってくる。
日々襲ってくる不安に対処するには、月並みな言葉ではあるが、一人で不安を抱え込まずに他者と力を合わせる道を選ぶべきなのだろう。「一人一人は小さいけれど ひとつになれば ごらん無敵だ」と謳われる、バトルフィーバーの勇者たちのように。

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