あらすじ
人間の心を利用するベーダーの作戦が進行する。
少女・香織は、父と再婚した継母との関係から人生に何の希望も見出せずにいた。
そして、へドリアン女王の送るベーダー怪物が香織に憑依し、次々と怪事件を起こしていく。
少女の絶望につけ込む女王の悪意 悲劇を演出する怪人を倒せ
今回のベーダー怪物は、ベーダー05・ヒゲキタコラー。
実母を喪い、父親と再婚した継母との関係に悩んで人生に絶望していた少女・美坂香織の絶望に目をつけたヘドリアン女王によって送り込まれ、香織の負の感情を吸い取り偽物として成り代わったヒゲキタコラーは、継母や、彼女を心配した電子戦隊の面々の周囲にポルターガイスト現象などの超常現象を起こして悲劇を撒き散らす行動を起こす。
しかし、愛犬を可愛がっていた本物の香織と異なり犬を苦手としていたことで、偶然姿を見せたデンジ犬アイシーに驚き人間離れした動きのリアクションをしてしまったことで電子戦隊に怪しまれ、遊園地に混乱を巻き起こそうとしていたところを正体を暴かれることになった。
アイシーが犬だったことが功を奏した展開だ。
ヘドリアン女王は、美しいものを何よりも嫌うが、同時に人間の絶望などの負の感情を見るのは大好物。遊園地を狙ったのも、子供たちの笑顔が集まる地上の楽園を絶望に叩き込むことが目的だ。
美醜の感覚が人間と真逆であり、真逆の感覚を持つ人間に憎悪を燃やし、絶望を抱えた人間の心をさらなる絶望に叩き込まんとするヘドリアン女王の恐ろしさが描かれたエピソードでもある。
港に釣りに来ていた黄山と緑川は、偶然、高所から飛び降り自殺を試みようとする少女を目撃。
思い詰めた表情をした少女・美坂香織を救うべく、黄山と緑川はデンジスパーク。
100メートルを3秒で走り、並外れたジャンプ力を持つデンジマンの力で香織の元へ駆けつけ、自殺を止めようとしたデンジイエローだが、香織は身を投げてしまう。
しかし、下で待機していたデンジグリーンがデンジジャンプで香織を受け止め、事なきを得た。
黄山と緑川は、一度きりの人生、命を大事にしないといけないと香織を諭す。
黄山と緑川は香織を家まで送り届けると、香織の愛犬であるコロが出迎えに来た。
ようやく笑顔を見せた香織だが、そこに、香織の継母が車に乗って現れた。
継母は、香織に愛想が尽きたと言い放ち、車で何処かへ行ってしまう。
何か事情があることを察した黄山と緑川は、香織を励まし、何かあったらアスレチッククラブに遊びに来れば、気を紛らせる手助けをすると言い残し去っていった。
帰宅した香織は、父親と継母が映った写真が収められた写真立てを破壊する。
実母を喪い、父親が仕事の都合で渡米している中、父と再婚した継母との仲が上手くいかない香織は、世を儚み希望を持てずにいた。愛犬のコロは、そんな香織を心配そうに見つめる。
そんな香織の様子を、ベーダー一族のミラーとケラーが監視していた。
継母や継母と結婚した父への憎悪を書いた香織の日記を持ち帰ったミラーとケラーの報告を受けたヘドリアン女王は、絶望と憎悪に支配された人の心を楽しみ笑顔を浮かべていた。
私の人生は灰色、何もかもが疎ましい。天よ怒れ、火の雨を降らせ、地球を燃やし尽くせ。
早くお母さんのところへ行きたい。
香織の哀しみを込めた日記を読む、ヘドラー将軍の感情を込めた朗読がちょっと面白い。
継母に懐こうとしない香織と、そんな香織を疎んじる継母のすれ違いは、悲劇度120%。
美しいものは大嫌いだが、絶望と哀しみ、涙が大好物と笑うヘドリアン女王は、その悲劇を加速させるため、ベーダー怪物の卵を孵化させ、ベーダー05・ヒゲキタコラーを誕生させる。
ヘドリアン女王は、ヒゲキタコラーに人間社会に悲劇を起こして不幸を撒き散らすことを命令。
ヘドラー将軍はヒゲキタコラーに、香織と合体・憑依して悲劇を撒き散らすように命ずる。
コロの散歩を終えた香織が帰宅すると、香織を呼ぶか細い声が聞こえてきた。
香織が不審に思うと、ヒゲキタコラーの影が香織を執拗に追跡。
その醜悪な姿に卒倒し、気絶した香織の体にヒゲキタコラーが憑依してしまう。
黄山は香織がまた自ら生命を経とうとするのではないかと心配し、料理も手につかずにいた。
その頃美坂家では、帰宅した継母が、写真立てを壊した香織を叱責しようとしていた。
だが、香織に憑依することで、香織と全く同じ姿のドッペルゲンガーとなって分離したヒゲキタコラーは、叱責する継母に反抗的な目を向け、頬を叩かれても全く動じない。
その態度は継母をさらに苛つかせ、アメリカの父親に言いつけるとヒステリックな態度を取らせる。だが、香織の姿のヒゲキタコラーは、念力で家中の刃物を操り、継母を刃物で襲って恫喝。
今度自分を怒らせればもっとひどいことになると脅迫され、継母は恐怖に震えるのだった。
黄山から事情を聞いたあきらは、香織をアスレチッククラブに通う由美子の誕生会に誘って気晴らしをしたらどうかと提案し、黄山とあきらは美坂家に向かった。
だが彼らは、怯えたような声をして逃げるコロを、香織が冷たい表情で追い回す現場に出くわす。
香織は気晴らしにアスレチッククラブに来ないかという誘いを断るが、黄山に誕生会のことを教えられると、幸せの絶頂である誕生会を混乱させて悲劇をもたらそうと考え、誕生会へと向かう。
由美子の誕生パーティーは、電子戦隊も全員揃った、盛大な笑顔に包まれたものだった。
だが、香織、いやヒゲキタコラーが目を光らせ念力を使うと、ケーキの真ん中から火花が吹き出し始めた。そこに、騒ぎを聞きつけ現れたアイシーが現れる。
すると、香織は少女のものとは思えない3メートルもの跳躍力で壁に張り付き、犬は苦手なのだと騒ぎ始める。青梅はアイシーを下がらせるが、香織は帰ってしまった。
電子戦隊の面々は、少女のものとは思えない跳躍力や、コロを可愛がりながら犬が苦手だと騒ぐ香織の様子がすっかり変わってしまっていることに懸念を抱く。
アイシーの見立てでも、香織は怪しくマークすべきとのことだった。
帰宅する香織をからかおうと、学校のサッカー部の連中が絡んできた。無視する香織を怒らせようと、サッカーボールを蹴ってくるサッカー部の男ども。実にろくでもない連中だが、香織=ヒゲキタコラーはサッカーボールを火の玉に変え、念力で飛ばしサッカー部の連中を襲うのだった。
ベーダー魔城では、まだ悲劇度が足りないと考えるヘドリアン女王が、もっと不幸を巻き起こすように命じていた。ヘドラー将軍はミラーとケラーにモニターを用意させると、人が集まる様々な場所を映し出し、悲劇を撒き散らす場所をプレゼンする。
なかなかお気に召す場所がないヘドリアン女王だが、遊園地がモニターに映し出されると、笑顔が集まる地上の楽園、幸福の溢れる場所である遊園地を狙うように命ずるのだった。
先日までとうって変わって明るい表情になった香織が、子供たちを引き連れてアスレチッククラブを尋ねてきた。スカッと皆と楽しみたいので、遊園地に連れて行ってほしいという香織たちの頼みを了承した黄山は、青梅と緑川とともに遊園地に出かけることになる。
赤城は青梅に、突然明るくなった香織の様子が要注意であることを確認し、送り出すのだった。
アスレチッククラブで待機していた電子戦隊の面々は、リラックスした表情を見せている。
ギターを弾き鳴らす緑川や、アンパンを食べる青梅など、個々人の特徴付けもバッチリだ。
一同が遊園地を楽しむ中、香織になりすましたヒゲキタコラーは、遊園地はパニックを引き起こすのにぴったりな場所だとほくそ笑むのだった。
赤城とあきらは、香織の身辺調査に乗り出し、美坂家を訪れていた。
継母によれば、香織はここ2、3日の間、部屋に鍵をかけているのだという。
合鍵で部屋に入った一同は、そこでベッドに横たわる香織を発見。
赤城は遊園地に出かけたはずの香織は偽物で、こちらが本物だと察知する。
目を覚ました香織は、継母に怪物に襲われた恐怖を素直に訴え、怯える娘の想いを初めて受け止めた継母もまた、娘との接し方を反省し、親子は和解する。
赤城とあきらは、遊園地にいる香織がベーダー怪物であると看破するのだった。
その頃、遊園地に来ていた一同は、ジェットコースターに乗り込んでいた。
デンジマシーンに乗って遊園地に急行するデンジレッドとピンクからの通信を受けた青梅は、自分の隣の香織が偽物であることを教えられる。そして、ヒゲキタコラーが行動を起こし始めた。
ダストラーがジェットコースターの操作をしている遊園地職員を遅い、ヒゲキタコラーが念力でジェットコースターを急加速・前進・後退を繰り返させ、乗客を混乱に陥れる。
遊園地に到着したデンジレッドは、デンジ線の作用でベーダー怪物の正体を看破るデンジスコープを使い、ヒゲキタコラーの正体を暴く。ヒゲキタコラーにジェットコースターから落とされた青梅を救ったデンジレッドは、デンジスティックを投げつけ、ヒゲキタコラーをジェットコースターから引きずり下ろすと、逃亡するヒゲキタコラーを追跡する。
そして、デンジピンクがダストラーを倒してジェットコースターを停車させ、乗客は救われた。
猛スピードで逃げるヒゲキタコラーを、デンジレッドも猛スピードで走って追う。
電車と走って並走するデンジレッドの姿を目撃した電車の運転士は、時速250kmのスピードで疾走するデンジレッドに驚愕。ヒーローの凄まじい身体能力を描写した一幕が楽しい。
美坂家に戻ったヒゲキタコラーは、本物の香織と再び一体化して電子戦隊をやり過ごすべく、香織の部屋に向かった。だが、香織の部屋のベッドに先回りしていたデンジレッドと鉢合わせする。
ベッドに布団をかぶって待ち受けていたデンジレッドが面白い絵面だ。
継母にも偽物であることが露見し、電子戦隊に美坂家を包囲されたヒゲキタコラーは、破れかぶれとなってついにベーダー怪物の正体を現し、電子戦隊と戦闘を開始した。
包囲を突破し、美坂家を脱出したヒゲキタコラーだが、後を追ってきた電子戦隊に囲まれる。
「見よ!電子戦隊デンジマン!」
ミラーとケラーがダストラーに抹殺指令を出す。飛んできたダストラーの群れを、デンジジャンプで躱した電子戦隊は、軽やかな技でダストラーを次々と蹴散らす。
デンジイエローのパワフルな技が大地に響けば、デンジレッドのデンジパンチが炸裂する。
電子戦隊は5人揃って額から放つデンジシャワーでヒゲキタコラーを撃つ。
そして、最後のトドメのデンジブーメランを炸裂させた。
だが、ベーダー怪物は体内の細胞組織を自在に組み替えて、巨大化することが出来る。
ヒゲキタコラーの目からの青い光線が大爆発を起こす。
デンジレッドの要請に応じて、デンジランドからデンジタイガーが飛び立った。
それを待ち受けるように砲台が設置されていたが、デンジタイガーには通じず、デンジファイターが発進してダイデンジンに変形、電子戦隊が乗り込んだ。
ヒゲキタコラーは、身軽な動きで分身して襲いかかる。
ダイデンジンは目を点滅させ、本物のヒゲキタコラーを捉えると、デンジボールを投げつける。
ヒゲキタコラーが怯んだ隙に、ダイデンジンは電子満月斬りを放ってヒゲキタコラーを倒した。
こうして、香織と継母の関係は改善され、親子は笑顔で語り合うようになった。
明るい表情になった香織を、電子戦隊の面々と、アスレチッククラブの面々が迎えに来た。
自転車に乗って出かける香織の表情は明るかった。
死ぬことばかりを考えていた少女が、こんなにも明るくなった。
人間を不幸に叩き落とし、それを喜ぶベーダー一族は、絶対に許せない。
戦え!電子戦隊デンジマン!
家庭環境に悩み、自殺まで考えた少女と継母の関係を改善し、少女の笑顔を取り戻すきっかけとなったのは、皮肉にもその絶望につけ込んで悲劇を撒き散らそうとしたベーダー一族だった。
継母を拒む感情から、継母に素直に自分の想いを伝えられずにいたことで、そのような態度が気に食わないと継母を苛立たせ、それを受けてますます継母を拒む…と負のスパイラルに入っていた香織が、ベーダー怪物に襲われた恐怖を素直に継母に打ち明けたことで、すれ違いを氷解させて笑顔で向き合えるようになったドラマが感動的だ。
いくらベーダー一族が人の心の絶望につけ込もうとしても、人の心の温かさが生む心の繋がりの前には勝てないという、人の心の光への希望のドラマが見ているこちらの心も暖かくしてくれる。
怪しい素振りを見せるヒゲキタコラーが成り代わった偽物の香織をマークする青梅たちと、香織の身辺を調査する赤城たちの2班に分かれて事件を追うことで、ヒゲキタコラーの謀略を見破った電子戦隊は、5人チームとして役割分担出来るグループ・ヒーローならではの強みを活かした展開。
一人ひとりがそれぞれの強みを活かしながら、団結のスクラムで悪の陰謀を粉砕する、スーパー戦隊シリーズならではの作風が既に完成しており、見ごたえのあるものになっていた。