あらすじ
「メタルダー、今こそヘドグロスの恨み、晴らしてやる…!」
愛するモンスター、ヘドグロスを倒したメタルダーに復讐の炎を燃え上がらせるウィズダム。
だが、そこにネロス帝国の刺客の影が群がり、罠が忍び寄る。
ウィズダムはヘドグロスへの愛の証のため、その身を滅ぼすのか。
夢に殉じて散った男 愛のために生きる女 夢を繋ぐため戦う超人機
今回は、第9話「夢みるモンスター!十字砲火の恋人たち」に続く、モンスター軍団最下層の軽闘士、ヘドグロスと彼を愛したモンスター軍団の奴隷女、ウィズダムの愛と夢のドラマを中心に展開していく、藤井邦夫氏脚本の「モンスター」3部作の真ん中となるエピソード。
第9話において、愛するウィズダムと幸せに暮らすという夢のために孤立無援のままメタルダーと戦い、夢に殉じて散っていったヘドグロス。
一人残されたウィズダムは、愛する者の命と夢を奪ったメタルダーへの復讐を目論んでいた。
一方で、メタルダーは堂々と自らに挑戦し、幸せな未来への夢のために燃え尽きたヘドグロスの生き様から、人が持つ未来への夢を守るために戦うという強い決意を学んでおり、彼の真摯な心がメタルダーに遺したものが、ウィズダムと彼女が宿した新しい命を救うことになる。
最下級の戦士として周囲に蔑まれ、孤立無援の状況の中、愛するウィズダムと共に幸せに暮らす夢のために単身で堂々とメタルダーと戦い、命を散らしたモンスター軍団軽闘士・ヘドグロス。
「俺は必ず…夢を…ウィズダム!!」
一人、ゴーストバンクのヘドグロスのねぐらに残されたウィズダムは、彼の形見である耳飾りを手に、在りし日のヘドグロスの姿を想い、メタルダーへの復讐の念を燃やしていた。
メタルダーを倒すことが、ヘドグロスへの愛の証。
悲壮な覚悟を固めたウィズダムの耳に、ゴッドネロスの声が響く。
力を持たない奴隷でありながら、どうやってメタルダーを倒すのか問われたウィズダムは、唯一の武器である自らの爪をメタルダーのメインコンピューターに打ち込み、切り裂くと答える。
他に武器もなく、力もないにも関わらず、メタルダーへの復讐の念だけで戦おうとするその執念に興味を抱いたゴッドネロスは、ある作戦を思いつき姿を消す。
ウィズダムはモンスターとしての姿を現し、ゴーストバンクを出るのだった。
剣流星と仰木舞は、新たな生命に溢れた自然を満喫していた。
野兎や野鳥が新たな生命を育て、平和を謳歌する安らかな世界。
剣流星は、神秘的で美しい自然に、感動を覚えていた。
ゴーストバンクでは、ゴッドネロスが4軍団の長を集めていた。
ゴッドネロスはヨロイ軍団長・凱聖クールギンに、メタルダーの既知を突き止めることを命ずる。
クールギンは諜報活動に優れた忍びの技を持つ戦士、爆闘士・ガラドーを呼び出した。
クールギンはさらに、軽闘士である「影」を3人呼び出すと、剣流星の元へ向かわせる。
メタルチャージャーで舞を街まで送る剣流星を、ガラドーと3人の「影」が尾行していた。
マネキンや看板に化け、街に紛れ込む「影」の視線を感じ取った剣流星は、シルバーカークスへ向かう道すがら、メタルチャージャーを停めて「影」を誘き出す。
姿を現した「影」の襲撃が始まった。手裏剣や刀を駆使し、空中、地中と休みなく襲ってくる「影」の立体的な攻撃に苦戦する剣流星。
ワイヤーに捕まった剣流星は電流を流されるが、素早くメタルダーに瞬転して脱出する。
「影」の放つ光の針を躱したメタルダーは、「影」の身体を掴むと、投げ飛ばして倒す。
尾行を撒いたかに思えたメタルダーだが、まだガラドーが機を伺って隠れていた。
メタルチャージャーに戻った剣流星は、そこでウィズダムと遭遇する。
ウィズダムは、未だ剣流星を追跡する者がいることを伝えると、ネロス帝国から脱走してきたのだと訴える。そこに、尾行を暴かれたガラドーが襲いかかってきた。
奴隷のモンスターが自分の作戦をふいにしたことに怒るガラドーは、爆発する手裏剣を投げ攻撃。
ウィズダムは爆風に吹き飛ばされ、崖から転がり落ちてしまう。それを見た剣流星は瞬転した。
「剣流星の体内に秘められた全エネルギーが、感情の高まりとともに頂点に達した時、彼は、超人機メタルダーに瞬転する!」
メタルダーの手刀とガラドーの拳が交錯した。
ガラドーは口から火を吹き、メタルダーが怯んだところに素早い動きで攻め立てる。
さらに、4人に分身して襲いかかるガラドー。だが、メタルダーは実体は一人であると判断し、メインコンピューターの分析でガラドーの実体を察知。ガラドーを掴んで投げ飛ばしたメタルダーはトドメのレーザーアームを放つが、ガラドーは姿を消して撤退した。
後にメタルダー自身もネロス帝国の「影」や忍者のことを学習して分身の術を使えるようになるが、その学習にはこのガラドー戦の経験も活かされているのだろう。
崖から転がり落ちたウィズダムは、メタルダーに発見され難を逃れた。
安全なところに隠れるべくウィズダムを連れて歩くメタルダーは、ウィズダムの身体から鼓動音が2つあることに気づく。それはウィズダムがモンスターだからか?と不思議に思うメタルダー。
だがウィズダムは、この時自分の胎内にヘドグロスの血を引く新しい命が芽生えたことを知った。
ゴーストバンクに戻ったガラドーは、モンスター軍団の奴隷によって自分の作戦が失敗し、その奴隷がメタルダーと通じていると報告していた。
クールギンは、この失敗がモンスター軍団長である凱聖ゲルドリングの責任だと追及するが、ゲルドリングは奴隷のやったことなど自分には関係ないと追及を躱す。
だがゴッドネロスは、そのの奴隷は自分の作戦通りに動いており、メタルダーの基地を突き止めるのはその作戦の囮に過ぎなかったがため、ヨロイ軍団のみを動かしたのだと言い放つ。
女性ならばメタルダーも油断し、女性の恨みと執念ならばメタルダー抹殺をも果たす。
敵を欺くにはまず味方からが常道であると言うゴッドネロスの言葉に乗り、ゲルドリングはモンスター軍団の囮として利用されたヨロイ軍団を「鎧を着た餌」だと嘲笑いながら去っていく。
自分たちを囮として利用され、そのために「影」の軍団を失ったことに憤るガラドー。
チューボは辛いのは貴様だけではないとガラドーを制するが、クールギンは自分が率いる軍団の面子に関わるこの一件の落とし前をつけるべく、仮面の下である決意を固めていた。
洞窟に身を隠した剣流星とウィズダム。
剣流星はウィズダムに、何故ネロス帝国を脱走したのか、理由を聞く。
ウィズダムは、愛するヘドグロスのことを語り始めた。
地位が低く、いつも皆に馬鹿にされ、でも自分には優しくしてくれた。
誰も本当の彼を知らないまま、彼はいなくなってしまった。
ネロス帝国にもいろんな者がいることを知る剣流星。
意を決したウィズダムはモンスターとしての正体を現し、剣流星に襲いかかった。
「メタルダー、今こそヘドグロスの恨み、晴らしてやる!」
「ヘドグロス!?」
「お前とたった一人戦い、燃え尽きたヘドグロス!忘れたとは言わせない!」
ヘドグロスの名を聞いた剣流星は、ヘドグロスの最期の言葉を思い出し、眼の前にいる女が、ヘドグロスが最期に名を呼んだウィズダムであることを悟る。
「ヘドグロスは私との幸せな生活を夢見て戦ったのよ!ヘドグロスの夢、私が叶える!」
剣流星を攻め立てるウィズダムだが、突然つわりに苦しみ始めると、人間の姿に戻る。
愛する者の復讐を果たせない悔しさと哀しさで、ヘドグロスの名を叫ぶウィズダム。逃亡したウィズダムを追った剣流星は、ヘドグロスがウィズダムに遺した耳飾りを見つけるのだった。
シルバーカークスに戻った剣流星は、視覚センサーから取り入れた情報を記録するコンパクトビデオディスクに記録されたデータを、シルバーカークスのコンピューターで分析していた。
突然苦しみ始めたウィズダムの映像をコンピューターで解析した結果、ウィズダムの胎内には赤ん坊が宿っており、新たな生命が生まれようとしていることが判明する。
スプリンガーは、ウィズダムがモンスターになって戦おうとしても、母親としての本能が子供を庇い、戦いを中断させて人間の姿に引き戻したのだろうと推測する。
ウィズダムの胎内にヘドグロスの子が宿っていることを知った剣流星は、ヘドグロスが愛するウィズダムに遺した耳飾りに込められた想いを悟るのだった。
ヘドグロスが遺した耳飾りを落としたことに気づいたウィズダムは、洞窟に引き返していた。
赤ん坊が動くと母親としての本能によって戦えなくなり、愛するヘドグロスの仇であるメタルダーにドドメをさせない悔しさに、ウィズダムは身を引き裂かれんばかりの悲しみを覚える。
そこに、ガラドーが大勢の「影」を引き連れて現れた。劇中では語られていないが、クールギンがヨロイ軍団の面子を潰したウィズダムを消すために送り込んだのだろう。
ヨロイ軍団を「囮」であり「餌」として利用してヨロイ軍団の面子を潰しながら、メタルダーを倒すことにも失敗し、メタルダーに助けられておめおめと生きながらえているウィズダムに、もはや刺客としての価値はないと断じたガラドーは、「影」の軍団とともにウィズダムに襲いかかる。
ウィズダムの作戦をヨロイ軍団に伝えずに、ヨロイ軍団を囮として使って戦力を無駄に消耗させて反感を買うことで、ヨロイ軍団とモンスター軍団の軋轢を無駄に生じさせたゴッドネロスは、策士策に溺れるという言葉がふさわしい。
また、ウィズダムの行動は奴隷が勝手にやったことと言っておきながら、それがゴッドネロスの命だとわかれば囮にされたヨロイ軍団を嘲笑うゲルドリングの人格面にも多大な問題がある。
前回登場したビックウェインが、ネロス帝国からの脱走者を大勢処分してきた過去があったというのも、上層部がこんな調子では脱走者が多く出ても仕方がない、という気はする。
ガラドーは、ウィズダムのみならず、彼女を愛したヘドグロスをも、技も力もない薄汚い存在と罵り罵倒する。ウィズダムのために死んだ「影」の恨みを晴らさんとするガラドー。
ウィズダムを探していたメタルダーは、ガラドーに襲われた彼女の悲鳴を聞きつけ、駆けつける。
メタルダーはウィズダムを救うべく、ガラドーや「影」の軍団と戦う。
ウィズダムを連れ、包囲網を突破したメタルダー。
ウィズダムはそれでも、愛するヘドグロスの恨みを晴らすべくメタルダーに襲いかかろうとするが、メタルダーは彼女はもう戦えないと諭し、ヘドグロスが遺した耳飾りを返却する。
もうネロス帝国にも戻れないウィズダムに、赤ん坊のためにも、ヘドグロスのためにも、新しい命を大切にするべく、安全なところに隠れて生き延びるように諭すメタルダー。
「ウィズダム。生まれてくる赤ん坊に、父親は一人で立派に戦い、自分の夢に殉じて燃え尽きた男だと、伝えてやるんだ」
ウィズダムは、愛するヘドグロスの生命を奪った仇であるメタルダーだけが、誰も認めてくれなかったヘドグロスの夢に殉じた信念を認めてくれた大いなる矛盾に心を引き裂かれ、慟哭する。
「影」の軍団が迫る中、メタルダーはウィズダムを行かせ、一人「影」の軍団を迎え撃つ。
「影」の軍団の包囲網を突破し、メタルダーはそれを指揮するガラドーへ向かっていく。
メタルダーは戦った。
運命に翻弄されたヘドグロスとウィズダムとの間に誕生する、新たな命を守るために。
「君の青春は輝いているか」2番をBGMに、自らを逃がすために死地へ飛び込んでいくメタルダーを呼ぶウィズダムの声が響くなか、夢のために生きて燃え尽きた男の血を引く新たな生命を守るため、「影」やガラドーと戦うメタルダーの姿が大きな感動を呼ぶラストシーン。
「夢を果たすまで 一歩も退くな」。「君の青春は輝いているか」が歌うその言葉通り、どんなに蔑まれても、愛する者と幸せに暮らす自分の夢を果たすために戦い、燃え尽きたヘドグロス。
夢に殉じて生きたその姿に、古賀竜夫の平和な世界への夢を未来へ繋いでいくために自分は戦うと学んだメタルダーは、愛する者を幸せにしてやりたいというヘドグロスの夢をも未来へ繋ぐ決意を固めたために、ウィズダムに生きて子供とともに幸せに暮らすように諭したのだろう。
ヘドグロスが抱いたウィズダムの幸せという夢を叶え、その夢を未来に繋ぐために。
誰からも蔑まれた愛するヘドグロスのことを、ただ一人認めてくれたのが愛する者の命を奪ったメタルダーであったことが、ウィズダムにとって救いだったのかはわからない。
ヘドグロスの仇である憎しみと、堂々と戦ったヘドグロスを認めてくれたことへの感謝。
この2つの感情の矛盾が、ウィズダムを慟哭させた。
だが、夢に殉じたヘドグロスを倒したものの、その戦いの中でヘドグロスの夢を理解し、その夢を未来へ繋ぐために自らを救おうとするメタルダーの優しさは、ウィズダムにも伝わったのだろう。
メタルダーの決死の行動でなんとか逃亡に成功したウィズダムはその身を隠し、夢に殉じて戦った勇敢な戦士・ヘドグロスの血を引く息子を産むことになる。
彼女たち親子の運命は、なおも運命のうねりの中にあるのだった。
いわゆる怪物の雑魚キャラであるモンスター軍団の最下級の戦士であるヘドグロスを主役に、運命のうねりの中で愛する者との幸せを掴もうとした生命のドラマを描く圧巻の展開は、敵キャラクターの描写に重きをおいた「超人機メタルダー」ならではの展開だ。
また、この回のラストシーンにおいて、ウィズダムを逃がすために戦うメタルダーと、ガラドーと「影」の軍団の決着が描かれずに終わる演出も異色作としてのムードを高めている。
ガラドーとの決着は描かれなかったが、メタルダーが負けるはずはない。
彼は、夢に殉じて生きた男の夢を、未来へ繋ぐ使命を背負った「夢の戦士」なのだから。