「電子戦隊デンジマン」第13話「割れた虹色の風船」感想

2024年7月17日水曜日

電子戦隊デンジマン 東映特撮YoutubeOfficial

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あらすじ

アドバルラーは風船売りに姿を変え、毒ガス浄化装置を研究する藤村博士の娘・ミカに近づく。
しかし、ミカの純真な気持ちが、ベーダー怪物の心を惑わせる。
そして、ベーダー怪物であるアドバルラーとデンジマンの戦いが始まる。

少女の愛に安らぎを見た怪物 優しさを知った心との別れ

今回のベーダー怪物は、風船の怪物であるアドバルラー。
ヘドロで汚染された空気を好むベーダー一族にとって脅威となる毒ガス浄化装置の研究を進める藤村博士の抹殺と、開発中の毒ガス浄化装置の破壊を目的に送り込まれたベーダー怪物で、毒ガスを詰めた風船を破裂させることで、風船の内部に充満した毒ガスを浴びた者の視力を奪う能力を持ち、戦闘においては大量の風船を敵の体に纏わりつかせ、その浮力によって敵の体を宙に浮かせ、風船を破裂させることで地面に落下させる攻撃を得意としている。

そんなアドバルラーは、風船売りに化けて藤村博士の娘のミカに接触。
ミカから風船を奪ったいじめっ子どもの視力を毒ガスで奪うことでミカの信頼を得て、研究で忙しく娘と離れて暮らしている藤村博士に会いたいミカの気持ちを利用し、藤村博士の居場所を突き止めるべく、ミカとともに藤村博士を探し始める。
しかし、その道中でミカとアドバルラーの間には信頼関係が芽生え、アドバルラーを優しいおじさんだと慕うミカの愛がアドバルラーの心に変化をもたらし始める。
果たしてアドバルラーは、ベーダー怪物としての使命のために、自らを慕うミカを最後まで利用し、藤村博士の命を奪ってしまうのか…。

アドバルラーが化けた風船売りを演じたのは、特撮ファンには「ウルトラマンタロウ」の二谷副隊長役や「宇宙刑事ギャバン」の魔女キバ役が印象深い名優、三谷昇氏。
初めは利用するつもりで接触しながら、共に過ごすうちに芽生えたミカへの愛情と、ベーダー一族としての使命との間で揺れるベーダー怪物の姿を情感たっぷりに演じている。

空を漂う風船を見つけた少女、ミカは、その風船を手に取る。
だが、それを見つけたいじめっ子は、ミカに群がると風船を奪い取ってしまった。
風船を返すように訴えるミカは、いじめっ子の一人に突き飛ばされ、転んでしまう。
そこに一人の風船売りが声をかけてきた。風船売りはミカのことを藤村博士の娘だと知っており、ミカをいじめて風船を奪ったいじめっ子を懲らしめてやると言うと、手を何度も叩く。
すると、いじめっ子たちが奪った風船が、風船売りが手を叩くのにあわせて次々に割れ、中に充満していた毒ガスが噴出。毒ガスを浴びたいじめっ子どもは視力を奪われてしまう。
因果応報とは言え、さすがにやりすぎな事態。
子供たちが苦しんでいるところに、パトロール中のチーコが通りかかった。
慌てて子供たちに駆け寄るチーコだが、風船売りが再度手を叩くと大量の風船がチーコの体に纏わりつき、チーコも身動きが取れなくなってしまった。

自分をいじめたいじめっ子どもを懲らしめた風船売りを信頼したミカは、風船売りと手を繋いで仲良く歩いていた。風船売りは、良い子に風船を売るために旅をして歩いているのだという。
ミカは、その旅に自分もついていきたいとこぼす。
なんでも、ミカの父の藤村博士は東京で研究をしており、2年も家に帰ってこないのだという。
だが、ミカは藤村博士が東京の何処で何の研究をしているかは知らず、父に会いに行くことも出来ずに寂しい思いをしていた。ミカの寂しさに共感した素振りを見せる風船売りは、ミカをお父さんのところまで連れていくと約束し、共に東京市街へと向かうのだった。

ミカと風船売りが公園で楽しく遊んでいる頃、電子戦隊の面々はアスレチッククラブで黄山の作った料理を頂こうとしていた。だが、青梅が皿をいち早く受け取り、料理を独り占めしてしまう。
アイシーに咎められても料理の皿を離さない青梅が、アイシーに気を取られて皿から目を離した隙に、緑川は胡椒を大量に振りかける。電子戦隊の面々もいくつもの戦いを乗り越え、互いの信頼関係が芽生え、リラックスした雰囲気で過ごしているのが伝わってくるシーンだ。

あきらが風船売りによって目を潰されたいじめっ子たちの話を持ち出すと、チーコから話を聞いたのであろう緑川は、風船が割れた瞬間に赤いガスが流れ、目を潰された顛末を話す。
因果応報とは言え、いたずらにしてはひどすぎると怒るあきら。
一方、緑川が料理にかけた胡椒に苦しむ青梅も、いたずらにしてはひどすぎると苦しんでいた。
赤城は、この不可思議な事件がベーダー一族によるものだと直感する。

ミカと風船売りは、高層ビルの屋上に来ていた。
こんなに人が多くては、父親を見つけられないと困り果てるミカに、風船売りは自分に任せておきなさいと、風船を膨らませ、いくつもの風船を空に放つ。
風船が父親のもとに案内するのだと微笑む風船売りに、魔法使いみたいだと信頼を寄せるミカ。
だが、街中に放たれた風船は、次々に破裂して毒ガスを撒き散らし、人々の視力を奪っていた。
救急車が多数出動する現場に駆けつけた電子戦隊。
その姿を見た風船売りは、電子戦隊が動き始めたことにほくそ笑む。
電子戦隊は藤村博士が研究をしている隠れ家を知っており、風船売りは無差別に毒ガスを撒き散らすことで電子戦隊を動かし、藤村博士の居場所を探ろうとしていたのだ。

人々を救護するあきらのもとに、ミカがやってきた。ミカは一人で父親を探しに来たのだと嘘をつき、赤城とあきらはミカを藤村博士の元へ連れて行く。
ミカは風船売りとの約束で一人で来たと嘘をついており、風船売りは健気にも自分との約束を守るミカを、素直で可愛いじゃないかとほくそ笑むのだった。

その頃、ベーダー魔城では、苛立ったヘドリアン女王が、バラの花弁を引きちぎるヒステリックな様子を見せながら、ベーダー怪物・アドバルラーからの報告を待っていた。
ヘドラー将軍は、順調に作戦は進行していると女王をなだめる。
藤村博士が研究している毒ガス浄化装置が完成すれば、汚れた空気を好むベーダー一族は窒息してしまい、地球に住めなくなってしまう。
毒ガス浄化装置に危機感を募らせるヘドリアン女王に、ヘドラー将軍はアドバルラーなら必ず毒ガス浄化装置を破壊し、地上を毒ガスであふれさせるはずだとなだめ続けるのだった。

赤城とあきらは藤村博士の研究室へとミカを連れて行く。それを、風船売りが尾行していた。
ようやく完成の目処がつき、最終テストを残すだけになった毒ガス浄化装置。
そこに、ミカが研究室に入ってくる。
父親に会いたくてここまで来たミカに、藤村博士は自分の研究が終わるまでは我慢するように言ったじゃないか、と諭す。すると、窓の外から風船が研究室に入ってきた。
風船売りのおじさんが来たのだと思ったミカは、研究室を出ていく。
あきらはミカを心配して後を追おうとするが、研究室内部で風船が破裂。風船の内部に充満していた毒ガスから藤村博士や助手を庇った赤城が毒ガスを浴びてしまい、視力を奪われてしまう。
あきらはミカが危険であることを察し、あきらにミカの後を追わせるのだった。

ミカは懸命に風船売りを探すが、どこにもその姿はない。
一方、もぬけの殻になった研究室に、ベーダー怪物・アドバルラーが出現。
毒ガス浄化装置を破壊し、設計図を盗み出そうとする。
だが、毒ガス浄化装置の操作を誤ったアドバルラーは、毒ガス浄化装置から吹き出る火花を浴びてダメージを負い、あの風船売りへと姿を変える。風船売りはアドバルラーが化けた姿だったのだ。

研究室から飛び出してきた風船売りが呼ぶ声に導かれ、ミカは風船売りと再会した。
風船売りに駆け寄ろうとしたミカを発見したデンジピンクは、風船売りにデンジスティックを投げつける。このままベーダー怪物を倒そうとするデンジピンクの前に、ミカが立ちはだかった。
風船売りをいじめないでと懇願するミカに、デンジピンクは風船売りが怪物であると説得するが、風船売りは風船に姿を変えて逃亡してしまった。

毒ガスによって目の周りを固められ、視力を奪われた赤城。
だが、藤村博士が毒ガス浄化装置を操作することで、赤城の視力は無事に回復する。
ついに完成した毒ガス浄化装置で、これまでアドバルラーの毒ガス風船の被害者の回復にも目処がついた一方、完全にアドバルラーを信じてしまったミカは姿を消してしまう。
ミカはダメージを負って苦しむ風船売りの元に駆けつけると、一緒に倉庫の中に隠れる。
おじさんは悪い人かもしれない、と言う風船売りに、ミカはおじさんは自分を父親の元へ連れて行ってくれた優しい、いい人だと答える。
ベーダー怪物である自分をいい人だと言うその純真な、そして親愛の情がこもった言葉に、風船売りは良心の呵責を感じているかのような表情を見せるのだった。

そこに、ミカを探す電子戦隊の声が聞こえてきた。
風船売りはミカに、父親と一緒にいたいんじゃないのかと尋ねるが、ミカはおじさんが父親のように思えるので平気だと答える。その言葉にもまた、風船売りの心は揺れる。
ミカと一緒にいつまでも暮らせたらどれほど幸せだろう。ベーダー怪物として生きていては決して味わえない幸せに満ちた日々の想像が、風船売りの心に安らぎをもたらすのだった。

いつの間にか眠ってしまったミカの体に、倉庫にあったゴザをかけようとする風船売り。
だがそこに、ヘドラー将軍たちが現れた。
人間の少女に心を奪われたアドバルラーを叱責するヘドラー将軍に、風船売りはベーダー怪物として、最後のチャンスを与えるように懇願する。
ヘドラー将軍もそれを了承し、最後のチャンスを得た風船売りは再び風船を膨らませる。

ミカを探す途中、不審な風船を見つけた青梅。
風船には、アドバルラーからの手紙がくくりつけられていた。
娘の命を助けたければ、毒ガス浄化装置の設計図を持って野外音楽堂へ来い。
あきらは、アドバルラーを庇っていたミカを心配する。

ミカと戯れていた風船売りだが、藤村博士の到着とともにミカの体を抑える。
信頼する相手に態度を豹変されたことに怯えるミカを、風船売りは複雑な気持ちで見つめていた。
藤村博士が設計図の入ったトランクを投げると同時に、ミカは開放され藤村博士に迎えられた。
ミカと離れて暮らしたばかりに、寂しい思いをさせてベーダー怪物につけこまれたことを反省した藤村博士は、これからはずっと一緒だとミカを抱きとめる。
だが、風船売りはヘドリアン女王の命令により、藤村博士を抹殺することを宣言。
逃亡しようとした藤村博士はダストラーに囲まれてしまい、ミカも風船によって体の自由を奪われベーダーに奪われてしまう。絶体絶命の危機。
だがそこに、デンジマンが駆けつけた。風船売りはミカと設計図を持って逃亡する。

風船売りはデンジマンを脅迫すべく、ミカの身体を抱え上げ、地面に叩きつけようとする。
だが、ミカはあくまでおじさんは良い人だと、風船売りを信じ続けて涙を流す。
おじさんが大好きだというミカの言葉と涙に、風船売りは「優しさ」を知る。
ミカを開放した風船売りは、ミカを本当の「父親」の元へ向かわせる。
ミカは、おじさんはやっぱり良い人だったと告げ、去っていくのだった。

父親の元へ去っていくミカの「さよなら」という言葉を噛み締めた風船売りは、ミカが愛した優しいおじさんとしての自分に「さよなら」を告げるかのように、態度を豹変させる。
デンジマンを倒し、街という街を毒ガスで廃墟にすると宣言した風船売りはアドバルラーに変化。
風船売りとミカの別れを見届けたデンジマンも、名乗りを上げ戦いに挑むのだった。
「見よ!電子戦隊!デンジマン!!」
「抹殺せよ!」
デンジブルーが飛びかかってくるダストラーをデンジドリルで躱すものの、待ち構えていたダストラーにピコピコハンマーで叩かれまくるユニークなシーンを挟みながら、個々の得意技で次々にダストラーを蹴散らすデンジマン。
アドバルラーは風船をデンジマンたちの身体に纏わりつかせ、宙に浮かせる。
空中で風船が破裂し、地面へと落下してダメージを負ったデンジマンは、デンジタワーを組んでエネルギーを高めると、連続キックでアドバルラーを痛めつける。
追い詰められたアドバルラーは風船爆弾を次々に向かわせるが、デンジマンもデンジブーメランで対抗。だがアドバルラーはそれに耐え、巨大化した。

デンジタイガーが発進し、ダイデンジンが現れた。
ダイデンジンに乗り込んだデンジマンだが、風船爆弾攻撃はダイデンジンをも苦戦させる。
風船の毒ガスはダイデンジンの目をも潰してしまったのだ。
満足に動けないダイデンジンを、ストローのようなスティックで殴打するアドバルラー。
それを受け止め、アドバルラーを転倒させたダイデンジンは、デンジ剣で視界を覆う幕を排除し、電子満月斬りでアドバルラーを一刀両断し、戦いに終止符を打つのだった。

ミカは、風船売りを偲ぶように空に風船を飛ばした。
並んで飛ぶ2つの風船は、あたかも、仲良く並んで歩くミカと風船売りのようだった。
信頼を裏切られたミカの心を案ずる電子戦隊。
アドバルラーは、デンジマンというよりも、ミカの純粋な心に負けたのだった。

ベーダー怪物・アドバルラーは、少女の真心に触れて敗北した。
毒ガス風船に失明した人々の目に、再び光が蘇った。
だが、デンジマンの行く手には、恐ろしい敵が待ち構えている。
頑張れ!僕らのデンジマン!

アドバルラーの人間体である風船売りの情感溢れるドラマが秀逸なエピソード。
ベーダー怪物でありながら、少女との安らぎに満ちた日々を夢見てしまい、非情になりきれなかった哀れな怪物の心情を、三谷昇氏が卓抜した演技力で演じきり、ドラマに厚みを与えている。
実の父に会えない寂しさのあまり、利用するつもりで近づいたに過ぎない自らを父親のようだと慕ってしまうミカの純真な心が、邪悪の化身であるベーダー怪物の心にすら良心の呵責を与え、怪物である自分から離し、実の父親の元へ向かわせる切なさと悲哀の演出が見事だ。
そして、ミカから告げられた「さよなら」という言葉を噛み締め、自らも「さよなら」と呟くことでミカを愛した自分に「さよなら」を告げ、非情なベーダー怪物へ戻るドラマ性が非常に秀逸で、純粋な少女と怪物の交流という定番のエピソードの良さを、まっすぐに描ききっている。

今回、電子戦隊の面々の出番は控えめで、ミカとアドバルラーの交流に尺が多く割かれたことで、ミカとアドバルラーの心理描写が丁寧に描かれ名作エピソードとなっている。
ミカが空に飛ばした赤い2つの風船に自分と風船売りを重ね、風船売りとの楽しい思い出に「さよなら」を告げるラストシーンの悲哀は、あまりにも見事なものだった。

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