「仮面ライダースーパー1」第6話「助けて―くもの巣館の恋人たち」感想

2025年5月17日土曜日

仮面ライダースーパー1 東映特撮YoutubeOfficial

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あらすじ

愛を誓いあった若者たちが、ドグマA級怪人・スパイダーババンによって次々と空に消えていく。
スパイダーババンはドグマに忠誠を誓う者たちだけが住む「美しい村」建設のため、そこに住む住民として選ばれた若者たちを攫い、その能力を試す過酷なテストを強制させていた。
そして、「美しい村」に住む人間たちの優れた子孫を残すため、恋人たちを引き裂き、ドグマ式相性テストで導き出された相手と強制的に結婚させようとしていたのである。
その計画を探る一也とハルミは、変装して自ら罠にかかり、スパイダーババンの懐に潜り込む。

愛を選ぶ自由は何処へ?人々を管理する、恐怖のドグマ式恋愛テスト!

今回のドグマ怪人は、蜘蛛の特質を備えた怪人であるスパイダーババン。
ドグマ怪人の中でも上位に位置する、ドグマA級怪人という強敵である。
また、ドグマファイターの精鋭から選ばれた、土蜘蛛ファイターという直属の部下を持つ。
刀を使った戦いを得意とし、鋼鉄製の蜘蛛糸を使うことで、空中を歩いているかのように移動し、後述する、ドグマに選ばれた若者たちの拉致を行った。

そんなスパイダーババンの任務は、闇の王国ドグマや帝王テラーマクロに忠誠を誓う者だけが住む「美しい村」を建設するべく、一方的に選出したカップルたちを拉致すること。
そして、拉致したカップルに過酷なテストを強制することでドグマ社会への適合性や精神力、身体能力を測定し、彼らに「美しい村」に住むに相応しい子孫を残させるべく、ドグマ式相性テストで優秀な遺伝子を残せる相手と、一方的に結婚相手を決定してしまおうと目論んだ。
悪の組織が結婚相手を強制するとだけ書くとユーモラスにも思えるが、人間の自由意志を無視し、優秀な遺伝子を残させることだけを目的とした、優生思想にも基づく恐怖の作戦である。

結婚式を控えていたハルミの友人もスパイダーババンの毒牙にかかり、一也とハルミはカップルを装ってスパイダーババンを誘い出し、スパイダーババンの懐に潜り込もうとする。
だが、ハルミが拉致されてしまい、ハルミを人質にされて抵抗できない一也は、人斬り扇風機の上で宙吊りにされ、力尽きれば肉体を斬り刻まれる処刑にかけられてしまうのだった。
一也はこの危機を脱するべく、赤心少林拳の修行で得た極意を思い返す。
果たして一也はスパイダーババンを倒し、若きカップルたちの未来を取り戻すことが出来るのか。




幸せな逢瀬を楽しむ若いカップルが、突然空から降ってきた糸に絡め取られ、空に消える事件が多発した。良に正拳突きの稽古をつけていた一也も、谷モーターショップに戻ってその事件を知る。
親友が結婚式を挙げることになっていたハルミは親友たちを心配し、一也に2人の護衛をお願いする。そして翌日。結婚式を無事に終えたハルミの親友たちもまた、空から降ってきた糸に絡め取られ、空へと消えていった。一也は、その前兆のように現れた、蜘蛛の巣の影を目撃する。
この一連の事件がドグマによるものだと予感した一也は、どうしても親友を助けたいと願うハルミとともに恋人を装い、ドグマの懐に入り込もうとする。

その翌日、恋人に扮し、街なかを練り歩く一也とハルミ。
ハルミはこれが本当のことなら良かったのに…と浮かれ気分だ。
すると一也の狙い通り、一也たちめがけて空から糸が降り、一也たちを空へ引き上げ始めた。
そしてその上には、空の上に立つドグマ怪人・スパイダーババンがいた。
「俺様は、ドグマA級怪人、スパイダーババン様だ!囮になって、アジトを突き止めようとしても、そうはいくか!貴様はここから、地上に突き落としてやる!沖一也!お前はドグマ手配No.1の男だ!地獄へ落ちろ!」

ハルミを残し、一也の体を絡め取る糸が切れ、一也は地上へ落下した。
一也は変身の呼吸によってスーパー1に変身し、この危機を脱する。
だが、ハルミは空中を歩いていくスパイダーババンによって攫われてしまった。
スーパー1はブルーバージョンを呼び、ドグマのオートバイ部隊を追う。
数台の車を一気にジャンプで飛び越えるシーンが挿入され、レース用の車両をベース車両にしたことで実車でのハイジャンプ撮影を実現したブルーバージョンの性能が見事にアピールされている。

だがスーパー1の行く手に、スパイダーババンの直属の部下である精鋭部隊、土蜘蛛ファイターが現れた。スーパー1は「螳螂拳・稲妻落とし」で土蜘蛛ファイターを撃破。
そして、レーダーハンドを使い、スパイダーババンの行く手を探るものの、土蜘蛛ファイターの攻撃によってレーダーハンドのレーダーアイが故障しており、スパイダーババンの行く手は掴めなかった。そこで一也は研究所に戻り、チェックマシーンでレーダーハンドを修理する。

谷からの情報で、KM産業というペーパーカンパニーが怪しい研究所を作ったことを知った一也は、急ぎKM産業の研究所へ向かう。そこでは、スパイダーババンに連れ去られた若いカップルたちが、「ドグマ式相性テスト」と称する実験を強制されていた。
それは、ドグマの理想社会のモデルケース、「美しい村」に住む住民を選び出すための、ドグマ社会への適合度や教養度、そして肉体検査を行う悪魔のテストだった。
それに疑問を呈したハルミは、質問を許されず高圧電流を流される拷問を受ける。

ぶら下がった態勢での耐久力や、大音量が流れる環境でのストレス耐性をテストされる若者たち。
一也は彼らを救うべく、アジトの内部へ潜入し、メガール将軍の演説を目の当たりにする。
「君たちは!我がドグマの美しい村の名誉村民として来てもらった!エリートなのだ!」
もちろん、若者たちがそれに納得するはずもない。だが、メガール将軍は演説を続ける。
「お前たち人間どもは!好きとか嫌いとかで結婚相手を決めるようだが、それは愚かなことだ!我がドグマは、全ての能力を調査し、ドグマ式相性テストで相手を決める!」
悪の組織が結婚相手にまで介入するとだけ書くとユーモラスにも思えるが、個人の自由意志を無視し、組織の管理する相手とした婚姻を許さないという点で、ドグマの理想社会とは、優生思想に基づいた管理社会でしかないことを強烈に描いた、ドグマの恐怖を強調する展開だ。
「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」のデスティニープランのように、個人の自由意志を無視して管理者が決めた「運命」に従うことを強制させるものと思えば、その恐ろしさが伝わってくる。
当然、若者たちはそれに反発するが、メガール将軍は感情で相手を決める愚かさを説く。
「我がドグマは!優れた子孫を残すために、一番いい組み合わせを作ってやっているのだ!」

そしてドグマ式相性テストは、大暴風雨に対する耐久テストと称した水責めの拷問に至った。
多くの若者が疲弊する中、ついにそれを見かねた一也がアジト内部へ乗り込む。
見張りのドグマファイターを蹴散らした一也は、若者たちが囚われた牢を破壊しようとするが、隠れていたスパイダーババンの繰り出した鋼の蜘蛛糸に絡め取られてしまう。
そして一也は鋼の蜘蛛糸によって宙吊りになり、「ドグマ刑罰・地獄落とし」にかけられる。
前回といい、沖一也はなんだか宙吊りにされる事が多い。

「ドグマ刑罰・地獄落とし」とは、体を縛り上げる複数のロープを一本ずつ切断していき、やがて宙吊りにされた下で回転する人斬り扇風機によって体をずたずたに切断される処刑だ。
本当に、捕らえた相手をじわじわと苦しませて処刑することが好きな組織だ。
スパイダーババンは次々に沖一也の体を縛るロープを切断していく。

もはやこれまでか。追い込まれた一也は、玄海老師との修行の日々を思い出す。
修行のさなか、吊り橋に宙吊りになった一也は、玄海老師の薫陶を受けていた。
「一也!死ぬと思う心に怯えるな!怯えれば見るものは見えず、聞くものは聞こえんぞ!心を虚しゅうして心身を大気と一体化せよ!しかるのち、身を天命に委ねるのじゃ!」
そして、一也は吊橋から落下した。しかし、身を天命に委ね、過酷な修行を生き抜いたのだ。
その修行を思い出した一也は、人斬り扇風機から生き延びるには、扇風機の中央に飛び降りるしかないことを悟る。そして、スパイダーババンは最後のロープを切断。
落下した一也は、見事に扇風機の中央に飛び降り、死中に活を見出したのだった。

しかし、迂闊にもその処刑を最後まで見届けなかったスパイダーババンは、ドグマ式相性テストで導き出した相手同士を強制的にカップルにすることに夢中だった。
若者たちは恐怖のあまり逆らえないまま、無理矢理にカップルを組み合わせられていく。
「理想的なカップルの誕生だ!お前たちはドグマ美しい村の、名誉ある村民だぞ!」

しかしそこに、スーパー1の声が響く。
「スパイダーババン!お前たちの勝手な美しい村など、断じて作らせんぞ!」
スパイダーババンが声のする方を見ると、なんと、スーパー1が空の上に立っていた。
スーパー1が冷熱ハンドの冷凍ガスを噴射すると、空に蜘蛛の巣が浮かび上がった。
スパイダーババンは特殊な蜘蛛の巣を張り巡らせて、空の上を歩くように見せていたのだ。
空を歩くトリックを見破られたスパイダーババンは怒り、鋼の蜘蛛糸を放つ。
だがそれも、冷熱ハンドの超高温火炎で焼き尽くされた。

スパイダーババンは土蜘蛛ファイターの群れをけしかけるが、スーパー1はそれを撃退。
怒りのスパイダーババンは、刀を持ってスーパー1に自ら襲いかかる。
しかし、スーパー1の鋭い蹴りが、刀を弾き飛ばした。
激しい攻防の果て、スーパー1の「スーパーライダー閃光キック」が炸裂。
スパイダーババンもまた、帝王テラーマクロへの忠誠を叫び散った。
悪夢のようなドグマ式相性テストから開放された若者たちに、スーパー1は叫ぶ。
「皆、ドグマの検査など気にするな!その代わり、幸せになるのも、不幸せになるのも、君たち自身の責任だ!皆、幸せを祈る!」

あらためて、ハルミの親友は結婚式と披露宴を挙げた。
ハルミも、早くお嫁にいきたいとぼやく。取り戻した一時の平和が、そこにあった。

ドグマが打ち立てようと目論む理想社会とは、優生思想に基づいた管理社会でしかないという、ドグマの掲げる理想の恐ろしさを改めて強調したエピソード。
ドグマ式相性テストとは、結婚相手を決めるだけでは済まない、相性テストで失格になれば奴隷にされ、自らの意思で生きることも許されないディストピアを建造するものにほかならないのだ。

前回といい、一也を捕らえたにも関わらずいまひとつ詰めが甘いドグマ。
だが今回の一也の勝因は、赤心少林拳の修行を思い出し、死の恐怖に打ち勝って死中に活を見出したことだろう。人間が体と心を極限まで鍛え、自らの恐怖に打ち勝ってこそ勝利を手に入れることができるというメッセージは、「スーパー1」らしさにあふれたものだ。
変身して得た凄い力で苦境を打開するだけでなく、人間として心と体を鍛えたからこそ、苦境を突破し勝利を収めることが出来る。「拳法」がテーマならではの素晴らしい作劇だった。

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