あらすじ
水中から出現する不気味な手によって、少年スポーツ選手が次々と連れ去られた。
洋が捜索した結果、少年たちは地獄谷に囚われていることが発覚。
少年たちはそこで、ネオショッカーの怪人・サンショウジン指揮のもと、特訓を強要されていた。
サンショウジンの少年暗殺者育成計画!洋よ、少年たちを救え!
今回のネオショッカーの怪人は、サンショウウオの特徴を持つサンショウジン。
鋭い牙だけでなく、鞭を武器として活用し、その鞭で締め上げる「必殺窒息締め」は恐ろしい必殺技だ。さらに、水棲生物であるサンショウウオの怪人として、水のある場所へ瞬間的に移動する能力を持っており、この能力を駆使して次々に少年スポーツ選手を拉致している。
反面、改造前の大成できずにいた相撲取りの弟子の性格を色濃く残しているのか、性格面では酒を好む粗忽者であり、自分で仕掛けた地雷に引っかかるなどいささか間抜けな一面も持っている。
そんなサンショウジンの目的は、少年スポーツ選手を次々に誘拐し、地獄谷で過酷な特訓を強制、ネオショッカーの忠実なしもべにすることで、スイスで開かれるジュニアスポーツ大会に出席する世界各国の首相を暗殺する暗殺者として育て上げること。
水のある場所へ瞬間移動する能力を使い、プールや水たまり、水道などに現れたサンショウジンは、次々に少年スポーツ選手たちを誘拐、地獄谷で過酷な特訓を強いる。
筑波洋の友人である平井ミツコの弟である二郎もまた、少年柔道大会で優秀な成績を収めていたことからサンショウジンに狙われ、拉致されてしまうのだった。
洋は二郎や、同じくサンショウジンに拉致された少年スポーツ選手たちを救出すべく、地獄谷へと乗り込んでいく。果たして洋は、二郎や少年たちを救い、サンショウジンを打ち破れるのか。
プールで水泳の練習に励む少年が、水中から伸びた手に捕まり消息を絶った。さらに、陸上の練習中新記録を出した少年・ススムも、水たまりから伸びた手に捕まりどこかに消えてしまう。
その頃、志度ハングライダークラブの面々は、水族館にオオサンショウウオを鑑賞しに出かけていた。洋は、オオサンショウウオは水のあるところなら神出鬼没に現れる生態を紹介する。
そこに駆けつけたみどりは、全国で少年スポーツ選手が次々に消息を絶っていると洋に伝える。
その話を聞いていた、洋の友人である平井ミツコは、少年柔道大会の優勝候補である弟の二郎も狙われると危惧し、洋と共に二郎の学校へと向かった。
学校では、二郎が柔道の稽古に励んでいた。見事な一本を決めた二郎だが、練習後、水道で顔を洗っていると、水面に突然不気味な顔が浮かび上がるのを目撃する。
そして、水面から飛び出した腕に捕まり、やはり消息を絶ってしまった。
二郎の悲鳴を聞いた洋たちは、水道に二郎の帯が落ちていることを見つける。
洋は、二郎の失踪、ひいては少年スポーツ選手たちの失踪に、ネオショッカーが関わっていると直感し、ネオショッカーの怪人なら水を通って少年たちを拉致できると推測した。
サンショウジンの能力は、自分だけでなく少年たちの体ごと移動していることを思えば、体を液状化しているというよりは水を通って瞬間移動しているものと思われる。
サンショウジンの水がある場所なら神出鬼没に現れる能力の説明を、オオサンショウウオの見物に来た志度ハングライダークラブの面々の会話で説明しているのが大胆な手法で面白い。
洋は少年たちを探すため、ハングライダーで空を飛んでいた。そこに、志度博士から通信が入る。
なんでも、アリコマンドが丹沢山でサンショウウオを捕まえていたというのだ。ネオショッカーは水のあるところなら神出鬼没に現れるサンショウウオを捕まえ、それを素体に改造人間を作ることで、水のあるところに自在に現れることが出来る改造人間を作り上げたのである。
しかし、サンショウウオが水のあるところなら神出鬼没に現れるという風説が、本当にサンショウウオが備えている能力として物語が進んでいるのが、なんともパワー溢れる展開だ。
その頃、地上の川では、水中からネオショッカーの怪人・サンショウジンが出現。
洋が周囲を探っていることを察知していた。
洋は調査の結果、攫われた少年スポーツ選手たちが、地獄谷でアリコマンドに何らかの特訓を受けさせられていることを突き止めた。地元の人間ですら足を踏み入れることがない秘境である地獄谷は、ネオショッカーにとって格好の隠れ場所だった。
洋は早速山に入り、地獄谷へ突入。そして、拉致された二郎たち少年スポーツ選手が、タイヤを引かされて走らされている様子を目撃する。脱落者は容赦なく、サンショウジンやアリコマンドに折檻を受け、ひたすら走ることを強制されていた。
子供たちに残酷な仕打ちをするネオショッカーに、洋は怒りを隠しきれない。
そこに、サンショウジンに連絡をするゼネラルモンスターの声が響いてきた。
サンショウジンは、スイスで開かれるジュニアスポーツ世界大会までに、少年たちを暗殺者として仕立て上げ、ネオショッカースポーツ少年部隊を結成しようとしていた。
ジュニアスポーツ世界大会には、各国の首相が招待を受けており、ネオショッカーはそこに暗殺者として育て上げた子供たちを送り込み、各国の首相を暗殺しようとしていたのだ。
純真な子供たちを利用し、暗殺者にしようとする非道に怒る洋だが、今すぐ飛び出せば子供たちに犠牲が出てしまう恐れがあるため、迂闊には飛び出せずにいた。
ネオショッカーは少年たちに、地獄のハードル走を強制していた。
ハードルに触れれば、高圧電流が走り感電する。そして、ハードルを飛び越すのに失敗すれば、槍衾に体を貫かれてしまう。そして最後には、地雷原へ向けて走らなくてはならない。
生き残るためには、地雷の爆発より早く、地雷原を駆け抜けなくてはならないのだ。
あまりの非道に洋が憤っていると、そこに志度ハングライダークラブのミチが現れた。
洋一人では心配だと、助けに来たらしい。
そうこうしている間に、子供たちは地獄のハードル走を開始させられていた。
子供たちのひとりがハードルに触れてしまい、感電して負傷してしまう。
そして、地雷原の突破訓練が始まった。
サンショウジンは子供たちに見本を見せるかのように地雷原に足を踏み入れるが、うっかり地雷を踏みつけてしまい、爆発でダメージを負ったことでその日の訓練を中止にする。
恐ろしい能力を持つサンショウジンだが、どこか間の抜けたところがあるようだ。
洋とミチは、訓練が中断させられている間に、子供たちを救出する決意を固めるのだった。
サンショウジンのアジトでは、サンショウジンが酒を飲む中、訓練で上位の成績を収めた二郎やタケシ、ススムの三名の少年たちが、豪華な食事を与えられていた。
一方、その他の少年たちは、地下牢の中で粗末な食事を与えられ、二郎たちを羨望の眼差しで見つめる。そんな視線に晒された二郎たちも、まともに食事など摂れなかった。
サンショウジンは、地下牢の少年たちに、悔しかったら訓練で上位の成績を収めろと高笑い。
そんなサンショウジンに、二郎は水を飲むために外出する許可を申請した。
酒を飲んだことで判断力が落ちたのか、サンショウジンは上位の成績を収めた二郎を特別扱いして外出の許可を出すのだった。やはり、どこか間が抜けている。
アリコマンドの監視下で、川へ水を飲みに出た二郎。そこに、洋が助けに現れた。
アリコマンドを排除した洋は、二郎にサンショウジンの様子を尋ねる。
アジトに戻った二郎は、サンショウジンにお酌をし、酒を飲ませて酔い潰させた。
そして、その間に洋をアジトに潜入させ、子供たちを地下牢から開放させる。
だがそこに、サンショウジンが慌てて目を覚ました!
「おのれ、筑波洋!俺が酔ってると思ってぇ~!」
洋は格闘戦の果て、サンショウジンを滝壺に叩き落とす。
そして、ミチや子供たちと共に、地獄谷を脱出すべく山越えを始めた。
だが、サンショウジンももちろん、簡単に子供たちを逃がすつもりはない。
追手としてアリコマンド部隊が出動し、洋たちを追跡する。
洋はミチと子供たちを先に行かせると、仮面ライダーに変身してアリコマンドを足止めした。
アリコマンドを排除した洋は再びミチや二郎たちと合流。
ロープを張って崖を登り、懸命に地獄谷を脱出せんとする。
しかし、ネオショッカーの地獄の訓練で消耗した子供たちの体力も限界に近い。
洋は懸命に子供たちを励まし、一人の脱落者も出さずに登山道まで辿り着いた。
だが、タケシとススムの2人が、足に擦り傷を負って歩くのが困難になってしまう。
洋はツワブキ草で傷の応急処置をすると、他の子供たちに、タケシとススムの2人に手を貸して共に脱出するように促す。だが、子供たちはあろうことか、サンショウジンに特別扱いを受けていたという理由でタケシとススムに手を貸すことを拒否した。
二郎はこの発言に失望し、一人でタケシとススムを助けようとする。
洋はこんな時にいがみあっている子供たちを叱り、共に助け合って脱出することを促すのだった。
追手のアリコマンド部隊が迫る中、子供たちの体力はついに限界に達した。
だが、山の麓の町ももう近い。洋とミチは懸命に子供たちを励ます。
そこに、志度博士とみどりが救援に駆けつけた。
志度博士たちの励ましを受け、子供たちは最後の力を振り絞り町へ急ぐ。
だが、後列を歩いていた二郎が、地面から伸びたサンショウジンの手に捕まり、地中に引きずり込まれて拉致されてしまった。洋は二郎を救うため、山道を引き返す。
洋は仮面ライダーに変身、スカイターボに乗って山道を急ぐ。
サンショウジンはアジトの扉を閉め、二郎をアジトに閉じ込めた。
仮面ライダーはスカイターボを飛ばし、ライダーブレイクでアジトの壁を粉砕する。
アジトに侵入されたサンショウジンは、ついに最終決戦に挑むのだった。
サンショウジンは仮面ライダーを羽交い締めにし、アリコマンドに次々に飛び蹴りを行わせる連携攻撃を仕掛けるが、仮面ライダーは羽交い締めを脱し、アリコマンドの飛び蹴りはサンショウジンに誤爆する。アリコマンドはさらに、地雷を持って特攻を仕掛けてきた。
するとそこに、なんだか良くわからないが、足を怪我したらしく松葉杖をついている飛田今太が通りかかる。前回、ネオショッカーオートバイ部隊に突っ込まれて骨折したのだろうか…。
そこでアリコマンドを見つけて、カメラを構えた飛田今太だが、仮面ライダーが跳ね飛ばした地雷が飛んできて、爆発に巻き込まれるのだった。山の中まではるばるご苦労さまでした。
サンショウジンは仮面ライダーの首を絞め、必殺窒息締めで仮面ライダーを攻める。
だが、仮面ライダーはそれを跳ね飛ばし、必殺のスカイキックを直撃させた。
スカイキックで吹き飛ばされたサンショウジンは、子供たちを恐怖で震え上がらせた地獄のハードルに突っ込み、高圧電流で感電、青い光とともに消滅するのだった。
過酷な特訓を強制し、地獄のハードルで子供たちを脅したサンショウジンがそのハードルによって滅ぶのは、因果応報の構図でなかなか味わいがある最期だ。
二郎を救出した仮面ライダーは、高熱に苦しむ二郎を背に乗せてセイリングジャンプ。
仮面ライダーによって病院に運び込まれた二郎は一命をとりとめた。
ミツコも無事に二郎と再会し、他の子供たちも無事に町まで辿り着く。
目を覚ました二郎は、仮面ライダーの背に乗って空を飛ぶ夢を見たと笑うのだった。
ネオショッカーの野望から、仮面ライダーは少年たちを救った。
少年たちは、仮面ライダーと過ごした冒険の日を、生涯忘れないだろう。
ありがとう、仮面ライダー。負けるな!僕らの仮面ライダー!
今回のエピソードは、後半、それまでのメインライターを勤めてきた伊上勝氏に代わり、シリーズのメインライターを務めることになる江連卓氏のシリーズ初参加作品。
江連氏のヒーロー作品における哲学である、「改造された人間がすごい力で敵をやっつけるのではなく、体を鍛えられるだけ鍛えて、考えられる限りのことを考えて、そうして敵に打ち勝つ」という主義は、シリーズ初参加となる今回のエピソードで既に描かれており、洋が子供たちを励まし、共に助け合って脱出することを教えるため、先頭に立って地獄谷の自然を越えていく姿や、生身でアリコマンドの追手を食い止めるシーンが描かれており、シリーズ初執筆にして早くも自らの「仮面ライダーシリーズ」における作風を確固たるものにしていることが窺える。
そうしたヒーローに対する確固たる哲学を持った骨太の脚本が評価され、伊上氏降板後のシリーズ後半のメインライターに抜擢されたのだろう。
子供たちが過酷な特訓を強制され、暗殺者に仕立て上げられるという、リアリティを感じさせるシビアな設定が描かれたエピソードだが、そんなシビアな空気を吹き飛ばすように、酒好きで高評価を治める少年を依怙贔屓するサンショウジンの人間味溢れる描写も魅力的だった。
改造人間とはいえ、元は人間であり、言動に人間味がにじみ出ていても不思議ではない。
おどろおどろしいだけでなく、どこかコミカルな描写を怪人に付与することで、作品全体を娯楽色の濃い陽性なイメージへと転換していく、そうした転換期であることも感じさせる。