「電子戦隊デンジマン」第9話「死を呼ぶ怪奇電話」感想

2024年7月3日水曜日

電子戦隊デンジマン 東映特撮YoutubeOfficial

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あらすじ

売れない画家・風間雄一は、自分の絵を認めてくれない著名な画家たちに怨念を抱いていた。
ベーダー怪物・デンワラーは彼を利用し、画家たちをどんどん飲み込んでいく。
自らの行いで人が死んでいく罪の意識にさいなまれる雄一は、あきらと出会い…。

人の懊悩につけ込むベーダーの魔手 君は狙われている

今回のベーダー怪物は電話の能力を持つデンワラー。
胸に備えた黒電話のダイヤルを回すことで念力を操り、頭の受話器を通して消防署や警察署に電話して、電話した先に応じた発火や高速化などの能力を使う事が出来るユニークな能力を持つ。
身体を縮小させ、電話回線を通り自在に移動する能力を持ち、「電光超人グリッドマン」のグリッドマンがネットワークを通りコンピューター・ワールドに移動する描写を先駆けたような能力だ。

そんなデンワラーは、ヘドリアン女王が憎む美しい絵を描く画家を抹殺するために、「地獄」をモチーフにした絵画ばかりを書いて著名な画家に認められずにいた売れない画家・風間雄一の世間に認められない怨念を利用し、雄一に呪詛の言葉を囁く電話をかけさせ、電話を受けた画家へ電話回線を通って接近。巨大な黒電話となって画家を飲み込み抹殺する怪事件を起こした。

雄一はいくら恨んでいたとはいえ、自分が呪詛の電話をかけたことによって、画家が本当に次々に死んでいくことに罪の意識を覚え、苦しみ続けることになる。
自分を認めてくれない世間への劣等感に付け込み、人を殺してしまった罪の意識をも植え付けさらに苦しめる、人の心を弄び蹂躙するベーダー一族の悪辣さが描かれたエピソードになっている。

売れない画家・風間雄一は、3年連続で美術展に落選し、自分の絵を認めない社会への不満を抱きながら、妹のみやこを養うためにひっそりと生きていた。
そんな雄一は、人間に変装したヘドラー将軍とミラー・ケラーに監視されていた。
ケラーは雄一を尾行する。団地の自室に戻った雄一の部屋は、「地獄」をモチーフにした、陰鬱な絵に埋もれていた。こんな絵しか描けない自分に嫌気がさしたような顔を見せる雄一。
そこに、ケラーが声をかける。ケラーは雄一の絵を美しいと称賛する。
そして、ヘドラー将軍が変装した美術商のもとへ雄一を連れて行くのだった。

今回、ヘドラー将軍が地上に降りて自ら作戦の実行犯を演じており、続く第10話でも作戦の実行犯として現場で活躍する姿勢を見せている。作戦の指揮官だけでなく、現場での苦労も厭わないあたりが、ヘドリアン女王の信任が厚い所以なのだろう。

美術商に変装したヘドラー将軍は雄一の絵を10万円で購入する。
それは絵が売れずに苦しんでいた雄一にとっては福音だった。
ヘドラー将軍は雄一が血と怨念に彩られた絵を書き続ける限り、雄一の才能に投資したいと雄一のパトロンとなる話を持ちかける。だが、ヘドラー将軍はそこに条件を一つ付け加えた。
美術館を雄一の絵で埋め尽くすために、花や風景を描く画家を抹殺するのに協力しろというのだ。

雄一の妹・みやこは、アスレチッククラブに通う、あきらの生徒の一人だった。
テニスに励むあきらを訪ねてきたみやこは、あきらに兄を紹介する。
雄一は初めて絵が売れてギャラが入ったということもあり、いつも妹が世話になっているあきらを日頃のお礼として食事に誘う。だが、あきらはそのお金は妹のみやこのために積立て、ピアノの才能があるみやこにピアノを買う資金にしてほしいと頼む。
妹の将来を考えてくれるあきらの言葉に感じ入った雄一は、その言葉に頷くのだった。

その頃、ベーダー魔城ではベーダー怪物08・デンワラーが卵から孵化していた。
その使命は、人間世界から人間が感謝し、心の安らぎを覚える絵や画家を抹殺することだ。
ヘドリアン女王はヘドラー将軍に戦略の開始を命ずる。
ヘドラー将軍は雄一に電話をかけ、恨みを抱いている相手へ地獄の電話をかけるように促す。
そして、デンワラーに出撃を命ずるのだった。

雄一は意を決して、自分の絵を認めなかった相手への復讐のため、地獄の電話をかける。
そこには、かつて同じように「地獄」をモチーフにした絵画を描きながら世間に認めラズ、酒に溺れた自分の父親のようになりたくないという思いがあった。
雄一はかつて、絵画を持ち込んだが門前払いされた高名な画家・藤堂八郎のことを思い出し、彼を地獄の電話の標的に定め、電話をかける。
真夜中の電話に怒る藤堂八郎へ、雄一は「地獄へ堕ちろ」と呪詛の言葉を囁き続ける。
不気味な声に電話を切ろうとした藤堂だが、黒電話の受話器が手から離れず、耳には雄一の呪詛の言葉が響き続ける。そして、黒電話が巨大化したかと思えば、念力に操られているかのように藤堂の体は電話に引き寄せられていき、やがて藤堂は黒電話の中に飲み込まれてしまった。
雄一は、藤堂の苦しむ声を聞きながら呪詛の言葉を囁き続けるが、その表情には自らの呪詛によって本当に人ひとりが生命を失おうとしていることへの、罪の意識が浮かんでいた。

翌朝、藤堂八郎死亡を伝える新聞記事を読む雄一の耳に、電話の音が響く。
自らが呪詛を吐いた地獄の電話によって人が死んでいく恐怖と罪悪感が雄一を苦しめ、追い詰める中、そこにケラーが現れ、再び大金を手渡してきた。
どうやって殺したのか尋ねる雄一に、ケラーはダイヤルを回し呪文を唱えるだけで大金が手に入るのだと、世間に認められず困窮する雄一の心につけ込む。
雄一は大金を渡され恩を着せられてしまい、再び別の画家へ地獄の電話をかけてしまうのだった。

電子戦隊は、二人の画家を狙った連続惨殺事件の調査を始めていた。
あまりにも完璧すぎる手口。
犠牲者の共通点は、売れっ子の画家であることと電話に出た後に殺されたことだけだった。
黄山は電話が犯人?と思ったことをそのまま口にしてしまい、青梅に電話が人殺しをするかよ、と突っ込まれる。だが赤城はその言葉にヒントを得て、美しいものを嫌うベーダー一族が美しい絵を描く画家を嫌い標的にしたのだと判断すると、藤堂八郎たちが結成していた三人会のうち二人が殺されたことから、残りの一人である小林天山が次に狙われると推理した。

真夜中。小林天山のアトリエに、電話の音が響く。
そこで小林天山の護衛のために待機していた赤城とあきらは、地獄の電話の呪詛の声が響くと同時に、黒電話の受話器が巨大化して小林天山を襲おうとするのを目撃。
赤城はかろうじて小林天山を守ったが、巨大化した黒電話はまたしても念力で小林天山を吸い込み殺そうとする。小林天山を避難させた赤城とあきらはデンジスパーク。
電子戦隊と黒電話の珍しい戦い。
デンジレッドとピンクの攻撃で、黒電話はデンワラーとしての正体を現した。
そこに、隠れていたデンジブルー、グリーン、イエローも現れ、デンワラーを取り囲む。
だが、デンワラーは胸のダイヤルを回し、念力で電子戦隊の身体を操って包囲を抜けると、身体を縮小させ、電話回線を通って脱出してしまった。

ベーダーの言いなりになって地獄の電話をかけた雄一の心は後悔でいっぱいだった。
耳に残り離れない被害者の悲鳴に昼も夜も苛まれる彼の心は、自らが描く地獄の如くおぞましい、罪悪感からの苦しみに支配されていた。そして再び、ケラーが現れる。
ケラーは小林天山がまだ生きていることを告げ、「仕事」を果たすように強いるのだった。

車載電話を受けた小林天山の耳に、再び雄一の呪詛の声が響き始める。
たちまち小林天山の乗った車はコントロールを失い、運転手も制御できないまま暴走。
土管に衝突し停車した車から脱出した小林天山を、再び巨大な黒電話が襲う。
だがそこに、デンジブルーとグリーンが駆けつけた。
飛び蹴りでデンワラーの黒電話への擬態を解いたデンジブルーとグリーンは、小林天山を逃がすと逃亡するデンワラーを追う。だが、デンワラーは公衆電話の電話回線を通って逃げてしまった。

団地の雄一の部屋を訪ねたあきらは、雄一の部屋にピアノが運び込まれているところに出くわす。
妹のために、「仕事」のギャラで奮発したという雄一だが、みやこの顔は浮かない。
部屋に誘われたあきらはピアノの腕前を披露し、その美しさに雄一は心が洗われる思いだった。
だがあきらは、雄一の部屋に地獄を描いた絵や、黒電話に襲われ死ぬ人の絵があることに気づく。
何故地獄の絵ばかりを描くのか問われた雄一は、かつて同じ画家だった父親が、地獄の絵ばかりを書いていたが売れず、そのウサを晴らすために酒ばかり飲んで荒れていたことを話す。
不遇を味わい荒れていた父親を持ち、おそらくは恵まれた家庭環境になかった雄一が、その父と同じく画家になり、同じ地獄の絵を書いていた行動の奥底にあったのは、酒に溺れて荒れていた父親への反発心か、それとも世間に認められなかった父親の無念を晴らそうとする思いだったのか…。

みやこは、そんな兄の書く血と怨念に彩られた地獄の絵を嫌っていたが、あきらはそれを咎める。
すると雄一は、密かに書いていたあきらの絵画を見せる。
妹の面倒を見てくれるあきらの美しさに密かに憧れていたということなのだろう。
いつかモデルになって欲しいという頼みを聞き入れたあきらだが、アスレチッククラブに戻りながら、雄一の声に聞き覚えがあることについて考えを巡らせていた。

デンジランドに揃った電子戦隊。
あきらはモデルの依頼を承諾する電話をかけ、雄一の声を録音。それを小林天山にかかってきた地獄の電話の音声と照合し、地獄の電話をかけたのが雄一であることを突き止める。
後日、雄一の部屋を訪ね、絵画のモデルとなるあきらの心には、複雑な思いが渦巻いていた。
だが、そんな雄一の行動はベーダー一族に筒抜けで、雄一が血と怨念に彩られた絵ではなく、美しい娘の絵を書いている、しかもそのモデルがデンジピンク=桃井あきらであることにヘドリアン女王は激しい怒りと憎悪を見せ、雄一の処刑を命ずるのだった。

電話を取った雄一の耳に、デンワラーの呪詛の声が響く。
それでも、地獄ばかりを書いてきた父の呪縛を脱し、美しいあきらの絵を書くために生きたいと叫ぶ雄一を救うべく、あきらはデンジスパークしてデンワラーに立ち向かう。
血と怨念に彩られた絵を書く才能を持つ雄一の心を惑わし、美しいものを愛して描こうと思う心をもたらしたあきらを「過ち」であると叫ぶデンワラーの姿は、かなり恐ろしい。

苦戦するデンジピンクを救うべく、デンジレッドも駆けつけた。
デンワラーは再び縮小して電話回線を通り脱出。
そして、みやこを連れて逃げていた雄一の前に、ミラーとケラーが現れる。
ミラーは雄一にナイフを投げ、その命を奪う。
ベーダー一族にそそのかされ二人の画家の命を奪った因果応報とはいえ、ようやく暗い過去ではなく美しい未来に目を向けられるようになった雄一が殺されるのは哀しい。

ミラーとケラー、デンワラーは合流したが、そこに後を追ってきた電子戦隊が現れた。
「見よ!電子戦隊!デンジマン!!」
「抹殺せよ!」
電子戦隊とベーダー一族の決戦が始まった。電子戦隊は次々に新技を見せる。
デンジレッドはマグナムパンチでダストラーを真っ二つにする。
デンジブルーはデンジドリルの応用で敵の攻撃を回避、地中から飛び出すと同時に回し蹴り。
デンジグリーンは回し蹴りからのデンジクロスカウンターで強烈な一撃。
デンジピンクは合気道を思わせる投げ技、デンジサンダーで華麗にダストラーを投げる。
デンジイエローは両腕に力を込め、デンジスープレックスでダストラーを地面に叩きつける。
そして、5人全員でデンジパンチを次々に炸裂させ、ダストラーを一掃した。

電子戦隊はデンワラーの砲撃をデンジタワーで躱し、大きくジャンプし連続キックを炸裂させる。
デンワラーは胸のダイヤルを回し消防署に電話、火事と連絡すると電子戦隊の足元が突然炎上。
デンジジャンプでそれを躱した電子戦隊。
デンワラーは今度は警察に電話し、「脱走だ」と告げると高速移動で追跡する。
だがそこに、デンジマンは最後のトドメのデンジブーメランを炸裂させるのだった。

デンワラーは巨大化して暴れ始める。
デンジタイガーが発進、ダイデンジンが現れ、デンワラーとの最終決戦が始まった。
デンジボールで殴りつけるダイデンジンに、デンワラーは超巨大な黒電話となって襲いかかる。
ダイデンジンはデンジ剣を取り出し、電子満月斬りで黒電話を一刀両断。
デンワラーを葬り去るのだった。

兄を喪ったみやこは叔父の家に引き取られることになった。
あきらに別れを告げるみやこは、兄が描いた最初で最後の綺麗な絵、あきらの絵を手渡す。
憎しみで地獄の絵を書き続けた雄一が、愛の心で書いたただ一枚の絵。
それが、このあきらの絵なのである。

不遇を味わった父親と同じ画家、それも地獄を題材とした絵を描く画家の道を歩んだ雄一の心にあったのが、父親への恨みだったのか、父親の無念を晴らす思いだったのかは定かではない。
しかし、同じ道を歩んだことで、皮肉にも父親と同じく世間から認められない不遇を味わうことも同じ道を歩んでしまった雄一は、父親と同じく世間への怨念を抱くようになってしまった。

このエピソードでは、ベーダー一族が雄一の世間への怨念と、妹を養うために金が必要だったという事情につけ込み、絵の才能を認め大金を手渡すことで雄一に地獄の電話をかける実行犯としての役目を強いてくる悪辣さが強調されており、さらに雄一に殺人に手を貸してしまった罪悪感からの苦しみを味わわせるという、人の心を踏み躙り苦しめる邪悪としての恐怖感が強調されている。

そして、このエピソードでは一方的に利用しておきながら血と怨念に彩られた絵ではなく美しい絵を書き始めたと言うだけで即刻処刑しようとするヘドリアン女王の恐ろしさも描かれた。
ベーダー一族を率いる女王としての同族への限りない愛情と、利用価値を失った人間や敵対者である電子戦隊への非情さを併せ持つ多面的なキャラクター造形は、今回でも十全に演出されている。

父から受け継いでしまった、自分たちを認めない世間への怨念と、憎しみで地獄の絵を書き続ける呪いから最後に開放された雄一。彼の、世間に認められない懊悩につけ込み破滅させた恐ろしいベーダー一族を、許してはいけない。戦え、電子戦隊デンジマン。

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